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終章:それでは桜の木の下で【完結】
――かくして、カインやリーベら一行はアケドラル城へと戻った。
だが城内は案の定、収拾がつかないほど混乱しており、予定はすべて先送り。そのまま数日が過ぎ国際会議の最終日、魔王たち一同はアケドラル城から遠く離れた 〝彼の地 〟 に姿を見せていた。発案者は西の魔王クローズ。最終日に「花見でもしよう」と言い出したのである。
季節は夏。花見の季節ではない。
だが、この世界には〝年中桜が咲く唯一の場所〟が一つだけ存在する。北の国のさらに北――誰の領土でもない丘に。
真っ青な空の下、薄桃色の花を冠した大樹。緑の丘に敷物が広がり、各国の要人たちが酒を手に笑い合う。
「ということで乾杯じゃーー!!」
サファメイの景気の良い声が響き、宴は勢いよく幕を開けた。
先送りになった会議も、この親睦会の話が出た瞬間から妙にまとまりがよく、全員の「終わらせたい」気持ちが一致したのだろう。驚くほどスムーズに今日を迎えることができた。
「いやぁ、なんだかんだあったが丸く収まって良かった良かった」
「えぇえぇ、本当に。あの時はどうなるかと思いましたが……結果的には何事もなくて嬉しい限りです。えぇ本当に」
ご機嫌な東の魔王の隣で、ハクイが棘棘しい言葉を返す。
それを横目に、北の魔王は改めて思う。
(……やはり苦手だな、あの男は)
そして自分の左に座るシュケルへ小声でこぼした。
「シュケル、余の隣がお前で良かったとつくづく思う」
「はい? ……あぁ、こちらこそ魔王さま」
夏だというのに、丘には春の風が吹き抜けた。
桜の大樹が揺れ、花びらが踊るように空へ舞う。
「桜吹雪って言うけど、本当にそうだな~俺、初めて見た!」
真っ青な瞳を輝かせるカインが花びらを両手で受け止める。
「冬の吹雪は雪だけど、春の吹雪は花びらなんだなぁ~スッゲー綺麗」
はしゃぐ声にカボチャが怒鳴った。
「スッゲーじゃない。カイン! なんで君がここにいるんだ!!」
「いいじゃんか別にー。ほら、あっちにリーベたちも来てるし。魔王がいいって言ったんだぞ」
確かに少し離れた場所で、東の魔王と例の厄介な面々が楽しそうに宴をしていた。
「そもそも君はいつになったら帰るんですか!!」
「こないだ言ったじゃん。俺こっちに住むって。魔王から良い返事ももらいたいし」
カボチャは酒を一気にあおる。
(じょおおおだんじゃああないぞ! いつまでもいつまでも城に居座り続けられたらこっちの精神がすり減るわ!!)
本当ならとっくに強制送還しているはずだが〝帰してもまた戻ってくるだけ〟という確信が魔王達にはあったため、いっそ言い出すまで城で預かっている状態だ。
「くっそぉ~魔王さまも大概コイツに甘いんですよ~~」
「フフフ、貴方も大概だと思いますけどね」
シュケルのくすくす笑いに、カボチャはさらに酒をあおる。
その時――。
「なーなーカボチャ……って、 アンタ誰!?」
隣にいたはずのパンプキンお化けは消え、代わりに何処か童顔さのある精悍な顔付きにしっかりとした体格の青年がそこにいた。
「誰もなにもあるか。さっきの姿は子供姿に被り物してたんですよ。身体が酒に耐えられないから大人姿にしたんです。なんか文句でもあんのか」
ぶつぶつ言う青年の姿に、カインはぽかんと口を開ける。
(……確かに背も俺よりデカイし子供姿より髪も長いし、筋肉ついてるし……)
ガシガシと触るカインを赤い瞳がギロリと睨む。
「ベタベタ触るんじゃない!」
「いやだって、すげーなって……どうなってんの?」
「うっさいわ!」
「その顔で〝僕〟と〝ですます口調〟なのか?」
「ほっっっといてくださいボケが」
北の魔王が思わず笑う。
「楽しそうだな」
「楽しくないです!」
そう言いながらカボチャは魔王とシュケルの間へ乱暴に割り込み座った。
「それより魔王さま、あの小僧どうするつもりですか? そもそも魔王さまに気があるって知ってたんですか」
カボチャが言うのは例の求婚のことだ。
脈絡もなくカインが魔王へプロポーズしたあれ。
「いや正直さっぱりだ」
「なのに即答できたんですか? 僕なんて混乱してシュケルの胸ぐら掴んだくらいですよ!」
「まぁ、時を止めたからな」
「はい???」
魔王は事も無げに言った。
「突然過ぎて条件反射で時を止めていた。あの状況と流れだ。流石に理解が追い付かなくてな、小一時間ほど考えてから時を動かした。そのせいで直ぐに答えたように見えたのだろう」
「そうだったんですか」
カボチャが驚く横で、シュケルが珍しくクスッと笑った。
「シュケル、貴様、気付いてましたね!」
「教えるほどのことでもありませんから」
くすくす笑うシュケルに、カボチャは胸ぐらを掴んで揺さぶる。
そこへカインが満面の笑みで魔王とカボチャの間に割って入った。そして魔王を見上げて
「と、言うことで俺と結婚してくれ!」
「何故そうなる」
魔王は眉間を押さえつつ深いため息をついた。
すると今度はリーベがやってきた。
「ねぇねぇ、そんなに好きなの? なんで好きになったの?」
女の子らしく輝く瞳でたずねる。
宴参加者も、聞いていないふりをしながら、こりゃ面白いとこっそり耳を傾けていた。
「だって命の恩人だし、ピンチの時は必ず助けてくれるんだぜ? 惚れない方がおかしいだろ?」
そう言って魔王の腕にしがみつき――
「それと!」
胸を張り、全員に向けて言った。
「顔がいい!」
…………。
丘の空気が一瞬止まる。
そんな理由? と思いつつその場の全員が魔王の顔をじっと見つめ、妙な沈黙の中、一人が「ほんっとうだ……」と小さく呟いた。
「確かに!」「今まで気付かなかった!」「全くもって!!」
一人が言うとまるで波のようにその場の者達の声も次々に上がる。
魔王の痣のせいで誰も〝素顔〟をしっかり正面から見たことがなかったのだ。
「あー、有り難いのですが世辞はそれくらに……」
国際会議の宴を取材しに来ていた魔族の記者達がこれは面白い記事が書けそうだと写真を撮り始め、場はさらに混乱を極める。
「……言わなきゃよかった」
カインは急に不安になって、ついに叫んだ。
「ダメダメダメダーメ! 魔王は俺んのだからなー! 全部消せ、 写真全部消せーー!!」
だが、もう遅い。
カインは魔王に涙目で訴える。
「せめて婚約だけでもしてくれよー!」
春風が桜を吹きあげ、花びらが舞った。
魔王はわたわたと自分を隠そうとするカインを見て、思わず笑って
「断る」
そして、いつもの返答で締めくくった。
◇◇◇
ここはアケドラルと呼ばれる世界。
そんなアケドラルの北の国のやはり北には魔族が、南には人間が住んでいました。
魔王に恋をした少年が〝勇者〟を名乗って家を飛び出した――あれから十年。
かつての少年は立派な青年になった。
そして今ようやく想いが実りはじめるのだが――
それはまた、別のお話。
彼らはもう紙飛行機がなくとも、互いの傍らで語ることができるのだ。
◇ おまけ ◇
「そういえば俺、魔王の名前知らないや」
「言ってなかったか」
「うん」
「……あまり言いたくないのだが。そうだな……〝セオドア〟だ。神からの贈り物という意味らしい」
「へぇ、それってつまり……魔王は神様から俺への贈り物ってことだな!」
「……全く、お前には恐れ入る」
【魔王と勇者の紙ヒコーキ!~少年と物語の始まり~】おわり
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