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番外:水晶の朝とメイド服(下)

「ところでさ!」 「いや待てカイン、僕の話が先」 「なんでしょうカイン」 「おいコラ、シュケル、貴様無視すん」 「なんで魔族の女性って赤い髪に緑の瞳の人ばっかなんだ?」  カインの質問にカボチャは「何を今更」と言って顔をしかめたが「そう言えば教えてなかったか」と呟くと、シュケルより先にカインに答えた。 「カイン、いいですか。人間と違って、魔族の女性は必ず赤い髪に緑の瞳で生まれてくるんです。総じて赤の魔族と呼びます」 「え、そうなの? ん、ちょっと待てよ。だとしたら黒髪と白髪の魔族ばっか見掛けるのは」 「そうですよ。僕や魔王さまみたいに生まれながらに黒髪赤眼は黒の魔族、シュケルのように生まれながらに白髪(はくはつ)紫眼(しがん)は白の魔族です。そして察しの通り全員男」 「やっぱり、どうりで……あれ、でもリーベのとこのマールって人は、髪は灰色で目は青かったような」 「あれは灰の魔族ですね。彼らは男にも女にもなれるんですよ。ただ本人達は生まれながらに自身の性別を思い込んでいる事が多いので、こちらから性別に関してとやかくいうのは厳禁ですよ。マナー違反ですから」 「へ~そっか。わかった!」  カインは「気を付けるぜ~!」と大きな声でモップがけをしながら走って行くと、女性の使用人に声をかけて次の掃除場所の話をしながら離れて行った。 「もしかしなくとも、仕事なんかより先に、常識から学ばせるべきか……」  カボチャはそんな事を呟いた。だが直ぐに思い直したのか(かぶり)を振る。 「ん、シュケル?」  そしていつの間にかシュケルがその場から姿を消していると気付いて辺りをキョロキョロと見回した。 「な、僕の質問にも答えず……! あんのやろう~そもそも僕の仕事は掃除じゃないんですよ! 書類仕事だって溜まってるんです! おいコラそこのお前にお前にお前も! 全員コソコソ油を売ってないでさっさと持ち場に戻れバカもんが! てかお前には朝から街の様子を見てくるように言ったでしょう! なんでまだいるんだ!」  コソコソ様子を見ていた自身の部下をキッと鋭く睨み付け、箒を指し棒の代わりに振り回し、檄を飛ばすカボチャ。  それを合図に、仕事をする振りをしていた面々が蜘蛛の子を散らすように動き出す。  ふ~やれやれとこめかみを押さえて、律儀に箒を片手にカボチャもその場を離れる。すれ違う者に好奇の目を向けられるたび「なんか文句でも?」と威嚇しながら。    水晶がポカンとその様子を眺めていると、後ろから声がかかった。 「フフフ、ここにいましたか」  振り返るとそこには水晶の主、シュケルがいた。 「朝の散歩は終わりましたか?」   頷く代わりに差し伸べられた手へと水晶は飛び乗る。 「では水晶に今日の任務です」  水晶はピシッと水晶なりに姿勢を正してシュケルを見上げる。  その様子にシュケルはふっと微笑んだ。 「カインの様子を見ていて貰えますか?」  手の平の上でくるっと回って合点承知の水晶。  そのままシュケルの手の平の上からポーンと床に転がり降りると、カインが消えて行った方向にコロコロと追いかけた。    ◇◇◇     「――あえて聞く、いったい何をしているんだ?」  一日中カインの姿を追いかけて、何事もなく見守っていた水晶だったが、夜になってそれは起きた。   「セオドアの部屋の掃除~! どうだ綺麗になっただろ? 俺清掃業のバイトもしてたことあるからさ、こういうの得意なんだぜ!」  寝台の下からコソコソと二人の様子を窺う。   「いや、そうじゃない。お前の服装だ」 「あぁこれ仕事着」 「それはわかっている。そうではなくてだな、その服は」 「意外と似合うだろ?」 「どうだろうな……」  魔王は心底呆れた顔だ。なんなら眉間を押さえて頭が痛そうにしている。  しかし夜着に着替えて寝ようとした矢先、寝室の奥にメイド服姿のカインがいたのだから無理もない。 「もう掃除はいいだろう。余は寝るからお前も部屋に戻れ」  魔王はそう言ってカインを部屋の外へ出した。  部屋の灯りを消して寝台へと横になる。  だが次の瞬間「えい!」という掛け声と共に追い出した筈のカインがドスッとのしかかる。 「……おい」    魔王はまた眉間を押さえた。   「なぁ一緒に寝てもいい?」 「断る。と言いたいがどうせ聞かんだろう……仕事着のまま寝るなよ」 「安心しろよ。俺寝る時は服着ないぜ!」 「そこは着ろ」 「えー! 寝間着なんて持ってねーもん」 「風邪を引いても知らんぞ」 「しょーがねーなぁ」 「しょうがなくない」 「なぁ魔王の服借りていいか?」  魔王はすっかり諦めた顔をして「…………もう、勝手にしてくれ」と呟いた。  カインは適当に寝衣を引っ張りだし、その大きすぎる服に着替える。適当に長過ぎる箇所を結んで、それでも裾を引きずりながら布団の中へと潜り込んだ。  魔王の隣にぴったりとくっついてカインは嬉しそうに笑う。   「えっへへ~」 「風呂には入ったのか?」 「来る前に入ったぜ!」 「何がそんなに楽しいんだ」 「ぜんぶ」 「それは良かったな」 「うん」  魔王は疲れたとばかりにため息をつく。   「ところでさ」 「今度はなんだ?」 「そんなに俺のメイド服姿、変だったか?」 「そうだな」 「マジか、おっかしいなぁ。他の皆は似合うって言ってくれたんだけど」 「そうじゃない。あの仕事着は女性用の服だ」 「え、そうだったの?」  カインは知らなかったと驚いた。 「あ、でも言われてみればそうか。なんで俺気付かなかったんだろう」 「何かきっかけでもあったのか?」 「きっかけって言うか。ただ居候するんじゃ悪いからと思って、掃除でもしようかとロワに相談したんだ」 「何故そこに……」  ロワというのは先日の国際会議の宴にもいたリーベという娘の父親のことである。つまりは東の魔王の伴侶だ。  彼も人間なので、あれからカインと何かとやり取りしているらしいのを水晶も知っていた。 「普段とは違う姿を見せれば少しは見てくれるんじゃないかって、例えばメイド服とか」 「…………」  魔王はそれを真に受けたのかと言いたげな顔で絶句している。 「ま、いいや。にしてもさぁ。やっぱり、魔王の服は俺には似合わねぇよな。デカ過ぎるし」   へらりと苦笑するカインに魔王はふっと微笑する。   「変に着かざったところで何も変わらん。普段のお前のままでいればいい」 「それって、普段の俺が好きってこと?」    何がなんでもそっちに持って行くのかと、ガクッと肩の力が抜けた魔王は眉間に皺を寄せながら「あぁそうだ。そうだな、うん。そうだ。違いない」と言いながら布団に深く身を沈めて、それを追いかけるように「待った待った」とカインが布団を引っ張る。  その一部始終を見ていた水晶はこっそり部屋を出た。  今日も平和で良かった良かったと、コロコロと転がってシュケルの部屋に戻る。  すると部屋ではシュケルが水晶の帰りを待っていた。   「フフフ、何かいいことでもありましたか?」    水晶は頭にはてなを浮かべる。   「とても幸せそうな表情をしていますよ」  その言葉にきょとんとした水晶だったが、すぐにまた><と嬉しそうに左右に揺れてシュケルの手にぴょんっと飛び乗った。 ◇◇◇  魔王の腹心といつも一緒の良き相棒――水晶の朝は早い。  きっと今晩も水晶はニコニコと幸せそうに、すぴーと可愛い寝息を立てて眠るのだろう。  そして明日もきっと早起きしてみんなのことを見守ってくれるのだ。   ◇おまけ◇   「シュケル、貴様ぁあ、昨日言ってたのはつまりこういうことですか!?」  翌日、水晶が見たのは……メイド服を不恰好に着た大人姿のカボチャだった。 「……そういうことではないですね」  珍しく苦笑するシュケル。その顔を見たカボチャの「はあああああ!?」という盛大な声が城内に響き渡る。  その声は庭にまで響き 「おぉ、あれはカボチャ様の声ですな」  庭師は今日もあの花時計の前にいた。  昨日(さくじつ)入れ替え忘れた最後の苗を花時計にそっと植えると、また黄色い蝶々がひらりと現れる。   「気に入ったかい。この花に名を付けた方もさぞお喜びになるでしょう。ねぇ……〝リアン様〟」  そう呟いて、晴れやかな空を見上げたのだった。 ***************  水晶の朝とメイド服 おわり ***************  

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