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第2話|王様は、とんでもないことを言い出した
豪華な、けれどどこか殺伐とした玉座の間。
高い窓から差し込む光は冷ややかで、空気中には埃と、そして互いを牽制し合う王子たちの毒々しいまでの野心が充満していた。そこには、僕と同じ血を引いているはずの「王子」が100人、整然と並んでいた。
列の先頭、1番目の王子は、彫刻のような筋肉をキンキラキンの鎧に包み、まるで自分が次期国王であると疑わない様子で胸を張っている。
それに比べて僕は、一番後ろ。100番目。絨毯の端さえ届かない、石床が剥き出しの最後尾だ。ヨレヨレのシャツと、手入れを放棄した「蘭茶色」のぼさぼさ頭。周囲の兄たちからは、視界に入れることすら拒絶されている。
玉座に座る「父上」と呼ばれる男――この国の王は、まるでお昼の定食のお品書きを決めるような軽いノリで、とんでもない宣告を口にした。
「さて、我が息子たちよ。魔王が復活した。そこで、お前たちに『魔王討伐』を命じる。最も早く魔王の首を持ってきた者が、次期国王だ」
王子たちが一斉にざわめく。勇み立つ者、冷笑を浮かべる者。
けれど、王の言葉にはまだ続きがあった。その一言が、場の空気を一瞬で凍りつかせる。
「ただし。王になれなかった残りの99人は、全員『処刑』する」
……。……。……はい?
「あの、質問よろしいでしょうか」
僕は思わず手を挙げていた。32歳のサラリーマンとして培われた、悲しい性(さが)だ。理不尽なプロジェクトや、明らかに達成不可能な納期を突きつけられた時、とりあえず「確認事項」として食い下がってしまう癖が抜けない。
「なんだ、100番目。黙って聞いていればよいものを」
「王になれなかったら、処刑……というのは、その、物理的に命を落とす、つまり『死ぬ』ということで相違ないでしょうか?」
「左様。王の地位を脅かす火種は、早めに消しておくのがこの国の伝統だ。弱き者に生きる価値などない」
伝統、万能説かよ。僕は内心で深いため息をつき、絶望に浸った。前世のブラック企業の社長だって、「今月のノルマ達成できなかったら死んでもらうから」とは言わなかった。せいぜい「明日から来なくていいよ」という、社会的な抹殺を宣告されるくらいだ。
この国、ホワイトかブラックかで言えば、光さえ飲み込む漆黒の極夜だ。
「予算は1番目から順番に配分する。100番目のお前には……そうだな。そのあたりに転がっている銅貨10枚をやろう。せいぜい、自分にふさわしい死に場所でも探すがいい」
チャリン、と無造作に床へ投げられたのは、現代の価値に直せばせいぜい1000円程度だろうか。
1000円で魔王を倒せ?牛丼を2杯食べて精をつけ、余ったお釣りを魔王の顔面に投げつけろとでも言うのか。
「ブラック企業より条件がひどいじゃないか……」
僕は膝をつき、惨めに散らばった銅貨を一つひとつ拾い集めた。
背後で兄たちの嘲笑が聞こえる。執事の冷ややかな視線が背中に刺さる。けれど、蘭茶色の髪の下で、僕の脳細胞は急速に回転を始めていた。
普通にやったら、100%死ぬ。
僕には、1番目の兄上のような軍隊も、伝説の聖剣も、派手な魔法の才能もない。あるのは、理不尽な上司(王)と、寝首をかこうとする同僚(兄たち)と、そして雀の涙ほどのお金だけ。
……けれど、僕は知っている。予算がなければ、知恵を絞ればいい。戦う力がなければ、仕組みを作ればいい。
「……やるしかないか。どうせ一度は死んだ身だ」
僕は、100番目の王子として、そして32年間の「泥沼を生き抜く生存戦略」の専門家として、最初の一歩を踏み出すことにした。
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