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第5章:主の居ぬ間に(3)
アルダスが作る薬は主に二種類。一つは飲み薬で、風邪に効くようだった。もう一つは塗り薬で、傷や腫れに効くらしい。
メモしたレシピを眺めながら、材料と器具を並べる。まずは飲み薬から。材料となる薬草を正確に測って細かく刻み、温度計とにらめっこしながら、小鍋でじっくりと煮出す。その中には鎮痛効果のあるスファレニカも含まれていた。最後に消炎効果のある薬草を入れて火を止める。良い感じに成分が抽出されているのが色や匂いで分かった。
この後は濾過だが、アルダスは一回だけで終わり。だから、出来上がった飲み薬も濁りがあってドロッとしている。これでは飲みづらいだろう。成分が抽出されたら、薬草そのものは不要なのだ。
何度も丁寧に濾すと、透き通った色の液体になった。ここに羽虫が集める蜜を混ぜて飲みやすくする。それを煮沸した瓶に等分して入れたら完成だ。湊は製薬会社で働いた経験を思い出して、胸を弾ませていた。
「春原。おまえ、薬を作るセンスがあるな」
そんな言葉が耳元で蘇る。そう褒めてくれたのは誰だったか。伊堂寺ではない。なぜか石動の声で再生されて、湊は被りを振った。
休む間もなく、塗り薬に取り掛かる。こちらも不純物が混ざらないように器具を洗うところから始める。獣の油に皮膚を修復すると言われる花びらを浸し、湯煎でじっくりと成分を移す。そこへ、乳鉢ですりつぶした毒消し草を混ぜたら、あとは濾すだけ。それでも、全部出来上がる頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
心配になったのだろう。クォークの母親が店まで迎えに来た。
「あんた、一人で何をやっているんだい」
「アルダス様が倒れてしまったので、代わりに薬を作ったんだ」
そう言って、湊は出来上がった薬をクォークの母親に見せる。彼女は一瞬驚いた表情をしたが、すぐにため息をついた。
「勝手に作って怒られないのかい?」
湊はアルダスに「余計なお世話だ」と言われたことを思い出す。だからと言って、作らなければ、注文していた客に断らなければならず、がっかりさせるだろう。店の信用問題にもかかわる。
「こんな時こそ弟子が頑張らなきゃいけないんだよ」
そう言って自分を奮い立たせる湊を、クォークの母親は憐れむような眼差しで見つめていた。
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