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第12話 Crescendori#1

『こんばんは。帰国したので、今日は半年ぶりに自室からの配信です。雑談して、ピアノ弾いて、雑談して、ピアノ弾いて、みたいな感じで軽くやろうかな。リクエストがあれば、雑談中にコメントしてもらえれば』  昴が帰国して三日が経つ。理月は会食を終えてハイヤーに乗り込み、イヤホンを着けて昴のライブ配信を流し始めた。画面上には、ピアノ椅子に座りカメラに顔を向けて喋る昴の姿が映っている。  配信は今まさに始まったばかりで、現時点の同時接続者数は十万人。登録者数二百万人のうちの五パーセントがリアルタイムで観ているようだ。気まぐれで急に配信を始めてすぐさまこれだけ人が集まるというのは凄いことだと思う。 『今回の滞在地はイタリアでした。って、イタリアでも配信してたから、今観てくれてる人は大体知ってるか。イタリア、楽しかったよ。イタリアでも新しく仕事が入って、ピアノに関係するような、そこまで関係してないような、そんな感じの仕事をしてきたんだけど、情報解禁は来月……十一月の二十日頃だったかな? ちょっと恥ずかしいんだけど、楽しく仕事出来たから、楽しみに待っててもらえると嬉しいです』  昴はそう言って笑みを浮かべ、海外からの視聴者に向けて殆ど同じことを英語でも口にする。  どんな仕事を受けたんだろうと思いつつ、コメント欄を表示した。おかえりのコメントや投げ銭、流行りのJポップや洋楽、ゲームやアニメの音楽のリクエストが様々な国の言語で並んでいる。わざわざ配信でリクエストしなくとも聴けるから、リクエストは送らずにコメント欄を閉じた。 『んー、じゃあ、コメント見た感じリクエストが多かった曲からひとつ。僕が楽曲提供した曲だね。僕、こういうハッピーなラブソングって好きだな。悲しいのより、僕は明るい方が好き。弾きまーす』  昴はタイトル名を口にしてピアノに向き直ると、英語歌詞のラブソングを口ずさみながら弾き始めた。口ずさんでもピアノの音で掻き消えるから歌は全く聴こえないけれど。ピアノソロ用にアレンジをふんだんに入れていて、昴らしいきらきらした音が響く。  サビは『君と居るだけでこんなに幸せ』だとか『何気ない瞬間が宝物になる』とかそんな感じだったな、と頭の中で歌詞を思いだしながら聴いているうち、ハイヤーがマンションの前に辿り着く。ありきたりと言うか、よくありそうな歌詞だけれど、そういう気持ちは理月も共感出来るから結構好きだ。配信画面を流したままスーツのポケットにスマートフォンを突っ込んで、演奏を聴きつつ自宅に戻る。 「ただいま」  玄関で軽く声を掛けても、昴の部屋は防音室になっているから外から声が届かない。そもそも自分の声が入ってしまっては困るから、気付かないでくれて良いけれど。  そのままライブ配信をイヤホンで聴きつつ自室へ向かい、スーツのジャケットを脱いでウォークインクローゼットのハンガーにきちんとかける。配信は後で続きから観ることにして、先にシャワーでも浴びようと脱衣所に赴いた。浴室でさっとシャワーを浴び、ゆったりしたルームウェアに着替える。髪を乾かし終えてもまだ配信が続いているようだったから、リビングのソファにひとり腰掛けた。  テレビを点けて先ほど止めた続きから配信を流し、それをBGMに読書を始める。五分ほど経ったところで、廊下の方からドアを開閉する音が小さく聞こえた。手にしていたビジネス書から視線を上げるとちょうどリビングの引き戸が開き、昴が顔を覗かせる。 「りっちゃんおかえり~。今日もお疲れさま――うわ、テレビにも僕が居る。ダブル昴だ」 「うん、ただいま。さっきの配信、今聴いてるとこ」 「本物がここに居るんだからそっちはもう良いでしょ。動画止めて、僕と話そうよ」 「まだ曲の途中なのに」  昴がソファの隣に腰掛けて口を尖らせるもので、口を尖らせてそう返す。すると昴にパッと手を掴まれ、手を引かれてソファから立ち上がらされた。 「じゃあ向こうで生演奏してあげるから、りっちゃんが読書する間のBGMにして。生演奏の方がお得だよ。リクエストもなんだって聞いてあげちゃう」 「それ、お得っていうか、贅沢って言うんじゃない? 昴の生演奏、一人で聴くなんて贅沢だよね」 「贅沢っていうか、これはりっちゃんだけの特権。じゃ、僕の部屋に行こー」  手を引かれるまま昴の部屋まで連れられて、理月は昴のデスクチェアに腰掛ける。昴はピアノの椅子へ腰掛けた。

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