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第21話 星降る夜に#2

「わあ……綺麗だね。本当によく見える」  肉眼で見る昴――プレアデスは、都内の公園から肉眼で見上げる程度だとギリギリ分かる程度だ。けれどレンズ越しのプレアデスは肉眼よりもずっと鮮明に青白い光がきらきらと見えて、まるで夜空に散りばめた宝石のようだった。  真っ暗な夜空にはっきり浮かび上がるコントラストの対比が美しい。肉眼では見えない多数の小さな星々が星団の周りに広がっていて、ただ綺麗だ。 「でしょ。この望遠鏡、父さんのお下がりなんだけど、お気に入り。ちっさい頃に、この望遠鏡で昴を見せてもらって……綺麗だなーって感動した。僕の昴って名前もお気に入り」 「初めて逢って名前を聞いた時、僕も本当に綺麗な良い名前だなって思ったよ。昴にぴったりの良い名前だなって」 「嬉しいなー。僕も星の昴みたいに、きらきら光れてたら良いんだけど。それとも、ちゃんと光れてたのかな? だからりっちゃんに見付けてもらえたのかな」 「昴との出会いは、光ってたから見付けた……っていうより、彗星みたいなものだけどね。あれは昴が僕にぶつかってきた、って感じだろ。昴の音は彗星みたいに、剛速球で光ってたよ」  一昨年の春を思い出し、くつくつ喉を鳴らして笑った。昴との出逢いは本当に、青天の霹靂の彗星のようだった。 「僕もあの時、りっちゃんが光って見えたよ。お月様みたいな人だな、って。それから、名前も。本当に綺麗だなって思った。ほら、この間『りっちゃんがもっと納得出来る理由を考える』って言ったの覚えてる? それで、りっちゃんが納得出来る理由を考えてみたんだけどさ」  望遠鏡を覗き込む理月の隣に立ったまま、昴は言葉を続ける。 「やっぱり僕は、単純に月が好きなんだよね。衛星だっていう知識はあるけど、それだけ。りっちゃんが好きな『月光』だって、月があるから生まれたわけじゃん? たくさんの芸術家が月を想って曲を作ったり、絵に描いたり、物語にしたり……月ってたくさんの人に愛されてる存在だよね。僕も月が大好き。単純に、眺めてると綺麗だなって思うし。沢山の人が綺麗だって思うから、この世に月をモチーフにした作品がたくさんあるんだよ。月が光って見えるのは太陽の光を反射して光っているから――っていうのは常識だけど、惑星なんてみーんなそうじゃん。自分で光ってるのは恒星だけでさ。光ってない新月の時も、僕は好きだな」 「新月が好きなのはなんで? 全く見えないのに」 「静かな夜って感じで良いなって。僕はあんまり新月に対して悲しいとか寂しいってイメージは無くて、隠れてる時も優しいイメージがあるなあ。暗い夜道を明るく照らしてくれる存在でもあって、優しく夜の闇で覆い隠してくれる存在でもある、みたいな。そんな感じしない? ほら、内緒話する時とかに良さそう」  昴はそう言って理月の横にしゃがむと、耳元に手を当ててこしょこしょと囁いてきた。くすぐったさに身じろぎして、望遠鏡から目を離す。ちらりと昴に目を向けると、ぱちりと視線が交差した。目が合えばふにゃりと柔らかく笑いかけられ、釣られてふっと頬が緩む。 「りっちゃんが納得出来る理由を考える、って言った割に『僕は月が好き』としか根拠が出せないんだけど。何かに対してどういう印象を持つかは個人の自由だし、りっちゃんが月を嫌いでも仕方ないとは思うんだけどさ――でも、自分の名前にマイナスなイメージがあるのって、嫌だろうなって思うし。だから、りっちゃんも好きになってくれたら良いなって思う。月は『昴が好きなもの』ってことにして、イメージ上書きしてみない?」 「昴は優しいね。それから、ロマンチスト。そういうところがピアノの音色に現れてるのかな。昴が好きになってくれるなら、月も悪くないなって思えてくる」 「好きだよ。ずーっと好き。月もりっちゃんのことも。星の昴は恒星だから自分で光ってるけど、月の光には全然敵わない。僕はりっちゃんが月光を弾いてる姿を見て――本当に、月みたいな人だなって思った。今夜は夜空に月が出てないけど、僕にとってりっちゃんはいつでもぴかぴかに光ってるお月様だから、今日も月が綺麗だなあって思う。りっちゃんのことが大好きだよ」  昴は微笑んで理月を見つめ、そう口にした。 「僕より昴の方が、ずっと凄いだろ。過大評価だよ。でも、ありがとう。衛星じゃなくて、昴が好きな月だって思うと、自分の名前が良いものに思える」 「りっちゃんがそう思ってくれたら、僕も嬉しい。僕は、りっちゃんの『理月』って名前、すごく好きだよ」  昴は笑みを浮かべたまま、けれど少し眉を下げてそう返す。そして「じゃあ、本格的に色々観て行こっか?」と続け、プラネタリウムの生解説よろしく望遠鏡を交互に覗きながら星の解説を始めた。解説を聞きながら時折質問してみては、昴のすらすらとした返答に感心する。    昴が理月の名前について真剣に考えて、天体観測に連れて来てくれたのだろうと感じて嬉しかった。そんな昴のおかげで、複雑な思いを抱いていた自身の名前が、ようやく好きになれた気がした。    これが昴との初めての天体観測で――後になって思えば、多分、初めての昴からの告白だった。

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