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番外編①(8章〜終章の間) 月までの距離、約三十八万キロ#2
「ふはっ! 昴のそういう論理が飛躍しているようで飛躍してない突飛なところ、好きだよ」
笑ったままちゅっと軽くキスされて、触れた口唇が熱くなる。
「突飛かなあ? 僕の中では、論理が通ってるんだけど。やっぱり人間に生まれて良かったあーってしみじみ思う。キスしてもらえるし、キス出来るからね」
「論理は確かに通ってるけど――ん……」
キスをし返して、口唇をぴったり触れ合わせた。口唇をちゅうっと吸って、上下の口唇の間を舌先でちろりと舐める。もっと触れたくて、右手で腰を抱き寄せた。開いた隙間から中に舌を割り入れ、綺麗に並んだ歯列に丁寧に舌を這わせていく。
出逢った日と同じ制服に身を包んでいるから、なんだか少しの背徳感。あの日覚えた恋は今もなお燃えている。
十二年が経った今も変わらず、理月の肌は青白く見えるほど透き通って白く、髪は艶々の濡羽色だ。うっすらとピンクに色付いている薄い口唇から小さく吐息が零れ、涼やかな切れ長の目は熱を帯びている。
あの日、理月の笑った顔が見たかった。おどけて、或いは無自覚にたくさん笑わせた。綺麗な思いだけじゃないと分かったのは案外すぐで、頭の中で理月を汚してしまうことに少しの罪悪感を抱いていた。
まだ幼い頃、幾度となく思い浮かべた景色を腕に抱いている。
「はぁっ……昴のスイッチはどこにあるのか分からないな……さっきまで、普通に話してたのに……」
そっと口唇を離すと、呆れ交じりの蕩けた声が返された。苦節の末ようやく実った初恋だから、がっつくのは許してほしい。待てをされれば、ちゃんと待つから。
「スイッチ点きっぱなしだよ。フツーに話してる時だってりっちゃんにチューしたいもん。人間だけど、昴だからさ。星の昴と同じで、ずーっと燃えてる」
「プレアデスは燃焼が激しいから寿命が短いらしい、って、昴が前に教えてくれたよね。長生きしてほしいから、こまめにオンオフしてほしいな」
「じゃあ、玄関のライトと同じで自動で点くやつってことにしよう。人感センサーで勝手に点くやつ。りっちゃんを感知すると点灯する昴スイッチね。僕はスイッチオンなんだけど、りっちゃんは?」
左手を理月の頬にそっと添え、目尻を下げて問い掛ける。理月も目を細め、はにかんだ笑みを浮かべて昴の頬を両手で包んだ。
「僕も準備万端だよ。お互い高三にも、高一にも見えないけど……高校生に戻った気分で、たくさん甘やかさせて」
「制服姿のりっちゃんに甘やかしてもらえるなんて、興奮しすぎてどうにかなりそう」
どちらからともなく口唇が触れ合って、引き合うように身体がくっつく。右手で理月の腰を抱いたまま、倒れないように支えて一歩、また一歩とベッドに足を進めた。キスを続けたまま三歩歩いたところで理月の脹脛がベッドにこつんと当たり、お互いベッドに身体を乗り上げる。部屋の電気を消して、サイドテーブルに置いたナイトライトの明かりを点けた。
仰向けに寝転んだ理月に覆い被さり、きちんと留めた理月のボタンを片手でぷちぷちと外していく。 白いシーツの上に、黒い髪と黒い制服がよく映える。照れたような、恥ずかしげな顔がまた奥ゆかしく、はっきり言ってゾクゾクした。
「制服、今でも本当によく似合ってる。彗上学園の高嶺の王子様で、月みたいに清純で物憂げで、僕の初恋を一瞬で攫っていった麗しの君のまんまだ」
「それ、ボタンを外しながら言うこと?」
理月は気恥ずかしげな顔のまま、揶揄うようにくすっと笑う。理月の制服の上着のボタンを外し終え、中に着たワイシャツのボタンに手を掛けた。
「あの頃の君のまんまだから、純情な高校生だった頃の僕がやりたかった夢を今叶えてるんだよ。キャソックみたいに見える学ランを脱がせて、布で覆われた素肌を露わにして、触れたくて堪らなかった」
「チワワみたいに可愛かった頃の昴に、そんな風に思われてたとは、当時の僕は知らなかったな――あっ……」
全部きっちり留めたワイシャツの一番上のボタンをぷつんと外し、白い首筋に顔を埋める。口唇を肌にくっつけて舌を出し、下から上に向かって舐め上げる。大好きな低くて優しい声が少し高く、甘く震えた。
「さっきはカッコいいチワワだって言ってたのに。まあ、もうチワワじゃないことは分かってくれてると思うからいいけどさ」
「ん……、大丈夫、ちゃんと分かってるよ」
「可愛いチワワだった頃の僕の夢、叶えさせてね」
首筋から顔を上げ、理月の額にコツンと額を合わせる。優しい目で見上げられ、くしゃっと髪を撫でられた。
「どうぞ、いくらでも。チワワでもないし、夜空の星でもなくて……宇宙で一番大好きな、恋人のお願いごとだからね。何度だって叶えるよ」
ちゅ、と口唇に柔らかな熱が灯される。はにかんだ笑みを浮かべた口唇にキスをし返して、もう一つボタンを外した。
月までの距離、約三十八万キロ。あの日欲しいと願って手を伸ばした月は、今も綺麗に輝いて――だけどこうして、触れられる。
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