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第1話 夜の裂け目に、名前なんていらない。

 あれ? 僕、何してたんだっけ。体が重だるくて、頭がぽーっとする。酔っ払ってる、のかな。  なんか、体熱くてくすぐったい。それに少し気持ちいい。  夢? 頭の中、ふわふわする。雲の上歩いてるみたいな。雲ってこんな感触なのかな。 「あ。目、覚めた」  薄目を開いた先に男の人の顔が見える。パーマのかかった明るい茶髪の髪の毛。目元には泣きぼくろ。王子様、みたい。 「目、とろんとろん。かーわい」  なんか、ほっぺたつままれた。知らない人なのに、嫌じゃない。  ぼーっと眺めてたら、足元の方から別の人の声。 「俺にも貸せ」  ちょっと低くて、怒ってるみたいな声。  下の方を向いたら短髪の黒髪をサイドに流した男の人が、僕の腹の辺りを撫でていた。手のひら、冷たくて気持ちいい。  なんでだろ。2人とも知らない男の人なのに、優しい手つき。  夢、見てるんだきっと。だってこんなことありえないから。こんなふうに優しくいい子いい子してくれる人なんて、僕にはいないから。  そう思うと、胸がツキンと痛んだ。わけもなく涙が溢れてくる。  夢の中だったら、いいよね。男が泣いたって、誰も怒らないよね?  ぽろぽろ涙をこぼしているのに気づいたのか、王子様みたいな男の人が僕の目元の粒を指先で払う。指先から、大丈夫だよって言われてるみたいな。  もう1人の黒髪の男の人も、僕の涙をハンカチで拭いてくれる。香水なのかな。花束みたいにいい匂い。 「あー。泣かせちゃったね。ごめんね」  王子様みたいな男の人に、ぽんぽんって頭を撫でられる。  黒髪の男の人は、安心させるように僕の肩をとんとんと叩いてくれる。僕は滲んだ視界の中で、2人の顔を交互に見た。 「大丈夫。これからは俺たちが守ってあげる。だからね、泣かないで。《《しぃ》》君」  しぃ君って誰のこと? 僕のこと、そう呼んでるのかな。2人に体を触れられて僕は安心しきってしまったのか、意識を手放してしまった。  意識がなくなる直前まで、あたたかかった2人の手の感覚が忘れられなかった。

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