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24.ランクアップ!?進路について考える時が来たようです。※R18描写なし
「グロウ、お皿2枚とって」
「うん。どこに持って行くの?」
「テーブルの上に置いといて」
「はーい」
蔓に掴まれた皿がセナの前に差し出されて、そこにフライパンから腸詰の焼いたものと目玉焼きを乗せる。フライ返しでテーブルを指しながら指示すれば、グロウの蔓が皿をテーブルの上に置く。テーブルの上にはサラダとパンも並んでいて、グロウは既に椅子に座っていた。
「セナ、俺別に食べなくても大丈夫だよ」
「大丈夫だけど、どうせなら一緒に食べたいなと思って」
セナも椅子に座り、両手を合わせる。いただきますと唱えると、グロウも真似をしていただきますと言った。
あの後、意識を取り戻したセナは風呂までついてくるグロウの手出しを躱しながら身を清めようやくベッドで眠った。たった一晩、セーフルームで野宿をしただけだったが、魔力の補充をもってしても根本的な体の疲労は取れなかったらしい。それなりに柔らかいベッドの上に寝転んだ時の脱力感と言ったら、あれも立派な快感の一つだった。隣ではグロウがあれこれ話しかけていたが、ほとんど答えることもできず寝転んですぐ眠りについてしまった。
しっかり睡眠をとって目覚めた時、グロウも隣でこちらを向いて眠っていた。焦げ茶色の髪が目元にかかっているのをみてそれを払ってやると、大きな口元が何事か呻いて寝返りを打って仰向けになった。吊り目の鋭い目が閉じられているが、寝ていても充分に整えられた顔の作りをしている。口が大きいのは、獲物を一飲みするマーダープラントであった時の名残だろうか。ぼんやり眺めていると、目を覚ましたグロウがこっちを見てふにゃふにゃと笑う顔を見て、うっかり父性のようなものが芽生えかけた。
「グロウ、これからは俺と二人の時はその人型に戻ってもいいけど、ちゃんと戻る前に俺に確認を取ること。わかったか?」
「うん、人型になる時はセナに確認する」
「そう」
「それから……」
言っておくべきか、少し悩んだ。だが、グロウの様子を見ていると言葉にしなければ伝わらないだろうと思った。
「それから、交尾はしたいと思ってもちゃんと相手の了解をもらう事」
「りょーかい?」
「してもいいよ、って言ってもらわないとダメ。したくないって言われたら我慢する事」
「……わかった」
従順に頷きはするものの、どこまで守ってくれるかは不明だ。ミルラがまだ幼い個体だと言った通り、グロウの思考は人間で言えば子供のような短落さを持っている。したいと思った時に相手の了承を得なければならないと教え込まなければ、セナは人前で犯される羽目になりかねない。
それと同じくして、好きだから交尾する、という直結的な考えで、嫌いだから殺す、を実行しない保証はない。そうなりそうならば、セナが補助具を通して彼を制御しなければならないが、気は重い。善し悪しの分かっていない子供に折檻するような、そんな気分になる。
「グロウ、フォーク使える?」
「フォークって何?」
「これ。食べるときに使う物」
フォークを掴んで見せたセナは、同じように自分の手元にあるフォークを手に取ったグロウの前で腸詰を突き刺して齧る。じっと見ていたグロウも同じように腸詰を突き刺して、大きな口を開けて一口で頬張った。
「美味しいか?」
「うん、美味しい」
グロウは、魔人になったばかりであまり人間の事を知らなかった。イビルフラワーとして生まれてからずっとダンジョンで暮らしており、人と接する機会もほとんどなかったからだろう。いろいろと聞き出したところ、本人としての意識が芽生えたのはセナからステータスアップの体液を奪った後らしい。つまりセナを襲ったのはやはり、体液に含まれた魔力を嗅ぎ付けた魔物の本能という事だ。
それでも学習能力が高いのか、どんどん知識を吸収しているようだった。思い返せば、昨日会った時よりも会話が流暢になっている。知能の高い魔人のなせる業なのだろう。
「今日はギルドに行くよ。出かける準備が出来たら、擬態すること」
「わかった。おでかけ」
心なしか嬉しそうにしながら目玉焼きを頬張るグロウを眺めながら、セナも食事を勧めることにした。
驚くべきことに、グロウは擬態した状態で自力歩行ができた。植木鉢を突き破った数本の根が足の代わりになるらしい。昨日は、セナに抱き上げられたのが嬉しくて言うのを忘れていたというのが、本人の弁明である。根で高さ調節も可能らしく、グロウはセナの顔が良く見える高さにしたいと主張したが魔物が大きいと恐怖を与えるかもしれないと考え膝の辺りまでで妥協してもらった。単純に、体の全体に対する根の割合が多すぎて気持ち悪いとセナが思ってしまったのは内緒にしてある。
二人で連れだってやってきたギルドのマスタールームでは、既にクロエネダのメンバーとゼガイが待ち構えていた。テーブルの上には書類が数枚と、ギルドカードと小さな布の袋が置かれている。
「セナはこっちだ」
促されるままセナも昨日と同じようにソファに座るウィルの隣に座った。よじ登ってきたグロウが膝の上を陣取っているのが少し重いが、大人しくしているのなら良しとする。
「全員揃ったな。まずは緊急事態に対応してくれたことを感謝する」
ゼガイが深々と頭を上げ、セナはつられて頭を下げ返したがウィル達は黙って眺めている。ゼガイも特に気にしていないのか、テーブルの上のギルドカードをこちらに向かって差し出した。
「今回のクエストでは、魔人の討伐という目的こそ達成されなかったがギルド所属の冒険者によるテイムという形で、貴殿らの尽力により魔人の制圧は達成された。この功績をもってして、パーティー名クロエネダのウィル・ビアステッド、ロコ・ゼレンカ、ルーシャ、カレン・ゴルシュコフ。以上の4名をBランク相当。今回サポートでクエストに挑戦したセナ・アサバをCランク相当と認め、本日をもって昇格する」
「え?」
書類を手に滔々と読み上げるゼガイの言葉に、セナがつい声を上げた。ゼガイに視線だけ寄越され、遠慮しながら口を開いた。
「俺……その、特に何もやってないんですけど」
「……お前はそういうだろうと思ってたが、本来なら魔人のテイムはCランクどころの話じゃない。テイムした冒険者が、魔人より強いことの証明になるんだからな。だが、今回は魔人側が強く望んでの契約という事と、Eランク冒険者であったことを鑑みてCランクに留めたまでだ」
ギルドが決めた判断であればセナに異存はない。ただ自分の功績という訳では決してなく、運が良かったというか偶然が重なっただけだ。
「俺自身の実力が伴わないのではないかと」
「ああ、まあ、それはグロウが何とか対応できるだろう。元々、テイマーという職業は自分で何かするというよりは使役した魔物で目的を達成させる側面が大きい」
「そうですか……」
「あとはお前の精神的な問題だな。危機感とかそういう類の」
そう言われてしまうと、セーフルームで襲われたことを思い出す。嫌悪感や恐怖心まで思い出しそうになって顔を歪めたが、反撃できる力が無いのに安易に一人になってしまったのは警戒心が薄いと言われても仕方がない。何しろそれまでに何度も気を付けるようにと言われていたのだから。
「だったら俺たちからもいいか」
ウィルが手を上げて、いつものように軽い口調で話し出す。
「俺らも、俺らがBランクに上がることに対して、余り乗り気じゃない」
「え?なんで」
彼らは、高ランクパーティーになるのを目指しているのではないか。けれどウィルの発言はパーティー全体の意見らしく、誰も不満を顔に浮かべる人間はいない。
「俺らはセナに協力を仰いで、強化までして魔人討伐に挑戦した。それでも、魔人にはほとんど防戦一方で手も足も出なかった。あの実力差は、多分パーティー全員を強化しても埋められるものではなかったように思う」
「…………」
「せっかく協力してくれた上に、危険な目にまであったセナには本当に申し訳なかった」
「い、いやいやいや!俺が襲われたのはウィルさんたちのせいじゃないですし!あ、頭上げてください!」
さっきのゼガイのように深々とこちらに向かって頭を下げられて、セナは慌ててウィルの両肩を押し上げた。
「俺だって、ダンジョンで回復するか確かめる目的もあったわけですし……」
「そういう訳でゼガイさん、」
「決定は決定だ。クロエネダはBランク、セナはCランク昇格だ」
素っ気なくゼガイが言い放ち、名前入りのランクカードをテーブルの上に並べていく。セナのカードの側と、ウィルのカードの側には布の袋も置いた。
「ランクはあくまでギルドが冒険者を管理するためのランク付けでしかない。Aランクだろうが戦闘力自体は低い冒険者はいるし、自分で魔物を一体も討伐していないのにBランクになった冒険者だっている」
「でも」
「そもそも、クロエネダはBランク相当だと常々思ってはいた。ツノウサギ討伐では少し弱いと保留にしたが、あれで昇格しても良かったパーティーだ。それとも何か、自分たちはCランク止まりとでもいうか?数多の冒険者に紛れて、埋もれるのが本望か」
ゼガイの煽りに、グ、と圧のような物がウィルや後ろのロコたちから放たれるのがセナにも分かった。怒りというのか殺気というのか、とにかく不穏な空気だ。さっきまで大人しかったグロウも察したのか、唸り声を上げている。
「上を目指す冒険者は腐るほどいる。呑気に次の機会を待つのもいいだろうが、その機会がいつ来るかは俺にもわからんな」
「…………」
「冒険者には運も必要だ。もらっておけ」
カードを見つめるウィルが何を考えていたのかはセナには分からない。黙ったままの彼の後ろからカードを掬い取ったのは、ルーシャだった。
「じゃあアタシはもらうわよ。念願のBランクだもの」
指先に挟んだカードの表裏を見て微笑み、ついでセナのカードも拾い上げてこちらに突き出してきた。
「セナももらいなさい。アンタはこの事態を収束した張本人なんだから」
「……そうですね」
受け取ってカードを眺める。セナの名前と、Cランクであることが記載された簡単なカードだ。だが硬い革で出来たEランクのカードに比べると、こちらは二回りほど小さく金属製で高級感がある。
「Cランク以上はね、死ぬとこのカードが死体の代わりになるの。ダンジョンから持って帰ってこれるとは限らないから」
「あぁだから……」
所謂ドッグタグの代わりという訳だ。紐か何かを通す穴も開いているし、肌身離さず持っている冒険者もいるのだろう。
「ウィル、考え込んでいても仕方ない。このBランク昇格が、分不相応であるかどうかはこれからの俺たちがどう行動するか、だろう」
「ロコ。……そうだな」
ロコは腰にぶら下げているアミュレットと一緒にランクカードを身に着けているようだった。自分も後で何か身に着けられるようにしておこうと思いながら、ポケットにカードを突っ込んだ。
ウィルもゴルシュもカードを受け取り、晴れてクロエネダはBランクパーティー昇格となる。受け取りのサインを書類に記入してくれとゼガイに言われ、皆が順にサインを行っていく。
「クロエネダはBランク昇格で他の街に行くと聞いていたが、どこに行くか決めたのか」
「いくつか選択肢があってな。これからメンバーで話し合って決めるつもりだ。西のケイロンか、他の国か」
「ケイロン……?」
聞きなれない街の名前を聞き返すと、ルーシャがユレネの街から西に3日ほど馬車で言った場所にある渓谷に作られた街だと教えてくれた。この渓谷を境にして、トストアル王国の西側は魔素濃度が急激に上がるらしい。魔物の大量発生も定期的に起きており、高ランクの冒険者がこぞって立ち寄る場所であるとか。攻略できていないダンジョンも多数あり、更に西に進むと未開拓の土地に繋がっている。
「セナはどうするんだ?この街で暮らすのか?」
「俺たちに同行すればいい。ユレネの洞窟ではダメだったが、他の地方に行けばもっと魔素濃度の高い場所だってある。スキルの研究にはちょうどいいだろう」
ロコが身を乗り出して言う。誘いは嬉しいが、魔素濃度が高いとなればセナは足手まといになる可能性が高い。攻撃力はグロウで補えたとしても、防御と回避は赤ちゃんレベルだ。
「そう、ですね……」
「レベルが低すぎるだろう。俺は賛成できないな」
口を挟んだゼガイに、ウィルが唇を尖らせながら言う。さっきまでの真面目な雰囲気は霧散して、いつものウィルに戻っている。
「そんなこと言って、ゼガイさんは手元に置いておきたいだけじゃん」
「別にそういう訳じゃない。ギルドマスターとして、ガイドとして、転移者の保護を重視しているだけだ」
「セナだっていつかは独り立ちしないといけないんだからさ。自分で働いて稼げないとダメだろ」
「冒険者である必要はない。どうしたって働くのが嫌ならセナぐらい俺が養える」
ぴたり、と全員が動きを止めてゼガイを見る。当のゼガイは大したことじゃないと肩を竦め、ソファにその大きな体躯を沈める。
「……それって」
「結婚、ってこと?」
「……どっちかというと、養子だな」
少し考えて出したゼガイの答えは、クロエネダが納得するに十分だったらしい。けれどセナにとっては納得いくものではない。同性同士の結婚はともかくとして、自分は養われるほど子供ではないしすでに若者ですらない。
「あの、俺もう30超えてるんですけど……」
「でもレベル8だろ」
「レベル8だもんな」
「レベル8は子供だな」
レベル8という数字が、この世界のほとんどの人間が幼少期に超えてしまうレベルだというのは聞かされていた。そもそも、日本で暮らしていた時はレベルという概念などなかったのだから、生まれた瞬間からレベルの概念に触れて育ってきた人間と一緒にしてほしくはない。
「……セナ、俺がついてる。俺が魔物を倒すから、元気出して」
「ありがとう、グロウ……」
慰めてくれるのはグロウだけだ。いや、ウィル達クロエネダの面々も、ゼガイも、セナを慮ってくれているのは分かる。
魔力や魔法のない世界から来た上に、争いや戦うこと自体に触れていない、身を守る術さえも持たない非力な人間を、この世界の常識に慣れるまではと危険から遠ざけようとする、あるいは鍛えようとしてくれているのは十分に分かっている。
彼らが彼らなりの立場で過保護になるのは、自分が未だに平和ボケして自分の身すら守れないからだ。
「クロエネダの皆さんと行くことも、ゼガイさんに養ってもらうのもいいお話なんですけど」
「俺は構わん。暇潰しにギルドの手伝いをしてくれりゃ恩の字だ」
「俺たちは大歓迎だぜセナ」
「すみません、ちょっと考えさせてもらえますか。近い内には答えを出せると思います」
身の振り方を、これからの行動方針をしっかり考えなければならない。流されて旅に出てしまえば、それこそクロエネダのメンバーにも迷惑がかかるだろう。
セナの申し出に、ゼガイはゆっくり頷いた。
「まあ、ゆっくり考えりゃいい」
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