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「なぁに余裕こいて寝転がってんだ、王様ぁ」  声を掛けると、頭上の獅子の耳が揺れた。簡素な敷物の上に寝転がっていたこの国の王、レオナード・クロトスが、のそりと身体を動かした。  腰に届くほど伸びたチョコレートブラウンの髪は、いつものようにまとめられてはいない。無造作に解かれた豊かな髪の下で、獅子の尾がやけに激しく揺れている。 「遅い」  ぼそりと告げられる。気だるげで、でも鼓膜を融かすような艶を帯びた声色は、レオナードが微塵も焦っていない様子を表しているかのようだった。  アイレははんと鼻で笑った。この男は、こんな状況でも微塵も態度を変える様子がないらしい。  城の最上階にある牢の窓枠にハマっている格子をこじ開けて、するりと身体をねじ込んだ。  フェネックの獣人特有の大きな耳が、アイレの頭上で揺れる。くんと鼻を動かしたあとで、アイレはうげっと顔をしかめた。 「すんげえ血のにおい。あんた、このまま行く気か? 死んでも責任負わねえぞ?」  軽口を叩いたつもりだった。レオナードはふんと皮肉そうな笑みを携えて、片眉を跳ね上げた。 「俺の立場を知っているだろう? 処刑待ちの王だぞ。いや、“元”王か」  くくっとレオナードが笑う。その言葉尻にはやはり、哀愁すらない。全てが演算の上だとでも言いたげな態度に、アイレも喉を揺らした。 「なぁにが処刑待ちだ、白々しい。脱獄のために“暗殺者”すら手玉に取るなんて、やっぱあんたは王に相応しい頭の持ち主だよ」 「よく言う。国の制御ひとつできずに、兄上からのクーデターで失脚した愚かな王の間違いだろ」  レオナードの余裕の笑みが、笑いを誘う。その皮肉は、誰に向けたものなのかが一発でわかる。今頃は第二王宮で酒盛りでもしているであろうレオナードの兄・サイードを想像し、アイレはわざとらしく肩を竦めた。

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