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第6話 鍋は家族で食べるもの
鍋をやるなら、ちゃぶ台が良い。
ウサギの満月にも会ってみたい。
息切れの治ったレオニアにそう言われ、成瀬の部屋で鍋をする事になった。
高瀬は、多少顔色の悪いレオニアに不安を向けるが、当人は笑顔で満月と触れ合っている。
キッチンで野菜を切る成瀬を後ろから抱きしめ、高瀬は悪いと囁いた。
その低い声に、成瀬はピクリと反応する。
「んっ……良いですよ。とりあえず元気みたいで良かったです」
「あぁ、そうだな。いや、そういう事じゃない……」
「え?」
高瀬はフーと息を吐きながら、成瀬の首元に顔を埋める。レオニアへの感情が色々と頭の中で絡み合っている。
「シンさん……んっ……レオニアさん、います……」
「見えてないだろ」
見えなくても聞こえているし、匂いもするだろうが、高瀬は今、成瀬に甘えたかった。
「もう、盛るなって言ったのシンさんでしょ。俺、我慢できなくなります……」
成瀬は理性の強いタイプだと思っていたが、高瀬と行為をするようになってからは、理性のタガが外れやすい。
「わかった、また夜にな」
離れようとする高瀬の手を、成瀬は掴む。
「もう、少しだけ……」
そう言われれば、高瀬も離れがたい。チラリとキッチンのカウンター越しにレオニアを窺えば、何も気づいていませんというように、満月を撫でていた。
弟の恋人の家に上がり込む兄なんているのだろうか。レオニアの要求も叶えたいし、自分の欲も通したいし、心配もあれば、成瀬に悪い気持ちもある。
「ケン、すまない……」
もう一度謝ったら、成瀬はクスクスと笑った。
「夜に期待してます」
一瞬だけ、高瀬の表情がこわばったが、柔らかく成瀬を抱きしめ、安心する首筋の匂いを嗅いだ。
「それに、鍋は家族で食べる方が美味いでしょ」
「…………それは、お前も家族ってことでいいんだな?」
「あ……そう、ですね……」
だんだんと染まっていく成瀬の頬に、高瀬は幸せを感じた。
「あーもう、これ、白菜は満月も好きなので、持っていってあげてください」
成瀬は、高瀬に切った白菜を押し付けて、赤い顔を隠すように冷蔵庫を開けた。
満月は、レオニアの膝の上でプゥプゥと鼻を鳴らしながら落ち着いていた。
「お前、俺には最初厳しかったよな」
「そうなんだ。良い子だよ?」
高瀬は少し面白くないと思いつつ、白菜を満月に向ける。ハッと目を見開いて、夢中で食べる姿は可愛いと思うが、最初に繰り返されたスタンピングを思い出すと、レオニアとの態度の差に若干やきもちを焼く。
「成瀬くんを取り合ってたからでしょ?」
笑うレオニアに高瀬は返事をしない。
「いきなり虎がテリトリーに来たら嫌だよね。成瀬くん取られそうになるし」
「お前だってライオンだろ」
「僕は優しいライオンだから。成瀬くん取ろうとしないし」
「今は俺のだ」
高瀬の言葉に、満月は高瀬が持っていた白菜を奪い取る。
「そういうこと言うからじゃない?」
満月の態度とレオニアに笑われ、高瀬は不満そうにあぐらをかいて、壁にもたれた。その肩へ、ポスリとレオニアが頭を乗せてくる。
「どうした?辛いか?」
レオニアは薬の副作用か、眠たそうな目をしている。高瀬は腰に手を回して、自分に引き寄せた。レオニアは、多少眉間に皺を寄せながらも首を横に振る。
「無理するな。今からでも送っていってやるぞ」
「成瀬くんとイチャイチャしたい?」
「違う」
軽口を言いながらも、レオニアは奥歯を噛み締めた。
「痛むのか?」
頭を撫でてやれば、小さく頷く。
「すぐ、おさまるよ」
「わかった」
高瀬はレオニアを抱きしめるように、もたれかからせてゆっくりと頭を撫でてやる。
「僕、シンシアがいてくれるから、生きてこれたと思ってる」
「お前にだって大事な人がいるだろ?」
「そうなんだけど、生まれた時から一緒だからやっぱり特別だよ」
「それは、そうだな」
レオニアが、高瀬の体に手を回して、ギュッとシャツを掴んだ。
「シンシアがいてくれたから、勉強も友達も恋も諦めずに済んだ」
「俺の力じゃない」
首筋に擦り寄ってきた、レオニアの唇を感じる。子供の時からの甘えた仕草だ。
「そうかな……でもね、僕もシンシアの力になりたいんだ」
「俺は、もう大丈夫だ」
レオニアの息が乱れ、高瀬が様子を伺うと、レオニアは顔伏せて目を閉じた。
「そう……だね……」
レオニアは、高瀬の手のひらに指を絡めて、自分の細い指と比べる。
「Papaに、似てきたね」
「そうか?そう、だと……いい……」
「ごめん、悩ませるつもりじゃないよ」
「わかってる。少し眠れ」
「うん」
レオニアの息遣いを聞きながら、成瀬の包丁の音を聞き、高瀬も目を閉じる。
成瀬が鍋を作り終え、リビングに目を向けると、高瀬とレオニアは肩を寄せ合って眠っていた。
それはまるで、一枚の絵画のようだった。
成瀬はまだ、クリスマスに何が起こるのかを知らないままにそっと二人を眺めていた。
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