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第5話 嫉妬をしてたら、兄の異変に気づく
親から野菜がたくさん届いたのだと、成瀬は嬉しそうに高瀬に話す。
「わかったから、あまり人の家の玄関を勝手に開けるな」
「あ、ごめんなさい」
成瀬の地元では、玄関の鍵は基本開いている。玄関を開けて大声で友達を呼ぶのが訪問の基本だ。郵便も宅配業者もみんなそうしている。
都会に来て、人の家に訪ねるのは高瀬の部屋くらいだったから、成瀬は都会の常識を頭でしかわかっていなかった。
「まぁ、俺の部屋なら別に構わないけどな」
少し視線を外しながらそう言った高瀬に、成瀬はニコリと笑ってゆっくり抱きついた。高瀬も部屋着のままでやってくる恋人との物理的な距離に嬉しくなって抱き返す。
モゾモゾと高瀬の背に回された手が、服の中に入って、背中に触れられ、慌てて成瀬の腕を掴む。
「待て、ここで盛るな」
「もう家の中ですよ」
「そうじゃない」
レオニアがいると言いかけて、高瀬は成瀬の右手を掴んでいた事に気づき慌てて手を離した。
「悪い、大丈夫か?」
「大丈夫です。もうバレーも出来ますよ」
「いや、無理するな」
「本当ですよ。この前三浦さんと軽くボール触ってきました」
「は?」
高瀬が反応したのは、怪我をした手でスポーツをしたことか、三浦と二人で遊びに行ったのに知らなかった事実か、そのどっちもか。
成瀬は、余計なこと言ったかと身をすくめる。
「あの、右手は本当に、もう大丈夫だって医者にも言われました。三浦さんとボール触ったのは、雛子も一緒で、雛子の会社の人がバレーやるからって誘われたんです」
何もありませんと弁明する成瀬に、高瀬は面白くない顔を向ける。
しかし、こんなことで喧嘩になるのは大人気ないだろう。自分の気持ちを押し込め、長く息を吐いてから、そうかと短く返した。
怒っていない事を示すように、玄関の低い框を上る成瀬に手を出してエスコートしてやる。成瀬は嬉しそうに手を取って、靴を脱いだ。
「あれ、誰か来てたんですか?」
靴を脱ぎながら、高瀬のものではない靴を見つけ、成瀬は初めてお客が来ているのだと気付いた。
「ごめんなさい」
「構わない。レオニアだ」
そう言いながら、高瀬は何かを感じたようにピクリとリビングを振り返った。途端に成瀬の手を離して駆け出した。
「レオニアっ!大丈夫か?」
急に慌てる高瀬に、成瀬も何かあったのかとリビングに走った。そこでは、レオニアが胸を抑えて苦しげに息を切らしていた。
「ごめん、大丈夫。息切れするだけ……」
以前、成瀬の前で発作を起こした時よりはしっかりと受け答えをしているが、苦しそうなレオニアの表情に、高瀬も心配している。
「薬は?」
高瀬はレオニアの服のポケットを漁るが、レオニアは首を横に振る。
「やだ、要らない」
「ダメだ」
高瀬が薬の小瓶を探し出すと、レオニアは顔を背けた。
「レオ……」
子供を叱るような高瀬の声に、レオニアは不満そうな顔を向ける。表情とは裏腹に、レオニアの体はぐったりと椅子の背もたれにかかり、軽く咳き込み出す。
「それ……頭痛くなるもん……」
「発作が起こったら、もっと辛い。飲め」
レオニアの体を起こして支えながら、高瀬は薄く開いた口に薬を入れた。ゆっくりと薬を溶かすレオニアの頭を抱えて、優しく撫でてやる。
高瀬の腕に安心したように目を閉じるレオニアは、若干幼く見えた。
「成瀬、タクシー呼んでくれるか?」
「あ、はい」
二人のやり取りをただ見るしか出来なかった成瀬は、高瀬に言われてスマホを取り出す。
高瀬はレオニアを抱き上げて、寝室へと運ぼうとする。タクシーが来るまで寝かせるのだろう。
しかしそこで、レオニアが声を上げた。
「待って。大丈夫だから。もう少しここに居たい」
「レオ……」
「大丈夫、痛みはないし。せっかく、成瀬くんのお鍋なんでしょ?僕も食べたい」
お願いと笑うレオニアに、高瀬は口を閉じる。
「Je partirai ce soir.(夜には帰るから)」
「Non… c’est pas ça.(そういうことじゃない)」
フランス語で話す二人に、成瀬はスマホを操作する手を止めるべきなのか悩み、オロオロとした。
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