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第4話 クリスマスは恋人を優先できない。不穏な兄の嘘
玄関のチャイムが鳴り、高瀬は鍵を開けた。
「Salut !」
訪ねてきたレオニアは、顔色が良く元気そうだ。
高瀬はその様子に安心して、軽くハグをする。
しかし、扉が閉まった瞬間に、今度はレオニアが高瀬に強く抱きついた。
「どうした?」
元気そうでも具合が悪いのかと、高瀬はレオニアの背中に手を回す。外が寒かったのだろう、レオニアの体も冷えている。
「ん~?随分良い匂いだなって」
「嗅ぐな」
ニコリと笑ったレオニアに、高瀬は呆れた顔で体を離す。レオニアも神谷と同様に、匂いに敏感なタイプだ。
「幸せそうで、お兄ちゃんは安心したよ」
「…………」
時折出てくるお兄ちゃんと言う言葉は、高瀬にはなんだかむず痒い。玄関は寒いから早く入れと、レオニアをリビングに誘導する。
「この家、だいぶ成瀬くんの匂いがするようになったね」
これだけで、どのくらいの頻度で成瀬がここに来ているかわかるのだろう。
高瀬は答えない。
「照れてる?」
「うるさい」
機嫌の良いレオニアをダイニングの椅子に座らせて、ブランケットを渡す。
部屋は暖かいが、レオニアの体は冷えていた。
高瀬の気遣いだ。それをありがとうと受け取り、レオニアはコートを脱ぐ。
ふわふわのブランケットからは、微かに成瀬の香りがした。これは一緒に買い物に行って、一緒に選んだのだろう。きっと自分が来るから買いに行ってくれたのだろうが、それが二人のデートになっているとは、レオニアの頬の緩みが止まらない。
思わずブランケットに頬擦りをしたくなって、テーブルに置いたままのワインに目が止まった。
「ワインだ」
「ん?」
高瀬の好みのワインではないことは、すぐに分かった。また、レオニアの口角が上がる。
「ねぇ、ワイン飲みたい」
純粋な好奇心で、レオニアはお茶を淹れようとお湯を沸かし始めた高瀬に声をかける。
「ダメだ」
誰のためのワインかはレオニアもわかっている。
高瀬がダメというのは、レオニアの体調を心配してのことだというのもわかる。
「少しだけ。体、温まるでしょ」
「……少しだけな」
体調は良さそうだからと高瀬は渋々了承した。
「甘いね、シンシア」
「いらないのか?」
「いる」
ワイングラスに、本当に少しだけ注いでやれば、一口飲んで、これが成瀬くんの好みなんだねとレオニアは笑う。
レオニアのことだから、クリスマスプレゼントにでも用意するつもりだろう。成瀬が飲みすぎないように目を光らせないといけない。
「ねぇ、シンシア、クリスマスは帰ってくるでしょ?」
「あぁ。毎年そうしてるだろ?」
当たり前だと返事をする高瀬に、レオニアはため息を吐く。
「あのね、何年日本に住んでるの?日本ではクリスマスは恋人の行事でしょ?」
「あ…………」
レオニアの言葉に高瀬はハッとした。そして、申し訳なさそうに隣の部屋へ続く壁を見る。
「Papaの命日だもんね」
「そっちを優先するよ」
「いいの?」
「あぁ、成瀬もわかってくれるだろ」
「そうだね……」
レオニアは目を伏せながら、唇を噛み締める。
そんなレオニアの様子に、高瀬は懺悔をするように顔を伏せた。
「そんな顔しないでよ。Papaも悲しむよ」
高瀬はギュッと拳を握り、レオニアを見つめる。
「大丈夫、Papaは強い人だった。僕も、Mamanも、神谷さんも、一緒にいるよ」
「なぁ、俺はクリスマスに何をしている?」
高瀬の問いに、レオニアの瞳は一瞬揺らいだ。しかし、それは悟られない程度で、すぐに戻る。
「なんで?」
「毎年、あまり記憶が無いんだ。誰かを傷つけたり……」
高瀬の脳裏に父親の記憶が蘇っているのだと、レオニアはわかった。
「そんなことあるわけないでしょ。いろんな人が集まるから忙しくて疲れるだけだよ。いつもよく寝てる」
「それはお前だろ」
「あ、うん。すぐにパーティー抜けちゃってごめんね」
「いや、悪い……」
高瀬は、なんとなく感じている違和感をつい兄にぶつけてしまった。
ーピンポーンー
「シンさん!お鍋しませんか?」
インターフォンと同時に玄関の扉が開けられ、二人の間の空気をぶち壊すように成瀬の明るい声がした。
高瀬は、鍵を閉め忘れていて良かったと鼻で笑いながら、玄関に向かう。
「シンシア、気付いてるんだ。そうだよね……」
一人になったリビングで、レオニアは呟き、速くなる鼓動を押さえるように、繰り返し浅く息を吐いた。
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