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第42話 エピローグ
高瀬の実家は、新年の飾りで彩られていた。
倉庫型の海外スーパーの店内のようで、成瀬は少しワクワクしている。
「ごめんね、待たせちゃった?」
大階段を降りて来たのは、着物姿のレオニアだ。
着替えに手間取ったようで、成瀬たちは待たされていた。
「すごい、似合いますね。格好いいです」
着流しに羽織姿で、階段を少し降りにくそうにしているが、高い身長と金髪によく似合っている。
「どうしたんだ」
「ん~?せんせがね、プレゼントだって」
レオニアは嬉しそうに笑っている。
日本語も母国語のように話すレオニアにしては、先生という発音に、成瀬は少し引っ掛かりを感じた。
しかし、高瀬もコレットも気にしていないようだ。
愛称だろうか。
「一昨日来て、デートして来たのよね。それで、昨日は一日寝ていたの」
「疲れちゃってさ」
レオニアとコレットの話に、やっぱり成瀬の実家には連れて行かなくて正解だったと高瀬は思う。
「お正月楽しめていて良かったです。お土産持って来たんですよ」
成瀬は、自分の実家から大量にもらったものをテーブルに広げた。
餅撒きの餅に、おせちの黒豆、なます、栗きんとん……
全てあまりもので申し訳ないが、高瀬が持っていけばいいと言った言葉を信じる。
心配する成瀬をよそに、レオニアとコレットの目はキラキラと輝いていく。
「おせちだね!すごい手作り?」
「あ、俺の実家の手作りじゃなくて、近所のおばちゃんので……」
「宝石みたいに綺麗ね」
「あ、ありがとうございます」
高瀬にチラリと視線を送れば、言った通りだろとドヤ顔をされた。
コレットは餅を焼こうと厨房に入っていく。
「シェフはいないんですか?」
「シェフがいるのは特別な日だけだ。正月は、手伝いもいない」
「そうなんですね」
使用人は住み込みという訳ではないのかと、成瀬は少しホッとした。
レオニアは、着物の袖に気を遣いながら黒豆を箸で追いかけている。
「餅撒きって楽しそうだね。龍樹が顔面でキャッチするとか目に浮かぶよ」
帰省話を聞きながら、レオニアは笑う。
レオニアにとっては、何を聞いても楽しい話らしい。
「おもち焼けたわよ~。膨らんでたのが萎んじゃったんだけど、これで合ってる?」
コレットが持ってきた餅を成瀬に確認するように見せ、成瀬は大丈夫ですと微笑んだ。
すかさずレオニアの手が伸びてきて、高瀬が注意した。
「ゆっくり食べろよ。喉に詰まるぞ」
「年寄りじゃないよ」
レオニアの冗談に、成瀬がハッとした。
仙吉に関することを一連で思い出したのだ。
「成瀬くん、どうしたの?」
「あ、はい。爺ちゃんのことを思い出して……」
成瀬は、高瀬が半獣化した祠と、昔話と、良吉と仙吉の話、最後に、力がなくなるかもしれないという話を伝えた。
「爺ちゃん、寂しくなってないかなって思って」
空気を重くしてしまったかと成瀬が顔を上げると、レオニアとコレットはハラハラと泣いていた。
成瀬はギョッとして慌てて場を盛り上げる話題を探す。
「ごめんね。良吉さんの話、感動しちゃった。僕が飲んでいる薬も、良吉さんのおかげだよね」
「すごい人がいたんだね。ケンイチのgrand-pèreも良い人よ。格好良いわ」
高瀬は腕の組紐に触れて、成瀬を抱き寄せた。
年明けの初出勤日には、高瀬と成瀬と、パートの事務員のみだった。
皆、正月休暇が続いていて、全員が揃ったのは、その二日後だった。
高瀬と共に成瀬までもがクリスマスから長期休暇を取ってしまったから、仕方ないことだろう。
「明けましておめでとう」
久しぶりの神谷の声に、成瀬は笑顔で挨拶を返す。
「休暇ありがとうございました」
「いーえ、僕の方こそ、本当に感謝しかないよ。お正月は楽しめたかい?」
「はい。あ、実家の土産です」
営業所に生物を持ってくるわけにはいかないから、新幹線の駅で買った土産を差し出す。
定番のクッキーだが、神谷は喜んでくれた。
とにかく大容量にしたのが良かったのだろう。
お客様カウンターの準備をしていると、外の清掃を終えた三浦がしなだれかかってきた。
「ナル~、お前、正月も雛子ちゃんと一緒だっただろ!」
「え、なんで知ってるんですか?」
「メッセージ来た。健一とバレー部のみんなですよって、写真まで」
「わっ、何これ。あいつこんな写真いつ撮ったんだよ」
三浦が見せてきた写真には、自撮りで映る雛子と、後ろにバレー部の男の中に埋もれている成瀬が写っていた。
「なんか、修羅場だったって?」
「修羅場?」
三浦の言うようなことは何があっただろうかと成瀬は首を傾げる。
「あー、今度雛子ちゃんに詳しく聞くわ。また、ナルの無自覚だな」
成瀬の反応に、三浦は全てを察した。
そして、にこりと笑うと、ぐしゃぐしゃと頭を撫でてくる。
「なんですか……」
「いや、なんかお前強くなったか?顔つき変わった気がする。なんかの大会で優勝でもして来たみたいだな」
「え?何も、餅撒きくらいしかしてませんけど」
「ははっ、美味そ」
「あ、まだあるんで食べませんか?そろそろ飽きて来ちゃって」
「良いのか?」
「はい。あ、うちで食べますか?俺作るんで」
「いいな、雛子ちゃんも呼んで……あ、ごめん。明日持って来てくれよ。自分の家で食べるから」
三浦は急に声が小さくなると、Openの看板をひっくり返しに行った。
成瀬が不思議そうに振り向けば、デスクにいる高瀬を目が合った。
ニコリと笑いかけたら、笑顔を返してくれる。
その様子を、さらに奥のデスクから見ていた神谷は、吹き出して笑っている。
佐伯もニコニコと書類を束ねていた。
成瀬は今日も張り切って仕事をする。
バー半月の正月休みも今日までという日の早朝、龍樹のスマホが鳴った。
龍樹は時間を確認して、さっき寝たところだと不機嫌にスマホを取る。
隣で眠るルルの綺麗な肌に布団を掛け直してやり、眼鏡をかけて画面を見ると、フランスの研究所からだった。
「Allô ?」
相手は所長だが、龍樹は寝ぼけた声で不機嫌に電話に出る。
電話の向こうは陽気に、寝てたかすまんと笑っているが、こちらは寝たばかりの上に、寒い中裸なのだ。さっさと話を終わらせてルルの布団の温もりに埋まりたい。
要件はと話を急かせば、思わぬ吉報だった。
「黒豆は、勝手に増えるものなのか?」
「増えません。食べないと無くならないんです」
成瀬と高瀬はちゃぶ台の上にあるおせちの残骸に辟易していた。
もうほとんど無いとはいえ、食べ飽きた舌にはあまり見たくもなくなるものだ。
お正月にペットホテルに預けていた満月が、フンフンと高瀬の胡座の上に乗ってくる。
最近はすっかり高瀬のあぐらの中がお気に入りだ。
多分、暖かいからだろう。
「満月、豆は食べられないか?」
「食べられません。甘く煮てあるし、あげないでくださいね」
成瀬は高瀬の膝の上から満月を抱き上げると、自分の膝に守るように抱いた。
「食べられないものはやらないぞ」
「食べられるものでも限度があります」
ペットホテルに預ける前に、高瀬は満月のご機嫌を取ろうと小松菜をたくさんあげていた。満月も喜んで食べていたと言うが、実家にいた時にペットホテルから下痢をしていると連絡をもらい、併設の病院に診て貰っていたのだ。
「それは悪かった」
成瀬は満月を撫で、満月は成瀬のあぐらに丸くなり、目を閉じかけている。
成瀬に撫でられると、そういう顔になることは、高瀬もよく知っている。
思わず成瀬の手を掴み上げた。
「なんですか?」
驚いた顔をする成瀬に、高瀬は無表情で返す。
「撫でて欲しいんですか?」
ニコリと笑われ、小さく首を動かしたら、頬を撫でられ、キスをされた。
「ケン、ずっと一緒だ」
「はい」
甘いキスを繰り返す部屋の温度は少し上がったかもしれない。
窓の外には、細かい雪が降り始めていた。
ー 第二章 エピローグ 完 ー
※※※
第二章エピローグまでお読みいただきありがとうございました。
ラブ要素は少なめだったかもしれませんが、高瀬が人じゃなくなる事と、成瀬の田舎の話は書きたかったので長くなりましたが書いてしまいました。
自分的には泣きながら書いたシーンもあるので、何か感じていただけたらとても嬉しいです!
第三章はプロットまであるのですが、社会復帰をしなければいけないので、仕事との両立を考え、全部執筆し終わってから更新をしたいと思います。
おそらく一ヶ月ほど?
ごめんなさい、もっとかも……。
お気に入りのまま、お待ちいただけたら嬉しいです。
また、別作品で完結済みのものがございます。全く毛色が違う作品ですがそちらも良ければご覧ください。
では、また、第三章でお会いできますことを!
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