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第41話 母の土産は想像以上に詰め込まれる。そして、半月と乾杯を。
新幹線の荷物置きに、行きよりも大量の荷物を詰め込んで、成瀬はボックス型にしたシートに座り一息ついた。
隣に座った高瀬の手が、自然に成瀬の手の上に乗り、手を繋がれた。
「あれ、シンさんその腕輪どうしたんですか?」
「あぁ、もらったんだ」
「誰に?」
高瀬の腕に付いている腕輪は、細い組紐でサッと袖の中に入っていった。
高瀬は微笑むだけだが、ちらりと見えたその組紐の中に稲わらがあったのを見て、成瀬は察した。
「これも持っていきな。日持ちするから」
美幸は成瀬たちが乗る予定のワゴンのトランクに、紙袋をまたひとつ追加した。
「ねぇ、もう持てないよ。今度また送ってよ」
「男の人四人もいるんだから大丈夫でしょ。あんた荷物少ないんだから頑張りなさいよ」
大量のおせちは、思った以上に余ってしまい、美幸はそれを全て成瀬に持たせた。
その他にも、漬物やら野菜やら米やらとにかく重いものを持って帰れと、荷造りしてくれている。
ありがたいが、都会の満員電車を知っている成瀬からすれば少し迷惑だ。
「俺も持っていける。部屋まで一緒に運べば良いだろ」
高瀬の言葉に、美幸はピンときた。
「何?もう一緒に住んでるの?」
「ち、違うよ!隣同士なの!」
「何それ!運命だね~?」
美幸と話していたのに、幸恵が横から茶化してくる。
「運命なんてそうそう無いよ。たまたまでしょ。お姉ちゃんいつまで夢見てんの?だから彼氏できないんだよ」
「うるさいの!お子ちゃまに大人の恋愛は分かりませんよ!」
「もう、やめなよ。由希が一言多いぞ、今のは」
ぽんぽんと会話が進んでいく様子に、高瀬はクスクスと笑う。
自分の育った環境では見られなかったやりとりだ。
高瀬の笑いに、幸恵も由希もはにかみ、口喧嘩は終わった。
「おい、犬っころ」
縁側越しに、仙吉が居間から声をかけてきた。
その声はとても不満そうだが、表情は少し穏やかだ。
「爺ちゃん、シンさんは虎だって、何回も言っただろ」
「なんだって良いだよ、そんなの」
「よくな……まぁ、そうか、そこは別になんでもいいか……」
仙吉に言われ、成瀬は思い直した。
虎でも犬でも、高瀬であればそれで良い。
「おい、こっち来い」
仙吉に呼ばれ、高瀬は縁側に上がった。
「うちの稲を編み込んである。何かあればすぐわかるからな。手を出せ」
仙吉が見せてきたのは組紐で作られた、細いミサンガのような腕輪だった。一本だけ、稲わらが編み込まれていて、独特の色が民芸品を思わせる。
高瀬は喜んで腕を出した。
「ありがとうございます」
「これは首輪だ。健一を不幸にしやがったら承知しないからな!」
高瀬の手首にしっかりと腕輪を巻きつけ、仙吉はぶっきらぼうに、もう行けと手を振った。
高瀬は、しっかりと頭を下げ、縁側を降りていく。
ワゴンの横では、別の兄妹喧嘩が勃発していた。
しかし、次の瞬間には笑顔で手を振り合っている。
龍樹とルルも、だいぶ成瀬の家族と仲良くなったようで、和也が運転するワゴンが動きだすと、みんなで手を振ってくれていた。
「楽しかったわね、ケンちゃんの実家」
「そうですか?なんか、結局昔話もよくわからなかったし、図書館とか開いてる時に行けばよかったですね」
「いや、収穫はかなりあったよ。まずは餅と、成瀬くんちの家系図。これは、ここに書かれてない人の方が重要な情報を持っていそうだけどね」
新幹線のボックスシートで、龍樹はスマホに撮った家系図の写真を見せて、考察を広げていた。
「それに、良吉さんの話だ。僕は良吉さんのおかげでこうして研究が出来ている。感謝しかないよ」
「そうだな」
良吉については、高瀬も思うところがあるようで、龍樹の意見に頷いた。
「でも、結局俺の力?シンさんの特別なところは良く分からずじまいですよね。もっと資料とか準備しておいて貰えばよかったですね」
「いや、研究なんてそんなもんだよ。今回わかったことだけでも十分だ。ひとつ気がかりとすれば、力が無くなったという仙吉さんの話だ。それは、ゆくゆく成瀬くんにも起こることなのかもしれない」
「あ…………」
成瀬は自分の手を握り、胸に抱いた。
見えない不安が湧き起こってくる。
高瀬は、腕の細い紐に重さを感じ、成瀬の頭を抱きしめた。
「大丈夫だ。ケンの力が無くなったって、俺らは変わらない。ずっと離れないんだろ」
「…………はい……そう、ですね……」
成瀬が不安そうに顔を上げる。
高瀬と目が合うと、ホッとした。
二人は笑い合い、高瀬はルルと龍樹に目線を送った。
ルルはすぐに席を立ったが、龍樹は気にしなくていいと二人を見つめている。
「もう、たっちゃん。いくわよ」
ルルに引きずられ、龍樹はデッキへと連れ出されていった。
「シンさん?」
「何でもない。ケンと二人にして欲しいって言っただけだ」
アイコンタクトだけで伝わるのかと成瀬は改めて驚いた。
「いいな、それ……」
「やきもちか?」
「……はい……」
「でも、俺がキスをしたいのは、ケンだけだ」
「…………俺も……」
新幹線の座席で、こっそりと重ねた唇は、以前より愛を強く感じられた。
シンさんが好き……
ケンを守りたい……
ずっと離れない…………
年の暮れから騒いでいた奴らが帰り、寝静まった成瀬家の居間で、仙吉は酒を飲んでいた。
縁側から見える月は半分で、月の大きさに安心できる。
半月ならばあいつも飲めるかと、もう一つグラスを出してやろうと、居間の食器棚を開けた。
すると、犬の彫刻と目があった。
「何だよ、こんなところで見てやがったのかよ」
仙吉は彫刻を取り出して、縁側に置く。
酒を持って隣に座ると、彫刻にひとつ、自分にひとつグラスを置いて、酒を注いだ。
「足が悪いんだから、あまり飲みすぎるんじゃねぇぞ」
ニッと口角を上げて、彫刻の前のグラスと乾杯をした。
ー 第二章 完 ー
エピローグに続きます。
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