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第40話 餅撒きの餅には神の力が宿る。それを信じた変態研究者
「ケンチ、キスしてたって本当か?」
「はっ?!」
バレー部の男たちに問いかけられ、成瀬は運んでいた餅を落としそうになった。
「参道で並んでる時。ボーイスカウトの隊長が焦ってたぞ。子供達に見せらんねぇって」
「ちが、それ俺じゃねぇよ。ルルさんたち!」
成瀬は焦って否定する。あれだけであっという間に噂になるなんて、田舎の怖い部分だと思った。
「ルルさん?!じゃあ、龍樹さんとしてたのか。海外の文化だな。良いなぁ、見せつけるようなキスしてぇ~」
「いや、普通に迷惑だったんだろ。なんかごめん」
バレー部のメンツはそれぞれに色んな想像をしているのか、成瀬の声は半分届いてはいなそうだった。
「な、高瀬さんもフランス人のハーフだろ?結構激しいのか?」
「はっ?」
「良いじゃんか、教えろよ~」
「ケンチも体力お化けで絶倫だもんな、夜激しそ~」
「なんだよそれ!」
「みんな知ってるぞ、瑠璃ちゃんの話は」
瑠璃は、大学時代の成瀬の元カノだ。
初体験で、成瀬の体力に驚き、別れを切り出された相手である。
トラウマになっている話をされて、成瀬は黙る。
茶化しすぎたかと、バレー部の男たちは慌てて謝った。
「悪い悪い。瑠璃ちゃんの話まですることなかったな。変なこと聞いて悪かったよ」
「そうだな、ごめん。ケンチ結構気にしてたもんな」
「あ、でも、今は高瀬さんとラブラブだろ?高瀬さん格好良いし優しいし、良い人でよかったな」
「いや……ごめん、俺の方こそ変な空気にして……ノリで答えればよかったよな」
ヘラっと無理に笑ったような成瀬の笑顔に、バレー部の男たちは猛省をした。
「おい、だべってんな!餅持って台に上がれ!みんな待ってるぞ!」
餅つきの時にも怒られたおじちゃんに言われ、成瀬たちは元気よく返事をした。
もう、パブロフの犬である。
餅撒き台に上がれば、集まった人達が期待の眼差しを向けてくる。
この餅撒きは、御嶽神社の神、山神に奉納された餅に神の力が宿り、それを民に分け与えられるとして、撒く人物は若者や子供が担っていた。
成瀬も子供の頃から毎年参加しており、楽しみにしている行事だ。
集まっている人の一番後ろに頭ひとつ大きな高瀬を見つけ、成瀬は手を振る。
高瀬は、それに気付くと微笑んで手を上げてくれた。
餅を取ると言ってくれたが、高瀬のところまで届かせるには、軽く遠投になる。
基本的には下投げで優しくと言われているが、成瀬は振りかぶった。
餅まき台では、バレー部の面々と小さな子供が数人で餅を撒いている。
その光景がとてものどかで平和だった。
「臣、餅撒きの餅には神の力が宿ると言われているんだ」
「へぇ」
「ここの神社の神は山神だけれど、成瀬くんが投げる餅には、成瀬くんの力が宿るんじゃないか?」
「また、そんな仮説を……」
龍樹は、本気なのか冗談なのか、餅を取りに行くと前に進み出した。
「たっちゃん、気をつけてよ。小さい子もお年寄りもいるんだからね」
目的を持った時の龍樹は周りが見えなくなることがある、ルルが念を押した時、餅撒き台の成瀬が振りかぶった。
「シンさん!!」
成瀬の通る声と一緒に餅が飛んでくる。
思った以上に強い球速に、高瀬は身構えたが、サッと目の前に龍樹が現れた。
手を挙げたまま龍樹が下がってくるから、高瀬も下がる。
そして、餅は龍樹の顔面にヒットした。
よろける龍樹と共に、高瀬は地面に尻餅をつく。
「ちょっと!大丈夫?!」
ルルが慌てて龍樹の顔を見ると、眼鏡は無事だが、頬が若干赤くなっていた。
「大丈夫ですかっ!?ごめんなさい!」
成瀬は餅撒き台から大声で謝ると、急いで高瀬たちの元へと駆けてきた。
「ごめんなさい。シンさんなら取れるかと思って……」
「大丈夫よ、たっちゃんが無理をしたの。球技なんてできないくせにね」
「できない訳じゃない。やらないだけだ」
「そうね、でも鼻血は出てるからね」
「わっ、ごめんなさい。えっと、自治会のテントに救急箱あるはずだから借りてきますね!」
成瀬はまた走り出し、目の前のドタバタに、高瀬は笑いだす。
いつの間にか餅撒きも終わっており、地元の人たちが龍樹の鼻血を見て、あちらこちらからティッシュを渡された。
ルルはすいませんと言いながら、龍樹の鼻にもらったティッシュを詰めていく。
高瀬が立ち上がろうかと体を起こした時、バレー部の男たちが高瀬に手を差し出してきた。
少し驚いたが、高瀬は素直にその手を取り、お礼を言う。
「あの……ケンチのことなんですけど……」
「俺ら、ずっとケンチのこと大事に思ってて……その……」
「あいつ、結構無理して笑うから、あまり無理させないでほしいっていうか……」
「それに、結構傷つきやすいんで……」
「その……」
「「「幸せにしてやってください!!」」」
バレーの試合終了時の挨拶が如く、男たちは綺麗に頭を下げた。
高瀬は驚き、一歩下がった。
「はい……そのつもりです……」
バレー部の面々は顔を上げたが、目は伏せたまま、軽く会釈をして餅撒きの撤収作業に戻って行った。
「どうしたんですか?」
救急箱を持って現れた成瀬に、不思議な顔をされたが、高瀬はなんでもないと微笑む。
龍樹に持ってきた救急箱はもう必要無さそうだったが高瀬にそれを渡すと、成瀬は撤収作業に戻っていった。
高瀬は、いまだルルの膝枕で固まっている龍樹に呆れつつも声をかける。
「大丈夫か?」
鼻血はもう止まっているようだが、興奮をしている龍樹は、高瀬に餅を掲げて見せてきた。
「次の満月は、僕がこれを食べて、臣を撫でるから」
「別に構わないけどな、フランスには戻らないのか?」
「あ…………」
龍樹にしては珍しい抜けにルルが笑う。
「実験できないわね~」
「じゃあ、豪が食べれば良い。そして後で結果を教えてくれ」
「良いの?私がシンシアと何かあるかもしれないわよ?」
「それはダメだ。何もしない前提での話だ」
「ふふふっ、じゃあ、ケンちゃんの家で胡桃みそに付けて食べちゃいましょう」
イチャイチャし始めた二人から目を逸らして成瀬を探せば、手伝った礼だろうか、自治会のおじちゃんから餅をもらって満面の笑みを浮かべていた。
「mignon……」
高瀬の呟きに、龍樹とルルも成瀬を見る。
「お餅もらえました~」
走って戻ってきた成瀬を、高瀬は胸に抱き止め、強く抱きしめた。
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