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第1話【序章】弟子ができて歓喜のライオン、急に魔獣と魔法バトル勃発
「シェフ、弟子にしてください!」
「は?」
真っ直ぐにバルドを見つめ、やる気に満ち満ちている志岐を、蓮は見つめる。
その横で、同じく気合を入れたチェシュが蓮に真剣な目を向けてきた。
「蓮さん、弟子にして欲しいですにゃん!」
「はぁ?」
厨房に響く蓮の声とは裏腹に、蓮の隣のバルドはフルフルと震え出し、目を赤くして、鼻を啜って感動している。
(え、なんで?)
「よしわかった!今日から修行だ!」
「いや待て。理由聞けよ」
チェシュと志岐は、正式にでは無いが、婚約めいたことをしたらしい。
そこで、将来は自分達の店を持ちたいと言う。
「バルドバールみたいなあったかい店にしたいにゃん」
「シェフみたいな美味しい料理でみんなを笑顔にしたいんです」
未来ある若者達にそう言われれば、多少蓮も心が動くが、隣で大泣きしながら喜んでいる大型ライオン獣人には多少ひく。
「それはわかったけどよ。バルドは火魔法が使える。志岐は人間だろ。人間が使えるコンロはこの店にはないぞ」
「あ……そうか……」
「良いじゃないか。コンロ一つくらい志岐のために増設しよう」
「お前のそう言うところ、親譲りなんだな」
そんなこんなで、市場へ食材と共に買い出しに行くことになった。
調理道具屋で、志岐とバルドはコンロを見る。
大きな物は火魔法が使えないと扱えないようで、人間用の小さなコンロの売り場に来ると、志岐はテンションが下がっていた。
「なんか格好悪いですね」
「格好なんて関係ない。上手く扱えるかが大事だ。細かい火加減ができるやつがいいな」
「シェフみたいにドーンとゴオオッと火柱立てて料理したいんですよ」
「あれを志岐がやったらすぐ火事になるぞ」
「そうなんですか?」
「火は繊細なんだ。上手く扱ってやらないと全てを失うぞ」
「はい……」
バルドは素直な志岐の頭を撫でて、店員を呼ぶ。
バルドの料理を教えるのならば、バルドのような火の調節ができるものをと、実際に火を出して店員に確認をする。
「申し訳ございません。そこまで繊細な扱いになりますと、特注になりますね。それも、作ってもらえる工房があるかどうか……」
店員は言い淀みながら、一枚のメモを渡してきた。
「ちょっと難しいかもしれませんが、ここの工房なら作ってもらえるかもしれません。ただ……」
「まぁ、地道に探すしかないな」
調理道具屋を出て、バルドは肩を落とす志岐を慰める。
「火が使えなくても料理の修行はたくさんあるぞ。まずは包丁だ。俺のを一本やるから、それから練習していけ」
「シェフ……」
ニカっと笑うバルドに志岐は目を潤ませる。
「さて、蓮とチェシュはワインを買いに行ってたな」
ワインショップを探すと、店先でフラフラとしている二人の影があった。
「あ、飲んでますね、あの二人」
「しょうがないな」
「いいか、チェシュ。ワインはまず味を覚えろ。だから飲め」
「はい!師匠!」
チェシュに試飲を飲ませ、蓮も飲む。
蓮もチェシュの言葉が嬉しかったのだろう、いつもは香りや味をしっかりとみて、ワインを選ぶ飲み方をするのだが、今日はただただ飲んでいる。
結果、二人ともに千鳥足になっていた。
「蓮さん、チェシュさんに飲ませすぎですよ」
「うるせぇな。ワインは飲まなきゃ覚えないんだよ!」
「蓮も飲み過ぎだ」
バルドは苦笑しながら、蓮のグラスを取り上げた。
「あー、なんだか楽しいにゃん。ワイン最高だにゃん」
チェシュはヘラヘラと笑いながら通りへ出て行く。
「おい、待て待て。まだ覚えることはあるぞ」
その後ろをフラフラと蓮が追っていき、バルドは店員に会計を頼んだ。
店員は、最初はちゃんとした講義だったのだと笑っていた。
バキっという音が、バルドの耳に届いた。
「どこか工事でもしてます?」
「いや、どこもしてないですけど」
店員の言葉の間にも音は大きくなってきた。ついでに、森でよく聞く足音もしてくる。
「お客さん?」
「シェフ?どうしたんですか?」
普段からは想像できない緊張した顔をするバルドに、志岐はただならぬ様子を感じた。バルドはダッと外へ駆け出した。
「魔獣だ!みんな、建物へ入れ!」
バルドは通りへ出て、大声で叫ぶ。
通りを歩いている人間は皆驚いているが、獣人は気付いたようで、建物へと避難していく。
それに続くように人間達も駆け込んできた。
「シ、シェフ……」
「志岐はその店にいろ!」
「チェシュさん達が……」
「大丈夫だ。すぐに探してくる」
人の波の中に二人を探すが、魔獣の足音と破壊音はどんどんと近くなってくる。
「どこだ!蓮!チェシュ!」
バルドの声も、雑踏に消されてしまう。
仕方なしに、店の屋根へと登ったバルドは、すぐ近くに魔獣の姿を確認した。
そして、通りをフラフラと歩く二人も見つける。
「なんだ?みんななんで走ってる?」
「にゃ~?タイムセールかにゃ~?」
「なんだそれ。こんな騒ぎなるのか?」
「にゃは~、あ、蓮さん、魔獣にゃん」
「え?」
振り向いた蓮の目の前には、バルドの大きな背中と、その向こうにやたらと気が立っている、ブラックカウ。
いや、以前バルドが狩ったものの五倍は大きいそれは、確か別の品種だったはずだ。
そんなことを思い出している蓮の頬に、温かい雫が飛んできた。
(赤ワイン?)
ヌルッとするそれに触れ、さぁっと酔いが覚めていった。
「バルド!お前、腕、咬まれてる!」
「早く逃げろ、蓮!」
デカいバルドよりさらにでかい魔獣をギリギリと抑え込みながら、バルドは叫ぶ。
その声で、蓮はチェシュの手を掴んで、建物へと入って行った。
「バルド…………」
祈るようにバルドを見ると、咬まれてボロボロの手に火球を作っていた。
ゴオッと魔獣に放つが、いつもより勢いは小さい。
魔獣がグルグルとバルドを押していく。
「蓮さん、手離してくださいにゃん」
蓮がダメだと言う途中で、チェシュが駆け出していた。
「バカお前、危ない!」
蓮が追いかけようとすると、チェシュが振った手から風が起こり、建物に吹き戻された。
「オーナー、もう一回にゃん。こいつをこんがり焼いてやるにゃん!」
「チェシュ。わかった」
バルドが火球を作ると、チェシュは両手の間に竜巻を作った。
二人が魔法を放ち、魔獣は火旋風に包まれ、ジュワリと焼けるいい香りが辺りに立ち込めた。
「カルも振りたかったな」
バルドは咬まれた腕を庇いつつも笑った。
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