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第2話 貴族の腹芸にライオンは驚愕する
「あの魔獣、公爵家が生け捕ったやつだったらしいにゃん」
市場から帰ってきた次の日、バルドの怪我で店は開けられないが、今後のことを話そうとみんなが集まった。
そこで、チェシュが重大なことをサラリと言った。
「え……あれ、バルドが市場のみんなに振るまっちまったぞ」
「た、確かに美味しかったですけど……罪になりませんかね」
志岐の言う通り、何かしらお咎めがあるかもしれない。
ヤバいと顔を引き攣らせるチェシュは、今、重大さに気付いたようだ。
「市場の被害が無かったんだ。いいじゃないか」
バルドは、咬まれて折れた右腕に添木をして三角巾で吊っている。
なんとなくいつもより覇気が無いのは、少し熱があるからだろう。
「いや、食べたのが問題なんだよ。公爵家になんて言われるか……」
「蓮さんの家の力でどうにかなりませんか?」
「ならないな。俺は伯爵家だ。身分は下。そもそも家に頼れる立場じゃない」
「にゃ~、投獄は嫌にゃん」
そんな話を店でしていたら、入り口に人影が見えた。
やけに身なりの良い男だ。蓮は宮廷の使用人を思い出す。
「なにか?」
「レパック公爵の遣いの者です。魔獣を制圧された件で……」
「あっ!それはオーナーがやりましたにゃん!その後切り分けて振る舞ったのもオーナーにゃん!」
チェシュは自分は何もしていないと主張し、バルドの陰に隠れる。
「あぁ、美味しくいただいた」
バルドはダルそうにカウンターにもたれながら、ありがとうと従者に笑う。
(や、だからそう言うことじゃ無いんだって)
従者はカウンターまでゆっくり歩いてくると、バルドに綺麗に頭を下げた。
「ありがとうございます。街の危機を救ってくれまして。聞けば、あなたは商店街の料理バトルでも優勝する腕前だとか。その腕を負傷させてしまったことに、公爵様はとても悲しんでおられます。当面、お店の営業はできないでしょうから、その補償と、今回の賠償金をこちらでお願いできませんでしょうか」
従者が出してきたのは、小切手。
その額に、バルドは目を丸くする。
「い、い、いや、こんな金……」
「妥当だろ。むしろ街を救ったにしては少ないくらいじゃないか?」
「さすが伯爵家の方はお厳しい。こちらと共に、今後店を再開させた時には、公爵様の印も看板に入れさせていただければと」
「なるほどな。それならまぁ……」
蓮と従者の話し合いに、志岐とチェシュは縮こまっていた。
チラリとそちらを見て、蓮は言葉を続ける。
「じゃあ、それに付け加えてこの店の増築の金も出してもらおうか。それこそ、公爵様に来て頂けるような格のあるものにしてもらえたら、このバルドシェフの最高の料理をご提供しますよ」
「それは……どうでしょう……」
「難しいですか?」
蓮は綺麗な顔で綺麗に笑いながら従者を追い詰める。
「わかりました。ご検討いただけると思いますが、一度持ち帰らせてください」
「あぁ、良い返事を待ってますよ」
従者が帰り、バルドは慌てる。
「れ、れれれれ蓮!!」
「落ち着け、熱上がるぞ」
「だ、だってこんな大金もらうのに、あんな条件付けるなんて、お前は悪徳業者か!」
「誰がだよ!良いんだよ。あれだけのことしてやったんだ。市場から出してたら、最悪、国から処罰される案件だぞ。こんな金で庶民をバカにしてんなって話だ。それに、増築できればコンロの金も心配しなくていい。ワイン蔵も増やせる。お前達の修行も捗るだろ」
フッと笑った蓮に、志岐とチェシュが飛びついてきた。
「蓮さん!」
「ありがとうだにゃん!」
「おっも……」
二人に抱きつかれ、蓮は床にめり込む勢いで倒れた。
「さすが蓮だな……」
そんな様子に、バルドは明るく笑う。
チェシュと志岐を返して、蓮とバルドは当面の生活は心配ないと二階の部屋で一息ついた。
バルドは、ぐったりと自分の椅子に座ってため息をつく。
蓮はそっとバルドの額に手を置き、その熱さに心配をする。
「大丈夫か?熱上がってねぇ?」
「うぅ~……これ、外して舐めたらダメか?」
「ダメだろ。舐めても治らねぇから。辛いなら、横になってろよ。腹減ってんならなんか作ってやる」
「本当か?」
「あーダメか。ここのコンロじゃ使えない」
「あ……」
期待から、一気に落ち込んだバルドに蓮は笑いかける。
「バルド……」
座っているバルドを上に向かせて、ゆっくりと唇を合わせれば、薄く口が開かれる。
どうやら、舌を絡めるのがバルドは気に入ったらしい。
軽く甘噛みしてやり、チュッと吸い付けば、バルドの腰がピクンと震える。
あまり期待させるのは良くないと、蓮はそこで唇を離した。
「キスは、怪我を治すおまじないでもあるんだぞ」
「蓮……もう、治った……」
「無理すんな。なんか買って来てやる。何食べたい?」
「蓮がいい……」
左手で強く引き寄せられ、バルドの上に座る形になった蓮は、仕方ないともう一度唇を合わせた。
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