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第4話 凶悪すぎるほど綺麗な笑顔で、ソムリエは旅の足を手に入れた。

 薫の店の特別室は、豪華だ。  小さいがシャンデリアもあり、壁には果実畑や農作業が描かれたおしゃれな絵が飾られている。  一点だけ、赤いオープンカーが描かれており、これは奴の趣味だろうと蓮は思った。  特別室はとても静かだが、一歩フロアに出れば満席で、入り口には長い列が出来るくらい繁盛していた。  それというのも、いつかの料理バトルのテレビ番組のおかげもあるが、最近始めたという珍しい果実のデザートビュッフェが大当たりしているのだ。 「美味しいかい?」  ビュッフェではあるが、蓮たちの目の前には次々と料理が運ばれてくる。  特別室だから当たり前だと店長兼料理長の薫が自ら運んできては、蓮に声をかけてくる。  蓮は、外で待っている人達に悪いと思いつつも、料理を堪能していた。 「えぇ、普通に美味しいですね」 「手厳しいな。バルドさんの料理に比べたら普通か」 「いえ、万人受けするから良いじゃないですか」 「ふっ、僕は君の特別になりたいのだけどね」  スッと頬を撫でられ、蓮は鳥肌を立てる。 「あの、このハンバーグすごく美味しいです。どうやって作っているんですか?」  志岐が、雰囲気をぶち壊すように薫に話しかける。 「ありがとう。でも、企業秘密だよ」 「あ、そうか。すいません……」  バルドの弟子として、料理人を志した志岐は、最近は食べたものの作り方がとにかく気になるらしく、蓮が作ったバルド用の粥にすら興味を持っていた。 (水に漬けただけだと言ったらショック受けてたな)  その後、バルドが自分で火を入れてカルやキャンで味をつけていた。 「薫さん、ベンネ食べてみたいですにゃん。蓮さんも言ってましたにゃん」  チェシュの言葉に、薫はパッと顔色を明るくする。  おそらく、ベンネを仕入れている事が自慢なのだろう。 「すぐに持ってくるよ」  蓮にウインクを飛ばして、薫は部屋を出て行った。 「やっぱり、蓮さんに来てもらって正解だったにゃん」 「お前、並ぶの嫌だからって、俺を餌に薫さん呼んだだろ」 「そんな事ないですにゃん。薫さんがたまたま蓮さんに気付いてくれただけにゃん。それにベンネは食べてみたいって言っていたじゃないですかにゃん」 「それにしても、ここまで豪華な部屋を用意してもらえるなんて蓮さん、すごいですね」 「それは嬉しくない褒め言葉だ」  食材の買い出しに来ていた所を、チェシュと志岐に捕まった蓮は、家で腹をすかしているだろうライオンを想い、多少罪悪感が芽生え始める。 (ベンネに釣られたとは言え、こんなに時間かけてたらバルドの筋肉が萎れるんじゃないか?)  蓮が、シオシオになったバルドを想像したところに、薫がビュッフェで出しているというベンネのスイーツを持ってきた。  真っ赤なジュレに、果実が混ざっている。  蓮は、薫の説明もそこそこにスプーンを入れ、口に運んだ。 (うま……酸味と甘味のバランスがいい。ルムは入って無さそうだな。果実の甘みか)  無言で食べ進める蓮に、薫は満足気に笑った。 「美味しいだろ?僕が栽培してる現地まで行って、直接店に卸して貰えるように交渉したんだ。まだまだ市場に出回ってないものだからね」 「すごいですね。この前ベンネのワインは飲んだんですけど、熟成が浅いのにすごく深みがあって感動したんです」 「あぁ、そこでワインも作ってたね。良いところだったよ。のどかで空気も良くて、ワイン作りにもピッタリだろうね」  薫は壁の絵画を見ながら、思い出し、目を閉じる。 「行ってみたい……」  バルドバールが休みで、蓮もバルドも暇をしていた。  しかし、バルドの怪我もあり、なかなか外出が出来ていなかったのだ。  今日も、買い物に付き合うと言ったバルドを置いてきている。  蓮の看病は結構過保護なのかもしれないと思っていたところだった。  しかし、そう思っていないと蓮の理性が持たないからと言うのもある。 「僕が案内をしようか?蓮くんと二人で旅行なんて楽しそうだ」  バルドがいないのを良いことに薫はやたらと距離が近い。  さっきから志岐がなぜか薫を睨んでいるのだが、バルドの味方でいたいという事だと蓮は納得することにした。  チェシュだけは未来の夫を不満そうに見つめている。  蓮は食事を終え、立ち上がると薫に真っ直ぐに向く。 「薫さんの車も格好いいですよね」 「わかるかい?この車であの果実畑を走って、君と一緒に綺麗な景色を楽しむのは凄く楽しいだろうね」 「そうですね。有りです」 「え、蓮さん!」 「嬉しいよ。僕ならすぐに休みを取るから」 「いえ、車だけ貸してください」  蓮はそう言うと、薫に向かってとても綺麗に微笑み、鍵を出せと手のひらを向けた。 「蓮さんが一番薫さんを利用してるにゃん」  ぽそりと呟いたチェシュの言葉は無視をしておく。  バルドは、自宅の玄関に続く階段の下で、樽に座りボーッと空を見上げていた。  腕の痛みも熱も無く、それ以外はとても元気だと言うのに、ほとんど家から出してもらえない。  特に生活に困ることは無いのだが、いかんせん暇である。  趣味のガーデニングの花たちにも水をやり終えた。  料理を作ろうにも、包丁が握れず食材を無駄にしてしまう。  昼飯の材料を買いに行くと言って出て行った蓮の帰りをただただ待っている。  まるで隠居した爺さんみたいだとバルドは背を丸くした。 「おい、バルド。そんなところに座ってたら体冷えるぞ」  バルドが爺さんみたいだと思うのは、このやたらと病人扱いしてくる蓮のせいだろう。 「悪いのは腕だけだ。体冷やして風邪ひくほど弱ってない……え、なんだそれ?」  蓮の声に顔を向けたバルドは、真っ赤なオープンカーを運転してきた蓮に驚く。  店の裏口に車を入れ、颯爽と降りてくる蓮は、若い女の子が見たら悲鳴をあげるほど格好良い。  バルドも思わずときめいてしまった。 「なぁ、バルド、旅行行かないか?」 「新婚……旅行かっ?!」  バルドの尻尾が期待に揺れた。

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