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第6話 バルドの師匠、料理より弟子の夜事情を心配していた
蓮が運転するオープンカーは、颯爽と田舎の道を走る。
所々にある農村を超えて、その周りの畑や森を抜けていく。
快適なドライブに、バルドは立髪を気持ちの良い風に靡かせていた。
隣には、サングラスをかけてハンドルを持つ蓮がいる。
いつも思っているが、今日は車の赤も映え、最高に格好良く、美しい。
旅の始まりは順調だった。
地方の街を抜け、草原の中の道を抜けると、小さな村があった。
「あれか?」
「あぁ、修行してた村だ」
村の入口には高級車がびっしりと並んでいる。
「こんな田舎に車多すぎないか?」
「みんな師匠の料理目当てだ」
「へぇ、すご……」
「車はあそこに停めろ。お婆婆に金を払えばいい」
金を払うにしては、ただの空き地すぎる場所だ。
「……駐車場って概念、雑すぎるだろ」
バルドが修行していたという、象の獣人が経営するレストラン。
そこを旅の始めの目的地にした。
バルドは蓮を紹介したいというが、蓮としては、バルドの料理の基礎を作った人が気になっていた。
駐車場のお婆婆に金を払うと、曲がった腰を精一杯伸ばして、バルドを見上げた。
「あ、バルド?バルドかい?」
そう驚きながら、蓮とバルドを交互に見たお婆婆は、バルドの久しぶりという声に返事もせず、管理小屋にあった大きな鐘を鳴らし始めた。
ガランガランとけたたましい音が鳴り、次に拡声器で村中に声を響かせる。
『バルドが帰ってきたよ!恋人を連れている!ノーティスさん聞こえるかい?』
蓮は突然の騒動に、バルドへ身を隠すように引っ付いた。
「何、お前来ること知らせてなかったのかよ」
「ん?あぁ、別に来れば会えると思ってたから」
「いや、騒ぎになってるだろ」
「これが普通だ。お婆婆は騒ぎたいんだ」
「は?」
行くぞとバルドに手を引かれて、蓮は若干警戒しつつ着いていく。
お婆婆は拡声器を置くと、管理小屋の椅子に座り、満足気に車を眺め出した。
(え、本当に騒ぎたいだけ?)
あれだけの大音量だったにもかかわらず、村に入れば皆普通に過ごしていた。
バルドは道ゆく人々に挨拶をされ、結婚おめでとうだのと祝福を受けては、照れたように笑いながら蓮を見せびらかしていた。
蓮は到着前に披露宴を終えた気分になった。
ぐったりしている蓮の目の前に、高い壁が現れる。
白壁と赤屋根の建物は、レストランというより教会か城だった。
「でか……」
「何も壊す心配ないだろ?」
「いや、すごい所そこじゃなくね?」
大きな門を抜けて入り口までの小道にもたくさんの花が植えられていて、バルドの意外な趣味だというガーデニングはここで教わったものなのだと分かった。
「師匠、失礼致します!」
扉が開くと、バルドよりさらに大きい象の獣人が仁王立ちしていた。
「おう、バルド。よく来たな。どうした!その手!」
いでたちとは違い、かなり穏やかに、にこやかにノーティスは話す。
しかし、バルドの右手を見て、何があったと掴み掛かってきた。そ
の勢いに、蓮はまたバルドの腕が折れるのではと危惧したが、バルドは笑っていた。
「いやぁ、ちょっと魔獣にやられました」
「バルド……可哀想に。これじゃあ、料理ができないだろ。ちゃんと食べられているか?」
「あ、はい。蓮が手伝ってくれるので。師匠、蓮です。俺の……こ、こ、恋人……です……」
「は、初めまして」
照れ照れと、バルドが蓮をノーティスの前に紹介した。
「あぁ、拡声器で聞こえていたよ。君がバルドの身体を好き勝手してるのか!?」
急に威圧的な雰囲気を出し始めたノーティスは、蓮に向かってかがみながら顔を近づけてくる。
「好き……勝手までは……」
(したいと思う時はあるけど……)
蓮はなんとか声に出し、頑張って笑った。
なんでこんなに威圧的なのかはわからないが、とりあえず人受けする笑顔を作る。
「けしからん。バルドの純潔はまだ守られていると思っていたのに、こんな派手な人間に……」
薫ならまだしも、蓮は美男子系だ。
チャラチャラと装飾品もつけていないのに、派手と言われたのは初めてだった。
「師匠、蓮は俺にベッドの作法を教えてくれたんですよ」
バルドは必死に蓮を庇おうと、ノーティスに蓮の功績を伝える。
蓮は逆効果だとバルドの服を引っ張るが、話は進んでいってしまう。
「なっ、作法なんて言って、抱き潰されて、喘がされてるだけだろ」
(え、俺が抱いてると思ってんの?!)
「違います!俺が蓮を抱き潰しています!」
「バ、バルド!」
蓮は引っ張っていたバルドの服をさらに引っ張るが、バルドの体はびくともしない。
(ほらな、こんな相手抱けるかよ!)
バルドの言葉に、ノーティスはゆらりとバルドに顔を向けた。
瞬間に、バルドの顔が緊張する。
「なんだと?人間は弱いんだ。優しく扱えと教えただろ!童貞も大事にしろ!」
(どっかで聞いたなこれ)
「す、すいません!でも、蓮がもっとって言うから……いや、反省しています!」
バルドは、慌てて頭を下げ、反省を示す。
ノーティスの圧は止まらず、どんどんとバルドが床にめり込むように手をついていく。
(なんか論点ずれてきたな……)
「蓮、大丈夫だったか?バルドが人に怪我をさせないよう、力の制御を教えたのも俺だ。それが出来ていなかったのは俺の責任でもある」
「あー、いえ。別に熱出したくらいで。こいつはいつも優しいですよ」
急に柔らかい口調と雰囲気に戻ったノーティスは、蓮の言葉に優しく笑った。
「そうか、良かったよ。これからもバルドと仲良くやってくれ」
「え、あ、はい」
(え、認められたの?なんで?俺がバルドを抱いてなきゃ良いってこと?)
よく分からないが、ノーティスは蓮を受け入れてくれたようだ。
こういう愛なのかなと蓮もノーティスの感情には深入りしないことにした。
「バルド、せっかくだから少し修行していけ。力の制御が出来なきゃ街ではやっていけないぞ」
「はい」
「いや、お前腕折れてんだぞ?」
「大丈夫だ。力は使わない」
そう言って、シャツを脱ごうとして、苦戦しているバルドを蓮は手伝う。
レストランの裏手に行くと、綺麗な芝生の庭に、大きなプールがあり、ノーティスはそこから手招きをしてくる。
バルドは、よろしくお願いしますと頭を下げてから、プールに入って行った。
添木の手は痛々しく、蓮は少し心配になる。
「蓮は、そこの椅子で見ているといい」
「あ、はい」
プールのそばにあった椅子を指し示されて、蓮は座る。
水の反射が綺麗で、眩しい。庭に続いている畑は、クロップが教えてもらっていたものだろうか。
その先の森も自然が豊かでとても気持ちの良い場所だ。
大きく伸びをしたくなる気持ちを抑えて、ノーティスとバルドを見る。
「心頭滅却」
「はい!」
ノーティスが声を掛け、バルドが返事をする。
すると、プールの水が魔法で持ち上げられた。
水が全て宙に浮き、水の底だったところで魚がピチピチと跳ねている。
(池だったのか)
次の瞬間、水の塊が、バルドを目掛けて落ちてきた。
とてつもない水量と音に、蓮は椅子の上で身を引く。
(あんなの、息できないだろ。水圧にも潰される)
しかし、バルドは目を瞑って、合掌したポーズのまま動かない。
「いいか、バルド!料理も魔法も全ては力の制御からだ!繊細で豪快な料理をしたかったら、細かい力のコントロールを覚えろ!」
「はい!」
「もう一度だ!」
「はい!」
バルドとノーティスの修行?は続けられた。
しばらくして、その光景に慣れた頃、蓮は伸びをして目を閉じ、激しい水音を聞きながらウトウトとまどろんだ。
(師匠の料理はいつ食えるんだか……腹減った……)
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