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第7話 閃いた師匠が作るお祝い料理は卑猥きのこ 〜魔棘鳥の卵の渦包み〜
まどろみの中から、蓮は目を開けた。
目の前では、まだ象の獣人がライオンの獣人に水の塊を落としていた。
そろそろ池の魚が可哀想じゃないかと蓮は思う。
見れば太陽は大きく傾き始めている。
「バルド!水のように、柔らかく包み込むんだ!強い力じゃ水は掴めない!包め!柔らかく掬うように!」
「はい!」
「……………………」
「…………師匠?」
「よし、良い事を思いついたぞ」
そう言って、ノーティスは建物へと入って行った。
バルドは、明るく笑いながら池から出てきて、ブルブルと頭を振り水を飛ばす。
「どうしたんだ?終わりか?」
「あぁ。きっと美味いものが食える」
すっかりと陽が落ちてから、蓮とバルドはノーティスのレストランの一席に座っていた。
ドレスコードは無いと言われていたが、周りに座っている客達は皆綺麗な装いでいる。
よく見れば社交界で会ったような人達ばかりだ。
「なぁ、本当にこの格好で構わないんだよな」
「あぁ。この店はカジュアルレストランだ」
バルドも蓮もTシャツにスニーカーという動きやすさ重視な格好だ。
バルドに至ってはまだ立髪が湿っている。
蓮は落ち着かないとあまり店内を見ないようにした。
しかし、周りのテーブルからは様々な香りが漂ってくる。
どれも綺麗に盛り付けられていて、ノーティスの大きな手で作られているとは思えないほどの繊細さだ。
蓮は腹の虫を抑えながら、テーブルの皿を観察した。
「バルド、蓮、待たせたな。さっき思いついた新作だ」
しばらくして、ノーティスが自らテーブルに料理を持ってきてくれた。
置かれた大きな皿の上には、巨大な白い塊。
「師匠、これは……魔棘鳥の卵ですか?」
「え、あの巨大な?」
「そうだ。昨日魔棘鳥を狩ったら、巣に卵もあったんだ」
バルドに狩りを教えたのもノーティスかと、蓮は合点がいった。
しかし、魔棘鳥の卵は魔鳥卵の五倍はあって、割ることも難しい。
「どうやって割るんですか?こんな綺麗に」
「ん?カンカンてヒビを入れてパカって割る」
ノーティスは当たり前のことを聞くんだなというように普通に答えてくれた。
蓮は、これが力加減なのかと、引き攣った笑みを返した。
皿の白い塊にナイフを入れると、スッと割れトロトロの白身から、ゴボロやカラランが出てくる。
そして、最後に目をひくフンポダケ。
「はっ?」
思わず出た声に蓮は口を押さえた。
「師匠、フンポダケの栽培も成功したんですか?」
バルドが興奮したように中身に顔を寄せてノーティスを見る。
「あぁ!天然のものよりかなり小さいけどな。俺からの結婚祝いだ」
「ありがとうございます!!」
(卑猥きのこって祝いの品なの?子孫繁栄的な?)
中に詰まっていた食材と共にスープも流れ出てきて、香草のいい香りもする。
「こ、これ……マフマフ……」
フンフンとバルドのテンションが上がる。
「あ、マフマフはまずかったか。蓮が今夜大変かもしれないな……」
ノーティスは、バルドの溶ける顔を見て、しまったと額に手を置いた。
(大変かもしれないなで終わらすなよ。今は禁欲中なんだ)
蓮は思っていることは口にせずに、ニコリと綺麗な笑顔をノーティスに向けた。
「た、食べても……良いですか……」
蓮が皿に取り分けてやると、バルドは左手でフォークを持って、鼻息を荒くする。
それでもまだ、理性は保っていた。
「あぁ、食べろ。マフマフ酔いしないように気をつけろ」
「はいっ!」
バルドに続いて、蓮もフォークを口に運んだ。
「うまっ……」
(これを修行中に思いついたのか。さすが、バルドの師匠……)
「すごいです!なんですかこの味!柔らかくて、魔棘鳥の卵に包まれてる……優しく……良い香り……」
バルドの尻尾がユラユラと揺れ、表情がどんどんと溶けていく。
まるで、ベッドで感じている時のような顔だ。
「おい、バルド……その顔……」
「だいぶ美味いみたいだな。バルドのこの表情は」
「え?この顔が?」
「あぁ!」
ノーティスは、バルドと同じようにニカっと笑う。
「蓮は、美味くないのか?」
「あ、いえ。美味いです、とても……」
「良かった。蓮もいい顔をするな」
「う、美味いって顔ですよね」
「もちろんだ。気持ちいい顔なのか?」
「はっ?」
「冗談だ」
ノーティスは柔らかく揶揄うように笑う。
(食事と性行為は似てるとかどっかで聞いたことあったな)
蓮はバルドの顔を見ながら、疼く下半身を宥めた。
「蓮はソムリエだったな」
「あ、はいっ!」
邪な考えを振り払うように、蓮は大きな声で返事をする。
「この料理に合わせるなら、何のワインが良い?」
蓮は真面目な顔をして、料理を見つめる。口に残る香りと味を確かめつつ、ワインを思い浮かべる。
「泡のシャルシュか、ゼクムでも良いかもしれません」
「なるほど、俺と気が合うな」
ノーティスはシャルシュのワインを取り出して、ポンと栓を開けた。
「これも、俺からの祝いだ。しっかり食べて、この後のバルドを頼むぞ!」
「……は……い……」
(え、この人の貞操観念どうなってんの?)
蓮は戸惑いながらグラスを持って、ワインを飲む。
シャルシュの泡が、スルッと魔棘鳥のとろみを流し、すっきりとした味わいが残った。
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