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エピローグ 異世界で手に入れた未来
「十番さんと十七番さん、十二番さんと二十九番さん、そして三十番さんと三十三番さん、カップル成立です! おめでとうございます!」
俺が声高にそう宣言すると、酒場に集まっていた男女がどっと湧いた。
カップル成立した男女は早速のようにその場でキスを交わし、抱きしめ合ったり周りの喝采に手を挙げて応じたりしている。日本で見てきた光景とはちょっと違うけど、みんなが嬉しそうなので何よりだ。
残念ながら、今回カップル成立しなかった人たちもいる。若干しゅんとしているように見える若者、肩をすくめて天を仰いでいる中年男性、ちょっとほっとしたように出された料理をぱくつく女性陣などなど。
その中にいた最年少の屈強男が、わいわい賑わっている人々をかき分けて、俺に近づいてきた。
「なあリオン様、次回のコンカツパーティはいつだ? 俺、今回は気の合う子がいなかったんだよ」
「次はひと月後だよ。次回は隣町からの参加希望者もいるって聞いてるから、君にも合う女性が現れるかもしれない」
「ほんとか!? そっかぁ~……早く来月になんねぇかなぁ~」
まだ十八歳でバキバキにガタイのいい炭鉱夫の彼は、大家族の生まれで早く家族が欲しくてたまらないのだ。いかにも健康的な外見は好ましいし、仕事が好きでよく働く彼のことだ、きっとすぐにお相手が見つかることだろう。
オルヴァ様とともに炭鉱の街へやってきた俺は、ここで本格的に婚活コーディネーターの仕事に勤しんでいる。
俺とオルヴァ様の馴れ初めが『コンカツ』なるものだと知った街の人たちが、ここでもぜひ開催してほしいと依頼してきたのが始まりだった。
盗賊がいなくなり、王都との交易が元通り盛んになった今、魔法石採掘の街・ブレイバルトにはたくさんの人々が訪れる。田舎から出稼ぎにくる若い男女も多く、新しくこの街で家庭を持つ人々も多い。
ただ、炭鉱夫は寡黙な男が多くて、不器用ゆえに女性との出会い方がわからない人たちがたくさんいることを俺は知った。
そして、稼ぎも体躯も立派な彼らにアプローチしたい女性もたくさんいるということも、俺は気づいた。
そんなこんなで、彼ら彼女らに出会いの場を提供するようになって早一年。成果は上々だ。
俺は街の人から『コンカツ屋のリオン様』と呼ばれるようになり、すっかりここに馴染んでいる。
そして——
「リオン? ああ、まだここにいたんだな」
「オルヴァ様!? こ、こんな酒場までどうしたんです!?」
「公務が早く終わったから様子を見にきたんだよ。帰りが遅いと心配になるからね」
街の中で一番大きな酒場に、キラッキラの王子様が現れた。
婚活パーティで貸切にしていた会場が、オルヴァ様の出現でさらにドッと湧く。背後にフェルナンとギルバートのふたりを引き連れたオルヴァ様はあまりにも華やかで、老若男女の目線を引いて離さない。
「これはこれはオルヴァ様! いっぱい飲んでいってくださいよ!!」
「おかげさまで炭鉱に新しい機材が入りました! いや~実に楽になりましたよ、ありがてえ~!」
「さ、ほら、おつきの騎士さんたちも飲んで飲んで!」
と、街の人から大歓待を受けるオルヴァ様は、ちょっと困ったようでいて、とても嬉しそうな笑顔を浮かべている。
酒を勧められても飲むわけにいかないお付きのふたりは騎士然とした真面目顔だが、フェルナンは、さっきカップル成立できなかった十八歳の若者をスケベな目で見ているし、ギルバートは腹が減っているのか視線が肉に釘付けだ。
街の人たちにすっかり受け入れられているオルヴァ様の隣で、俺も木製のジョッキを勧められる。俺はそれを受け取って、オルヴァ様を見上げた。
「せっかくだから、ちょっと飲んでいく?」
「それもそうだな。民との関わりは大事だし、一杯だけ」
「あっ! だめですよオルヴァ様! 飲む前に私が毒味をいたします! ほら、ジョッキをお渡しください」
毒味をしようとしているのかただ自分が飲みたいだけなのか、フェルナンがサッとオルヴァ様からジョッキを取り上げる。そしてぐびぐびと半分くらい飲み干して、「……間接キッス……」と呟きながらオルヴァ様にジョッキを返した……が、すぐにギルバートが代わりのジョッキをオルヴァ様に差し出す。
「俺が毒味しておきました。どうぞ」
「ああ、ありがとうギルバート。助かるよ」
「ちょっ!! 間接キッスくらい構わないでしょう!?」
といった感じですっかり仲良くなった三人を見ているのも楽しい。三人とも美形なのでなおさらだ。
わちゃわちゃしている騎士たちと苦笑を浮かべるオルヴァ様をつまみに、俺はぐびっとジョッキをあおった。
「ああ~、楽しかったあ~」
そして、馬車に揺られてブレイバルト城に戻り、ベッドにばたりと横になる。
オルヴァ様はそんな俺を咎めるでもなく優しい笑みを湛えて俺の隣に腰を下ろして、肘枕で横たわった。
「今回も盛況だったみたいだね」
「うん、そうなんだよ。あ、そうそう。一回目のパーティで知り合って結婚したカップルに赤ちゃんが産まれたらしくて、わざわざ見せに来てくれた夫婦もいてさ」
「へぇ、すごいな。リオンのおかげで生まれた子だ」
寝転がったまま今日あったことを話していると、オルヴァ様の手が伸びてきて、そっと俺の黒髪をかき上げた。
露わになった額にキスをくれるオルヴァ様に、俺はぎゅっと抱きついた。
「オルヴァ様も、街の人とすごく仲良くなってるじゃん。俺、すごく嬉しいよ」
「ふふ……そうだね。僕も驚いているよ。こんなにも親しく付き合ってもらえるものなのかって」
「オルヴァ様が、街の人たちの声をしっかり聞いてくれる優しい領主様だからだよ」
俺も手を伸ばし、サラサラの銀髪をそっと撫でる。オルヴァ様は唇に笑みを乗せたまま気持ちよさそうに目を閉じた。
「ありがとう、リオンのおかげだ。君に出会わなかったら、いったいどうなっていたことか」
「え? あは……そうだなぁ」
出会ったその日のことをふと思い出し、俺はちょっと苦笑した。
すっかり自信を失って、暗い部屋に閉じ籠り、俺から隠れようとしていたオルヴァ様の姿を——……
かすかにベッドが沈み、オルヴァ様が俺の上に四つ這いになった。そしてちょっと拗ねたような顔で俺を見ている。
「恥ずかしいから、思い出さないでくれないか?」
「そんなことないって、可愛かったよ?」
「あの無様な姿を可愛いと言われても嬉しくないから」
「ふふっ、ごめんって」
下から手を伸ばし、オルヴァ様の頬を両手で包む。拗ねた顔がふっと緩んで、俺を見下ろす君色味を帯びた瞳が柔らかく細められた。
愛おしげに笑うオルヴァ様の笑顔が間近にあり、とくとくと胸が高鳴る。あの頃がうそのように表情豊かになったものだ。
「リオンがいてくれたから、カイゼル兄様とも打ち解けられた。父上とも、普通に話ができるようになった」
「そう、かな」
「けど、カイゼル兄様がリオンを囮に使ったことは一生恨むけどね」
「またそんなこと言って。いいんだよ俺は。あの一件で、プレイバルドの街を狙う盗賊が一掃されたんだ。攫われた甲斐があったってもんだよ」
「リオン……」
俺は実際そう思っている。盗賊落ちした貴族の反乱を放置したままオルヴァ様がこの街に赴任することになったら——なにが起こっていたかわかったもんじゃない。
「そういえば……カイゼル様って家族はいるの? ひょっとしてあの人のほうが婚活が必要だったりして?」
ちょっと前から地味に気になっていたことを、俺はオルヴァ様に問いかけた。すると、俺の黒髪を弄びながら額や頬にキスを落としていたオルヴァ様が、びっくりするようなことを口にした。
「婚活は必要ないよ。兄様は十八の時に結婚してて、子どもが五人もいるからね」
「………………え? えっ!? 子どもが五人!!??」
「上から、六歳、五歳、四歳の双子、一歳……だったかな。一番下の赤ん坊だけが女の子で、上の子たちは全員男だ」
「ええええええ。奥さんは? 奥さんはどんな人なの!?」
「兄様の幼馴染で、親同士が決めた許嫁だったらしい。性格はおっとりしてらっしゃるけど、締めるところは締める感じの人で、カイゼル兄様も頭が上がらない感じだったな」
「へ、へぇ~~」
いつぞやの王族の集まりで、オルヴァ様はカイゼル様ご一家とも対面したのだという。
アルヴィス様のところのアリス様を含めて六人もの世継ぎがいるというのは、なんとも頼もしいことだ。
そういえば、後妻である今の王妃殿下も妊娠されているんだっけ。
「王妃殿下の子もお生まれになるし、フィオレアン王国は安泰だな」
「そうだね。だから僕は好きにさせてもらえたのかもしれない」
「ん……」
オルヴァ様の柔らかなキスが唇に触れ、俺はうっとり目を閉じた。
頬を撫でていた腕を伸ばしてオルヴァ様の首に絡め、ぐいと下に引き寄せる。
愛おしい重みと温もりを全身で受け止めながら、ゆったりと舌を絡め合ううち、互いの吐息に熱がこもり始めた。
初めてキスしたときの拙さもエロくて最高だったけど、巧みさと余裕を孕み始めたオルヴァ様の舌使いには抗えない。
「ん……ん、ぁ……」
「リオン……今夜も、していい?」
「っ、うん……もちろん。俺もしたい、毎日でも」
「ふふ」
キスをしながらオルヴァ様が笑うのが、吐息でわかった。
つとキスの間に間に見上げれば、金色にとろめく美しい瞳がすぐそこにある。
長いまつ毛い縁取られた切れ長のまなじりをそっと撫で、微笑む。するとオルヴァ様も同じように微笑んで、うっとりするほどの甘い甘い快感を、ありったけ俺に与えてくれる。
異世界に迷い込んだ俺は、こうして身に余るほどの甘いハッピーエンドを手に入れたのだった。
おしまい♡
最後までお付き合い頂きまして、誠にありがとうございました!
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