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二月①・彼からの長い手紙

二月始めの日曜。 敦貴の実家へは、私が自分の軽自動車で迎えに行くことになった。 雅史先生が駐車場でナビに住所を入れてくれ、美智雄と二人で「気をつけて」と見送ってくれた。 車を運転しながら、敦貴から受け取った手紙のことを考えていた。 ・・・・・・・・ ねぇ先生。 俺にはね「記憶を保持する力」があるんだ。 中学三年の時から少しずつ記憶が蘇って、高一の時にはかなりハッキリと、七回目と八回目のことを思い出した。 トリガーとなるセックスをする必要がないくらい、強い力を持っているみたい。 八回目の人生でもね、俺は花睡高等学園に通っていたんだ。 そして寮で同室だった男と「特別」親しくなった。 その頃の俺は寂しがりなくせに強がりで、誰かに何かを頼るなんてできなかった。 でも、その男になら良い感情も悪い感情もあまり隠さずにいられたし、側にいると満ち足りた。 だから卒業して離れ離れになるのが、辛かったんだ。 「その気持ちを好きと呼ぶんだ」って教えてくれたのは、雅史先輩なんだけど、そう聞いた俺は、腑に落ちたよ。 あぁなるほど、圭吾が好きで愛おしいんだって。 だから卒業式の前日。 和登のことで喧嘩をしてちゃダメだ、ちゃんと話し合って仲直りをしようと思ったんだ。 好きだって伝えて、絵をプレゼントしたいって。 だけどさ、その直前に殺されちゃった。 理久に突然背中を刺されてね。 ここまではさ、ただの記憶。 あまりにハッキリと鮮明な記憶。 あの俺と今の俺は、繋がってこそいるけど、別人なんだよ。 当然好きになる人だって違うに決まってるんだ。 そうは言ってもね、俺の頭の中は、八回目の記憶が余りにも大きく占めていた。 だから圭吾って人が本当に存在するのかを、確かめたいと思ったんだ。 柚木って名前の政治家一家を、調べたよ。 じいさんはもう死んでたけど、孫の一人が衆議院委員、もう一人が参議院委員になってるって、すぐに分かった。 でも、先生のことは中々分からなかったよ。 高校生の調査方法なんてインターネット検索だけだしね。 次に、吉井雅史って検索してみたんだ。 そしたら、この学園の最寄駅近くのクリニックに勤めているって分かって。 プロフィールに、花睡高等学園校医って書いてあったんだ。 それでさ、俺の記憶の中の世界は本当に存在しているんだって確信できて。 ますます圭吾って人を見てみたくなった。 それでね。 高二の冬、母方のおばあちゃんが死んで葬式があったの。 その斎場に記憶の中よりずっと大人になった雅史先輩を見つけてさ、驚いたよ。 天文部の言うところのこれが縁なんだろうね。 そして先輩を足掛かりに、周囲に無理を言いまくって学園に転入した。 初めて学園を見た時には、あぁこの森だ、この建物だ、この温室だって嬉しかったな。 更にまさか圭吾が、この学園で先生をしているとは思っていなくてビックリした。 ふーん、この男が二十年後の圭吾か。 光夜が好きだった男かって。 実際はどんな男なのか俺が見極めてやろうなんて思ってたな、あの時は。 こういうのミイラ取りがミイラになるって言うの?違う?何か違うか。 国語の先生にこんな適当なこと言ったら叱られるね。 光夜の記憶とは関係なく、圭吾を好きになったんだよ。 圭吾もさ、光夜を忘れて俺を好きになって。 この手紙、研究所が開封するらしいから、あまり書きたくないけどさ、理久のこと、俺が仇を取ったから。 歯が折れたくらいじゃ許せないかもしれないけどさ、許してやって。 俺の記憶の中のあんなに可愛かった理久が、和登の可愛がっていた理久が、すっかりいい年になっていて驚いたよ。 和登もさ、今頃俺と同じ年頃で、どこかにいるはずだよね。 だからいつか、どんな形か分からないけれど、理久に会える日が来るんじゃないかな。 だけどさ、理久がもし、もしも光夜を殺さなかったら、俺はこの世にいなかっただろうし、先生にも会えなかったんだよ。 とにかく先生。 いや、圭吾。 俺は光夜より貴方を愛しています。 ライバルである光夜の仇を討った俺を、実家まで迎えに来て。 待っています。 追伸: ちなみに七回目の俺には、仲の良い年子の弟がいたんだ。 断定はできないけれど、あの時の弟が、圭吾の八回目なんじゃないかと、勝手に思っている。 光夜はさ、圭吾に対して、どこかで会った気がするって、ずっと思っていた。 それは八回目なのに僅かに漏れ出た「記憶を保持する力」によるものだったじゃないかと思うんだ。 兄弟だった頃の記憶がごく微か、光夜に残っていたんだよ。

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