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第11話(最終話)
「ね、柊一さん、太一って誰?」
俺は一度リビングに寄り、服を着た。そうして柊一さんと今、ダイニングで向かい合って、彼の作った食事をつまんでいる。
「昔の友達」
柊一さんはたった一言で片づけた。
「でも何かあったんでしょ、柊一さん珍しく感情むきだしにしてたもん」
「昔の友達。それ以上のそれ以下でもない」
彼はクールな仮面を被る。
「嘘だあ。だって柊一さん明らかにおかしかったよ?」
「気のせいだろ」
あくまで彼は認めない。
「柊一さん何があったの?その人との間に…」
「七瀬には関係のない事だ」
またラインを引かれる。目に見えないラインを彼は引いてくる。
「美也子さんは知ってるの?」
「七瀬には関係のない話だ」
ガードを固めてきた。ここから先俺は踏み込めないのか。あんなに熱い夜を二人で越えたのに、ここだけは変わらないのか。
「七瀬は考えなくていい。それより早く食えよ、スープ温めるか?」
「このままでいい…」
俺が返すと、しばし沈黙が訪れた。
彼の作った特製BLT。それとコーンスープ。美味しい筈の食事も味がわからなくなる。
「俺、心配なんだ…柊一さんがおかしくなっちゃうんじゃないかって」
「俺が、か?」
「うん…太一って人の電話受けてから柊一さん変だもん…」
「七瀬は気にしなくていい。たいした話じゃないから」
また、だ。一向に俺を寄せ付けない。一歩も踏み込ませないよう煙に巻く気だ。
「柊一さん、俺…」
柊一さんは立ち上がり、背を伸ばす。
「夕べの七瀬可愛かったからなー。ホント録音しとけばよかった」
「ま、ま、またそ、そんなこと……」
俺は顔を赤く染める。
「お前、可愛い声で鳴くからさ『もっと、もっと』ってさ」
「や、やめてよ」
柊一さんは口角を上げ、口を歪める。
「お前があんなに感じやすいとはなー。性感帯そこらじゅうにあるんじゃね?」
「や、や、やめてよ」
柊一さんは俺に近づいてきて、クイと俺の顎を掴む。
「七瀬は七瀬のままでいろよ」
「ど、どういう意…」
俺が言い終わる前に唇を塞がれる。
「ま、まだメシ食ってるし!俺…」
「早く食えよ。俺の作ったメシ美味いか?」
俺は首を縦に振る。
「俺は昨日、七瀬をいただいたからな」
俺はまた顔を赤らめ、小声でつぶやくように言う。
「お、お、お、おいしかったの?」
「それなりに」
「そ、そ、そ、そう…」
俺は茹でだこになった顔で彼の作ったBLTを食す。
「七瀬、お前さーまた欲しそうな顔してる」
「そ、そ、そんな顔してないよ!」
「お前、腰痛いだろうに…欲深いなー」
「そ、そ、そんなこと言う、しゅ、柊一さんこそでしょ!欲深いの!」
俺は慌てて抵抗する。それを既に見越していたのか柊一さんは笑う。
「可愛いよなー七瀬」
後ろから抱きつかれる。
「だ、だ、だめ!今、まだ食ってるし!」
「早く食えよ、七瀬。イイコトできないだろ」
「……!だ、だ、だめー。だめー!」
「七瀬、早く食え。焦らすな」
「じ、じ、焦らしてなんかない…」
全く柊一さんは何なんだ。朝から俺は彼に翻弄されまくりだ。
肝心なところは煙に巻くし。
「た、食べ終わったよ…しゅ、しゅう…」
俺の首筋を彼は舐めまわす。
「だ、だ…だ…だめ…」
それでも完全に彼の手をほどけないのは彼への想いがあるからか、それとも彼と同様に欲に動かされているのか。
「可愛い、七瀬」
俺は肩をビクンとさせて、彼から与えられる欲を受け入れる。
ねえ、太一って誰?柊一さんの古い友達?それだけじゃないよね?
柊一さんの謎が増えていく。それらの謎はいつまでも謎のまま消えずに俺の中に仕舞われている。その謎を解く手がかりはない。見た目は子供頭脳は大人な探偵マンガの主人公でも、行き詰ってしまうほどのヒントのなさ。俺は真実にたどり着ける日があるのか――。
彼と身体は繋がっても、心はどこか違う場所にあって、彷徨い続けている。欲には答えをくれるが、心には答えをくれない彼の一歩引いたラインの先が見えなくて。
それでも抱かれる。
わかってても抱かれる。
それだけ彼の手は温かくて、肌のぬくもりに酔いしれる。
それは彼のジャズピアニストの顔を見て、彼に初めて抱かれた次の日の朝。
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