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03 斜め上の返事
そわそわしながら泰雅 を待っていたら、思ったより早くやってきた。急いで用事を済ませてきてくれたのかもしれない。
やっぱり世話好きオカンだよなぁ。俺はなんか嬉しくなって、気づけば、さっきまでのそわそわした気持ちは落ち着いていた。
いつものように学校を出て電車に乗っている間は、俺たちは言葉を交わさなかった。ただそれぞれ、窓の外をぼーっと眺めていた。こんな空気も嫌いじゃなかった。
最寄り駅に降り立った時には、西の空がオレンジのグラデーションに染まっていた。
俺は、さっき読んだ冊子のことを伝えたくて、泰雅に声をかけた。
「ちょっと、公園寄って行かない?」
「ああ、久しぶりだな」
「中学までは、学校帰りによく寄ってたもんな」
俺と泰雅の出会いは、小学校に入学する年の春。隣の空き地に大きな家が建って、そこに引っ越してきたのが白河家だった。
俺たちは同じ歳で、学校もクラスも同じだった。
明るく元気で楽天的な俺と、静かで落ち着いている泰雅は、正反対の性格なのにすぐに仲良くなった。
言葉ではうまく言えないけど、まるで会うべくして会った、ピースがピッタリとはまった――そんな気さえしたんだ。
この先も、ずっと泰雅と一緒にいられるかもしれない……そんなことも想像したときもあった。
なのに、中学の時のバース検査で、泰雅はアルファで俺はベータと診断された。アルファとベータだから、ピースなんてはまるわけがないんだって、ショックを受けたのを覚えている。
俺はその時初めて、泰雅のことを特別な感情で見ていたことに気づいた。
ベータの俺は、アルファと特別な関係にはなれない。中学一年生にして、恋の自覚と失恋を同時に味わうことになった。
でも、ベータなら友達としてずっとそばにいられると思った。恋が叶わないのなら、すぐ近くで、泰雅を支えられるかもしれないと思った。
なのに、まさか俺がオメガになるなんて。
世の中、何が起こるかわからないもんだな――。
俺は、今までのことを思い返しながら、小さく深呼吸をした。
「さっきもちょっと話したけどさ。俺、ほぼオメガになっているって言われたんだ。まだ不安定らしいけどな」
前置きもなく、俺は唐突に話を切り出した。
学校に戻ってすぐ、ほぼオメガになったということは伝えてあるから、泰雅もきっと俺がこの話をしたくて公園に寄ったんだってわかっていると思う。
驚いた様子もなく、泰雅は黙って俺の言葉に耳を傾けてくれた。
「さっき冊子を読んでて、先生から言われたことを思い出したんだよ。俺さ、ベータからオメガになって、まだ色々と不安定じゃん? そんなときは、信頼できるアルファがそばにいると安定することもあるんだって」
俺はそこまで言って、チラッと泰雅の方を見た。変わらず顔色ひとつ変えずに、静かに俺の話を聞いているみたいだ。口を挟まず黙っていてくれるのはありがたい。
「小学校の時に出会ってから、俺らずっと一緒じゃん? 好きなものも嫌いなものもなんでも知ってるし、性格は正反対なのに、すごく気が合うだろ? ……だからさ、すぐ近くにお前がいて、俺ってラッキーって思ったんだ。お前以上に、信頼できて気が許せる相手なんて、いないんだよ」
ズバッと言えばいいのに、俺にしては珍しく遠回しに言葉を選んでしまう。
いくら仲の良い幼馴染でも、第二の性ってやっぱりデリケートな問題だし、そんなに軽々しく言っちゃいけないんだと思う。さすがの俺だってそう思うんだよ。
でもやっぱり俺は、泰雅のことが好きだから、ラッキーって思ってしまったんだ。
「なぁ、泰雅はどう思う?」
確実な言葉を伝える前に、俺は泰雅に判断を委ねてしまった。ちょっとずるいかなって思うけど、結局決めるのは泰雅だ。
俺がそばにいて欲しいと願ったところで、泰雅が嫌だと言えばそれまでなんだ。
「俺も」
ちょっとドキドキしながら泰雅の返事を待っていたら、ぼそっと小さい声が聞こえてきた。
「……俺も?」
小さすぎる声に、思わず聞き返す。
そしたら、考え込むように少し視線を落としていた泰雅が、まっすぐ俺を見た。
「好きだ」
「えっ?」
予想もしていなかった返事に、俺は思わず声を漏らした。
何が好き? どういうこと? 泰雅は何か他の話だと思ってる?
俺は、アルファである泰雅がそばにいてくれたらラッキーだけど、どう思う? って聞いたはずなのに。
なのに、泰雅の返事は『好きだ』の三文字だった。
いやまて、おかしいだろ。そんな言い方だと、まるで泰雅が俺のことを――。
「俺も、圭太 のことが好きだ」
俺の勘違いだと必死に否定しようとしていたのに、泰雅は俺の思考にかぶせるようにハッキリと言い放った。
想像もしていなかった展開に、俺の頭の中はエラーを起こしそうだ。
今泰雅は、俺のことを好きって言ったか? え? 俺の願望が幻聴となって聞こえてきた?
意味がわからなくて、俺は確認するように、聞き返す。
「え? お前も俺のことが好きだったの?」
泰雅は、なぜ今さら俺がそんなことを聞くのか、とでも言いたげな顔をしたあと、ゆっくりと首を縦に振った。
「まじかよ……」
俺の勘違いなんかじゃなくて、本当に泰雅も俺のことが好きだと知って、俺は急に恥ずかしくなって、泰雅から視線を外した。
泰雅も、俺のことを好きだったんだ……。
心の中で、何度も繰り返し噛み締めた。
「俺は、ずっとそばにいる」
そうだ。泰雅はこういうやつだった。
言葉足らずだなと思う時はあるけど、真面目で誠実でめちゃくちゃ優しいやつだ。
「そっか……ありがとな。俺たちずっと一緒だったもんな。……俺、オメガになったって言われて、さすがに混乱したんだ。けどこれからも泰雅がそばにいてくれたらさ、俺、オメガになっても、きっと変わらないでいられるよな」
「圭太は圭太だ。何も変わらない」
泰雅の心強い言葉に、俺も大きく頷いた。
これからどうなるのかわからないけど、泰雅と今まで通りでいられるなら、きっと大丈夫ってそう思えた。
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