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02 ほぼオメガ?
あれから一ヶ月が過ぎた。言われた通り二週間後に受診したが、また二週間後に来てくださいと言われてしまった。
それまでは泰雅 が付き添ってくれていたけど、今日は都合がつかず一人で病院に行ってきた。
大したことはないだろうと気楽に考えていたのに、今、俺は人生で最大級の混乱に陥っている。
担当の先生から伝えられた診断結果は、俺の予想もしない内容だった。
『村井圭太 さん、検査の結果が出ました。あなたは、ほぼオメガになっていると言って間違いないでしょう』
――は?
意味がわからなかった。
確かに二週間前の検査では、入院時よりオメガフェロモンの数値が少し上がっていると言われた。けど不安定な状態と言われたし、たまたま数値が高くなっただけで、一ヶ月も過ぎれば落ち着くと思っていた。
だから、てっきりもう通院の必要はないと言われると思ってたんだ。
なのに、俺がオメガだって?
隔世遺伝がどうとか、ベータから転化するまれなケースだとか、色々説明してくれたけど、半分も頭に入ってこなかった。
義務教育で習った『第二の性』の知識なんて、自分には一生縁がないものだと思っていた。帰り際に渡された冊子をパラパラとめくってみたけれど、やっぱり全然実感がわかなかった。
また一ヶ月後に来るように言われ、病院を後にした。
学校に戻ると、ちょうど昼休みだった。病院を出る前に連絡をしていたので、泰雅が校門まで迎えに来てくれていた。
無意識に体に力が入っていたんだろう。泰雅の姿を見たら、ふっと体全体の力が抜けた気がした。
「職員室、行くのか?」
泰雅は門の外まで出てくると、俺が手にしている封筒を見つけて言った。『どうだった?』なんて、詮索するようなことを言わないのは、泰雅らしいなって思った。
「ああ、結果報告に行かないとな」
「わかった。じゃあ行くか」
当然のように俺の横に並ぶと、職員室に向かって一緒に歩き出した。泰雅は午後の授業もあるだろうから、俺一人で行くよと言えばいいのに、なぜか言い出すことができなかった。
泰雅と一緒に職員室に行き、医師からの預かった封筒を手渡した。診断結果と手紙が同封されているはずだ。
今の俺には口頭で説明するのは無理だから、手紙の同封は助かった。
「よろしくお願いします」
封筒を渡すだけだったので、そんなに時間はかからなかった。挨拶をして職員室を出た俺たちは、その足で旧校舎の薄暗い空き教室へと向かった。
言葉にするのはためらったけど、隠したってどうにもならない。それに泰雅は、俺が搬送されて入院したとき、家族の代わりに俺の担当医から話を聞いたと言っていた。
だから、俺のわかっていること全てを話すことにした。……泰雅なら、信じられるから。
「……ほぼ、オメガだって」
「そうか」
大丈夫って思ってたのに、いざ言葉にすると、胸の奥がざわつくような気がした。
でもなぜだろう、泰雅の顔を見ていると、不思議と胸の奥が穏やかな気持ちになっていく。
「次の受診、俺も一緒に行くから」
やっぱり泰雅は、世話焼きオカンだ。意味がわからずぼーっと呆けている俺を、放っておけないんだろう。
「ありがとな。よろしく頼むよ」
今までずっと『普通』のベータで過ごしてきたけど、泰雅は第二の性の先輩だ。俺よりよっぽど詳しいから、これから色々と相談もできるだろう。
「ちょっと放課後用事があるから、図書室で待っててほしい。終わったら一緒に帰ろう」
「了解! 今から教室に行くのもなんだし、これから自習室に行くよ。終わったら声かけて」
俺は荷物をまとめると、先に空き教室を出て図書室に向かった。
図書室内にある自習室は、まわりを気にせず集中することができる。受験勉強もやらなきゃいけないけど、今の俺は他に見たいものがある。
俺はバッグから、病院でもらった『第二の性とは』という冊子を取り出した。先生からの話は半分も頭に入ってこなかったから、ここで読もうと思ったんだ。
ベータだった俺が予想外にオメガになった。戸惑いはまだあるけど、ちゃんとオメガという性に向き合っていこうと思う。
俺は冊子を手に取り、ゆっくり読み始めた。
男女の性の他に、アルファ、ベータ、オメガという第二の性が発見されたのは数百年も昔。詳しい資料は残されていない。……これは、授業で習ったので俺もわかる。
アルファとオメガは人口比率が少なく、特に男性オメガは希少とされている。……え? 俺って希少なの?
アルファとオメガは番 という繋がりを持つことができる。オメガは三ヶ月に一度程度、発情期と呼ばれる期間がある。オメガ特有のフェロモンを強く放ち、相手を求める……か。
「うーん、よくわかんないな。泰雅に聞いた方が早いかもしれない」
学校での第二の性の授業の時は、正直しっかりと勉強してこなかった。ベータの俺にはあまり縁のない世界だと思ってしまったんだ。今になってそのことを後悔することになるとはなぁ。
俺はなんか急におかしくなって、ふふっと声を出して笑ってしまった。
あ、図書室なのにって思ったけど、幸い自習室にいるのは俺一人だった。
この冊子、思ったよりページ数あるなぁ。
そう思いながら、ペラペラとめくっていると、最後の方にふと気になるページがあって手をとめた。
「信頼できるアルファがそばにいると、フェロモンが安定するでしょう……?」
そう言えば、病院でこんなことを言われた気がするなと思い出した。
俺みたいな途中で変化したやつだけじゃなく、相性の良いアルファがそばにいることは、オメガにとって精神安定剤になるらしい。
「そうだ! 泰雅に聞いてみよう!」
病院からの帰り道は訳がわからず戸惑っていたけど、泰雅が出迎えてくれてから、なんだか俺は元気が出てきた気がする。
オメガになったばかりで不安定な俺でも、泰雅がそばにいてくれたら――。
俺は、泰雅が迎えに来るのを、そわそわしながら待つことにした。
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