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15 マーキング

 休み明けの月曜日、いつものように泰雅(たいが)と一緒に大学に来て、さっき別れたばかりだ。  今日のオリエンテーションも(しゅう)と一緒のはず……そう思って辺りを見渡すと、少し離れたところで遠慮がちに手を振る柊がいた。 「柊、おはよう!」 「圭太(けいた)くん……おはよう」  柊は小さく手を振りながら、ちょこちょこ小走りで近づいてくる。うん、やっぱり可愛いな。ちょこまかした動きが、まるで小動物みたいだ。  俺の目の前まで来ると、柊は「あっ……」と小さく声を上げ、慌てたように自分の鼻先を覆った。 「ん? どうした?」 「圭太くん……マーキング……」 「え? マーキング?」 「圭太くんに……アルファの……」  あ! そういえば聞いたことがある。アルファは自分のフェロモンをつけて、パートナーのオメガを守るって。  思い返せば週末の帰省で、泰雅はいつもに増してベタベタしていた気がする。でもそのせいで、出かける予定のあった週末の帰省は、家でゆっくりと過ごす羽目になった。  泰雅は「夜……教えてやる」と言ったけど、文字通り俺は、泰雅に嫌というほど教えられたんだ。もう十分わかったって言うのに、「わかってない」って言って、あいつはなかなか離してくれなかった。  最近の泰雅は、前にはなかった行動をするようになった気がする。(つがい)になったからかな? と思ったけど、聞いても答えてくれなかった。  過保護な泰雅は、自分がそばにいられない間のことを心配して、俺にしつこいくらいにマーキングしていたのかもしれない。大学に来る間、なんかジロジロ見られていた気がしたのは、このせいだったのか……。 「ごめんね……僕、ちょっと他のアルファが……」 「ああ、怖がらせちゃったかな? ごめん、気づかないで」 「ううん……不意打ちだと、ちょっとびっくりしちゃうけど……大丈夫」  泰雅のマーキングのせいで、柊を怖がらせてしまったのは申し訳なかったな。でも、柊に何があったんだろう? まだ会ってまもないから、さすがの俺でもそこまで踏み込んで聞くことはできないけど。 「俺の番、あまり喋らないし、何考えてるかわからないって言われることもあるけど、いい奴だから大丈夫。いつか、紹介するよ。でも、無理しないでいいからな」 「……うん、ありがとう」  まだ少し不安げにしている柊を見て、今は無理だけど、いつか泰雅のことをちゃんと紹介できたらいいなと思った。  時間に余裕があるので、ゆっくり話しながら、柊と二人で会場に向かった。  今日のオリエンテーションは、履修登録方法や授業に関する説明だった。 「柊も、オメガ特待生制度利用者なのか?」 「うん」 「じゃあ、番が……?」 「まだ……番にはなってないけど……」  デリケートな問題だから、俺は踏み込みすぎないように気をつけながら話をする。 「うん、タイミングってのがあるからな。……そうそう、俺たちさ、履修科目かなり被るよな」 「そうだね……よかった……」  柊から話してくれるまで無理に聞こうとせず、俺は話題を変えることにした。  T大学には、俺たちのように制度を使って入学したオメガの他に、推薦、一般入試で入ってきた学生もいるらしい。なので、同じオメガでも履修選択内容が違ったりするみたいだけど、俺と柊はかなり被りそうだ。  ずっと一緒だった泰雅がいなくてちょっと心細かったけど、柊というオメガの友達ができたのは本当に良かった。  大学生活は、柊と一緒にいる時間が増えるんだろうなと思ったら、心に残っていた不安も、少しずつ消えるような気がした。  その日も泰雅がいつものように迎えにきてくれた。柊が怖がると困ると思って、少し離れたところで待っていてもらった。少し不満そうなのは気のせいだろうか。 「なぁ泰雅。お前、俺にマーキングしまくったんだってな?」  帰り道、俺は朝柊に言われたことを思い出して、問いただすように聞いた。 「当たり前だ」  泰雅は、何か問題でも? と言いたげに俺を見た。 「やけにジロジロ見られてる気がするなーって思ってたんだよ! そしたら柊が教えてくれたんだぜ」 「うちの大学は、オメガ保護が進んでいるとはいえ、完全に安全とは言い切れないからな」  昔から心配性だなぁとは思っていたけど、ここまでじゃなかった。 「泰雅が心配する気持ちもわかるけど、本当に大丈夫だって。大学のセキュリティもすごいらしいし、泰雅にもらったネックガードもあるしな」  俺はそう言いながら、首元のネックガードに触れた。見た目はシンプルなのに、特注で色々と機能がついているらしい。  その機能の中に、GPSもついているんだと、泰雅は隠さずに正直に教えてくれた。俺が嫌なら機能オフにすると言ったけど、俺は別に嫌ではなかったから、そのままにしてある。 「俺は元ベータだから、アルファとかオメガのこと、わからないことが多いんだ。だから、遠慮なく言ってくれよ?」  泰雅はよく俺に、自覚がないというけど、それはしょうがないんだ。ベータからオメガになって、まだ一年も経ってないんだから。  そんな俺だから、ヒートの時くらいしか、オメガになった実感は正直あまりない。それが身の危険につながる可能性があるのなら、もっとちゃんと言ってもらわないとって思ってる。 「それに、オメガの友達もできたし、色々と教えてもらうよ。俺と違って生粋のオメガだから、心得とかわかっていると思う」 「わかった……でも、マーキングはさせてほしい。まわりに、圭太は俺のだって自慢したいんだ……」 「ははは、自慢かよ? それなら俺も、めちゃくちゃかっこいい番がいるんだぜって、堂々と自慢しながら学内を歩いてやるぜ」  ただ単に、俺のことが心配すぎてのマーキングだけかと思ったら、自慢だなんて言われて俺も悪い気はしない。  それに、泰雅にお願いされたら、弱いんだよ俺……。 「じゃあな、送ってくれてありがとな」 「ああ、また連絡する」  泰雅は何度も振り返りながら、アルファ寮の方へ向かって歩いて行った。

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