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26 報告会
俺と航平 と大樹 は、高校三年生の時のクラス会に参加した。今日はそのお疲れさん会と、参加できなかった泰雅 への報告会だ。
クラス会の幹事はやっぱり『委員長』で、クラスのほぼ全員が参加できたのは良かったと思う。
いつものように航平の家にお邪魔した俺たちは、持ち寄ったお菓子の袋を開け、ジュースを注ぎ、かんぱーいとコップを合わせた。
「幹事お疲れ様、委員長」
「そう呼ばれると、一気に学生時代に戻るんだよなー。楽しかったな、クラス会」
俺が航平を『委員長』と呼ぶと、満更でもないといった顔でにっと笑った。やっぱり、中学の時から呼び慣れているから、しっくりくる気がする。
「ほんと! めちゃくちゃ楽しかったな」
「うん、楽しかった。けど実は俺、ちょっとドキドキしてたんだ」
「でも、そんなの杞憂だったろ?」
「そうだな」
連絡が来なかった理由は、泰雅から聞いている。だから心配することなんてないと思っていたけど、やっぱりこんな俺でも緊張してたんだ。
そんな俺の気持ちを察してくれたのか、みんな普段と変わらず接してくれた。そのおかげで、俺から報告したかったこともちゃんと伝えられたんだ。
「圭太のこと、みんな驚いてたな」
「都市伝説かって言われるくらい珍しい後天性オメガだしな。しかも、みんなベータだから、第二の性についてそんなに気にしていない人がほとんどだと思う」
「まぁ確かにな。俺らも圭太に言われて初めて調べてみたし」
「後天性オメガって診断された俺でさえ、わかってなかったんだ。そんなもんだよ」
それが普通の反応だろうな。転化した俺自身も、初めはまるでひとごとだったんだ。
「けどそれ以上に驚くと思っていた『泰雅と番 になった』という報告は、みんな反応薄かったのはなんでだろう」
「あー、多分、想定内だからだろうな」
「え? 想定内?」
「俺も航平もそうだけど、お前ら二人の距離感知ってたし、アルファとオメガとか関係なく、なんかずっと一緒にいるんだろうなって漠然と思ってたんだよ」
「そうそう。だから、圭太が後天性のオメガになったって聞いて、収まるところに収まったなって感じがした」
俺は大樹の言葉を聞いて驚いた。周りからそんなふうに思われていたなんて。
「嬉しかったけど、みんなに祝福されて、なんか照れ臭かったよ」
「みんな、報告は驚かなかったけど、盛大にお祝いムードだったもんな」
俺は、あの日のことを思い出しながら、泰雅を見た。
「無理やりついて行けば良かった」
「はは、なんだよそれ」
「圭太の番として、その場で紹介されたかった」
「いつかきっと、そんな機会もあるさ」
ベータ相手にマウントを取りたいだけなのか、ただ自慢したいだけなのかわからないけど、泰雅は時々子供じみたことを言うようになった。
これも、番である俺に甘えてくれているということなのだろうか。
俺は嬉しくなって、泰雅がいつもしてくれているように、頭にポンッと手を置いた。
「そういえばさ、辻本のやつ、結局クラス会には来なかったよな」
大樹がポテトチップスを口に放り込みながら、何気なく言った。
辻本の名前を聞いた瞬間、俺の脳裏には、クラス会の会場のざわめきが蘇ってきた。
『なぁ、知ってるか? この前辻本を見たんだけど、すげー変わってたんだよ』
『辻本って、いつも一人で本を読んでた、あのいるかいないかわかんないようなやつ?』
『そうそう。初めはなんか見たことがあるって程度だったんだけど、名前を呼ばれててさ。まさかあの『辻本』なのか? ってびっくりしたよ』
たくさんのクラスメイトに囲まれ、あれこれ質問攻めにあって困っていたとき、委員長が声をかけてくれたおかげでやっと俺は解放された。
少し外の風にでも当たろうかと、庭に出ようとしたところで、話し声が聞こえてきた。
その中で『辻本』という名前が聞こえてきて、俺は思わず足を止めて聞き耳を立てていたんだ。
『じゃあ、俺が聞いた噂は本当だったのか』
『噂?』
『美容師専門学校で見かけたって噂。雰囲気がすげー変わってたって』
『あいつ、美容師になんのか』
『なんか意外だな』
辻本の話をしていた二人は、そこまで話をしたあと急に興味を失ったように、別の話をしながら建物の中に戻っていった。
普通のクラスメイトにとっては、辻本の存在はその程度なんだと思う。正直、俺も三年間同じクラスだったということを、言われなければ忘れていたくらいだ。
それに辻本自身が、隠れるようにして過ごしていたように思う。今思い返せば、誰とも目を合わせず、俺と目が合った時も慌てた様子で目を逸らしていた。
そんな存在の辻本が、クラスメイトの中で話題になるほど、雰囲気が変わっていたんだ。
俺は、駅前での出来事を思い出し、眉をひそめた。派手な見た目でオメガを見下すようなあの態度。柊 をバカにしたあの態度は、今でも許せない。
俺は今はまだ辻本を許せる気持ちにはならないけど、これ以上オメガへの偏見を持たず、真っ当な人生を歩んで欲しいなとは思う。新しい環境になって、自分の行動がどれだけ愚かなことだったのか気づき、反省してほしい。
けど、そうか。専門学校に通っているのか。あいつはあいつで、新たな道に進もうとしているんだな。
俺はあいつがいつか変われることを信じて、あの事件のことは忘れて前を向いて歩いて行こうと思う。もう振り返らない。
「……圭太?」
不意に名前を呼ばれ、ハッと我に返った。
目の前には、少し心配そうに俺の顔を覗き込む泰雅がいる。泰雅の指先が、無意識に固まっていた俺の肩にそっと触れた。
「……ああ、ごめん。ちょっと、あいつのことを思い出してた」
「そうか」
泰雅は全てわかったように静かに頷き、それを見ていた二人は黙って顔を見合わせた。
泰雅から、高校の時にトラブルがあったということは伝えてあると言っていた。だからきっと、その相手が辻本だったと気づいたんだと思う。
航平と大樹は、俺の様子を見て、この話題にはこれ以上触れずにいてくれた。
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