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27 それぞれの進路

「つい数ヶ月前まで一緒の道を歩いていた奴らが、今はそれぞれ全く違う方向に進んでるって、面白いよな」  流れてしまった沈黙を打ち消すように、大樹(だいき)が口を開いた。 「そうだな。俺は家業を継ぐために調理師専門学校へ通っているし、大樹は四大だろ? ……でもちょっと意外かも、大樹が公務員狙ってるなんて」 「意外ってなんだよー」 「いや、天性のコミュ力を活かした進路を考えてると思ったから」 「確かに」  航平(こうへい)の言葉に、俺も大きく頷いた。  大樹は明るくてコミュニケーション能力も高い。英語も得意だし旅行も好きだから、そういうのを活かした方面に進むと思っていた。 「将来的に、地元に残って盛り上げていきたいって思ってる。地域イベントとかこの辺りの観光促進とかな。だから地域創生学部を選んだんだ」 「すごいな、大樹。そこまで考えてるんだ」  中学生の頃から知っているけど、正直お気楽で楽しく生きているようにも見えた。もちろん、真面目でしっかりしているやつというのはわかっている。  けどいつも明るく楽しそうで、みんなの輪の中にいた。もっと、派手……と言ったら語弊があるかもしれないけど、煌びやかな世界に飛び込むのかと思っていた。 「航平も家業を継ぐだろ? 結果的に、地元の活性化に一役買うことになるんだよ。県外に出ちゃう奴らもいるし、それが悪いわけじゃない。けど俺はここが好きだから、俺に何ができるんだろうかって考えたんだ」 「俺に、何ができるんだろうか……?」  大樹の言葉を聞いて、クラス会の時のクラスメイトとの会話を思い出した。 『俺、バイト始めたんだ』 『バイト?』 『俺さ、二卵性の双子の妹がいるんだけど、大学生になって初めてバイトしたいって言い出したんだよ。そしたら親がさ、俺も一緒なら許可するって言われて』 『大学生なら、もう親の許可とかなくても良くないか?』 『それがさ、妹はオメガだから親がすげー心配しちゃって』 『え? オメガなの?』  クラスメイトの佐々木(ささき)に二卵性の双子がいるのを初めて知ったし、妹はオメガだと言うから驚いた。 『妹は大切に大切に育てられたけど、何もさせてもらえなくてそれが不満らしいんだよ。だから、守られてるだけじゃ嫌なんだと』 『守られてるだけ……か』 『俺らはそんなつもりはなかったんだけどな、妹からしたらそう感じていたらしい。オメガだからと諦めたくない。オメガだって、できることはたくさんあるはずだって』  俺は、佐々木の言葉を聞いて、考え込んでしまった。  同じような思いを感じたことはある。オメガだからと諦めたこともある。 『結果的にな、バイトをやらせてよかったって思うよ。最近の妹はすごく明るくなったんだ。前はどこか無理していたのかもしれない』 『ご家族はなんて?』 『ベータの中で唯一オメガだったから、過保護になり過ぎていたのかもなって。バイトを経験させてあげてよかったって言ってる』 『……なんでその話を俺に?』 『村井がオメガになったって聞いたから、ちょっとな』  佐々木はそう言うと『じゃあな』と別の場所に行ってしまった。  さっき他のクラスメイトが興味津々で俺の周りに集まった時、佐々木は根掘り葉掘り聞こうとはしなかった。でも気にかけてくれていたんだな。  俺は去っていく佐々木の背中に、『サンキュ』とつぶやいた。 「おーい、圭太(けいた)。さっきからちょいちょい別世界に行ってんのかー?」 「あ、悪い!」  急に黙りこんでしまった俺を見て、航平が声をかけた。  あの日のクラスメイトの話を聞いて『俺はどうしたいんだろう。何ができるんだろう』そう考えるようになった。  オメガ枠で大学に入学したけど、大樹のようにしっかりとした目標を持っているわけでもない。 「……俺に、何ができるのかなって考えちゃってさ」 「圭太?」 「クラス会の時にさ、佐々木から話を聞いたんだ。あいつ、オメガの妹がいるって。その妹が、バイトを始めたって言うんだよ。オメガだってできることはあるって」 「そうか。で、バイトどうだって?」 「初めは心配で反対していたご両親も、バイトさせてよかったって言ってるらしい」 「それで、圭太も考えちゃったってわけか」  航平にズバリ言われ、俺は小さく頷いた。  泰雅(たいが)はどう思ってるんだろうと隣をチラリと見たけど、言葉を発する様子はなかった。 「泰雅はどう思ってんだよ?」 「おい大樹! 俺は別にバイトしたいって言ってるわけじゃなくて……」  泰雅は黙ってジロリと大樹を見た。睨みつけたわけじゃないけど、無言の圧を感じた。 「そういう話は、家に帰って圭太のご家族にも相談する」 「まぁ、そりゃそうか。泰雅の一存で決められるもんじゃないよな」  泰雅は冷静に対応してるけど、多分相手がアルファだったら、威嚇フェロモンを出していたかもしれない。大樹はベータだから、たとえフェロモンが出ていても感知できないだろうけど。  それに、大樹は『泰雅の一存では決められないだろう』って言ったけど、知らないだろうな、泰雅の一存で決まることもあるということを。  俺はそれが不満なわけじゃない。大切にされているのは嬉しいんだ。  けど、やっぱりまだ心のどこかでベータの気持ちが残っていて、バイトすらも自由にできないという現実がもどかしいのも事実だ。 「ほら、本当にバイトしたいなって思ったら、ちゃんと家族にも泰雅にも相談して決める。航平と大樹にも相談するからさ、その時はよろしくな」 「そうだな。そしたらまた集まろうぜ」  大樹は悪気はなくて、ベータの時のノリで俺を気にかけてくれたんだろうけど、あの時とはもう違うんだ。いくら成人していても、俺一人の独断で決めることはできない。  オメガになるというのは、こういうことなんだなと、改めて感じてしまった。  だけど、佐々木の妹さんのことを聞いて、バイトをしてみたいという気持ちが俺の中で大きくなっていることは、この場の雰囲気の中では言えなかった。

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