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28 バイトの話
次の日、俺は泰雅 にバイトの話をしてみることにした。
昨日は言い出せる雰囲気じゃなかったというのもあるけど、俺自身もその場の勢いで、バイトをやりたいと思っただけかもしれない。それなら冷静に、一晩じっくり考えてみようと思ったんだ。
昨日は帰宅してから、風呂の中でもベッドの中でもずっと考えていた。
多分俺は、まだベータの時の感覚が抜けきれていない。だから、オメガになったということだけで、制限をかけられることに戸惑いがまだ残っているんだ。
けど事実、オメガになったことでトラブルに巻き込まれている。泰雅にも心配をかけている。……だから、泰雅がバイトの話を積極的にしないのは当然だ。
じゃあなんで俺は、『バイトをしたい』と思ったんだ? 佐々木 の妹のことが羨ましかった? いや確かにそれもある。けど一番は、『守られているだけ』が嫌なんだと思う。オメガになった俺でも、できることはあるはずだ。
俺は、泰雅と番 になったことは後悔していない。でも、守られるだけじゃなくて、対等な関係でいたい。横に並んで歩いていきたいんだ。
泰雅が俺を大切にしてくれているのは嬉しい。だから心配して過保護になるのも十分理解している。だけど俺は、尊厳を守りたい。
俺は自分の正直な気持ちを伝えようと、泰雅の部屋を訪ねた。
「あのさ、ちょっと話があるんだけど」
「ああ」
泰雅はきっと、俺が今日話を持ちかけてくると想定していたんだろう。意外そうな様子も、怒っている様子もなく、淡々とした感じで短い返事が返ってきた。
「まず先に言わせてくれ。俺はバイトがしたいと思っている」
理由とかそういうのを言う前に、単刀直入に結論から先に伝えた。泰雅が聞く耳を持ってくれなかったら、今日は無理に話をするのはやめようと思ってたんだ。
「そうだと思っていた」
「話……聞いてくれるか?」
「もちろんだ。圭太 の気持ちを軽んじるつもりはない」
「ありがとな」
やっぱり、俺の泰雅だ。たとえ賛成はしていなくても、頭ごなしに否定することはない。
一般的なアルファは、番に対する独占欲が加速しすぎて、自由を奪ったり束縛したりする人も少なくないらしい。
能力、社会的地位、腕力、全てにおいてアルファが優っている。それを振りかざし、オメガへの高圧的な態度を取るアルファも多いと聞く。
そんな話を聞いたり、テレビやネットで見かけると、やっぱり泰雅は他のアルファとは違うんだなと思う。
泰雅の家は、代々力を有するアルファの名家だと言っていた。白河家の『上に立つ者こそ、一般人の感覚や生活を知らねばならない』という方針のもと育ってきたからなのかもしれない。
「俺はオメガになったからと言って、守られているだけじゃ嫌なんだ。この気持ちは、元ベータだからというのもあるかもしれない。けど、俺にだってやれることはあるはずだ」
俺は、あのクラス会の時からずっと考えていた思いを、泰雅に伝えた。昨日だってずっと考えていた。一時的な感情で、自分の中で盛り上がってしまってるだけじゃないかって。
けど何度考えても、俺の気持ちは変わらなかった。
俺は、黙って話を聞いてくれる泰雅の前で、余すことなく自分の思いを伝え続けた。
そして――。
「泰雅が俺を大切にしてくれる気持ちはわかる。……けど、オメガになっても俺は俺でありたい。尊厳を守りたいんだよ」
「圭太の気持ちは、わかった」
「じゃあ……」
「けど、またトラブルに巻き込まれたらどうする? 俺の目の届かないところで、圭太に何かあったら俺はどうすればいい?」
それは、俺だって考えた。
それでも、守られた檻の中に閉じ込められたままなら、俺が俺じゃなくなってしまう気がするんだ。
「ネックガードも絶対外さないし、バイト先は大学周辺にする。昼間だけにするし、定期連絡も欠かさない。抑制剤も少し強めのを出してもらう。GPSでずっとチェックしてくれてもいい。それでも、ダメか? 俺は、泰雅と対等でありたい。横に並んでいて行きたい。そのための一歩なんだ」
俺の言葉を最後まで聞き終えると、泰雅は一つ、大きなため息をついた。
「俺だって、圭太を束縛したいわけじゃない。ただ心配なだけなんだ。常に、圭太の気持ちを尊重したいと思ってる。……バイト先は、俺も探してみる。圭太の探してきた場所と合わせて検討してみよう。その上で、ご家族の許可が下りたらだ」
「泰雅は、OKしてくれるのか?」
「本音を言うなら、圭太に危険が及ぶ可能性があるのなら、二つ返事で許可は出したくない。けど、圭太が圭太らしくいられなくなると言うなら、俺は……」
泰雅は、いつもより言葉を多く語ってくれていたけど、ふと言葉を止めた。そして少し考えた後、再び話し出した。
「許可をする、という言い方がそもそも間違っているのかもしれない。番ではあるが、まだ家族にはなっていない。俺に、そこまで縛り付ける権利なんて……」
「いや、泰雅、それは違う。俺たちは将来も含め約束して番ったんだ。もう家族同然だ。……だから俺は、泰雅が反対するならバイトはしないと思っている」
珍しく、弱気になる泰雅に俺は言葉を強めた。
泰雅に俺の気持ちを伝えたのは、どうしても許可が欲しいからというわけじゃない。俺の気持ちも泰雅の気持ちも、擦り合わせて納得したなら、バイトをやってみたいと思ったんだ。
「確かに俺は、尊厳なんてたいそうな言い方をしちゃったけど、泰雅と同じ方向を見て生きていきたいだけなんだ。俺のバイトの話を納得できないとか、今じゃないと考えるなら、泰雅の気持ちも聞いてちゃんと話し合いたいって思ってる」
「やっぱり圭太はすごいな」
「なんにも凄くねーぞ?」
「ちゃんと自分の気持ちも伝え、俺の気持ちも汲んでくれる。こんなに出来た番はいないな」
「なんだよ、恥ずかしいじゃないか」
俺は泰雅の急なベタ褒めモードに、恥ずかしくなって泰雅の背中をバシッと叩いた。
「俺は、圭太の背中を押そうと思う。ご家族に相談する時、俺もついていくよ」
「そうか。ありがとな、泰雅」
こうして俺は、泰雅が納得した上で、バイトの許可をもらった。
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