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42 想い出を辿る

 マスターも同席して大地(だいち)くんと話をした数日後、俺は大地くんを呼び止め、『俺の恋人も交えて、ちゃんと大地くんと話がしたい』と伝えた。  大地くんの気持ちを考えると、もしかしたら酷なことをしているのかもしれないけど、俺は泰雅(たいが)の気持ちを優先してしまった。  けど大地くんは、迷うことなく承諾してくれた。  知らなかったとはいえ、恋人がいるのにアプローチをしてしまったから、ちゃんと説明をして謝りたいと言っていた。  マスターも言っていたけど、今回のことは誰が悪いわけでもないし、事情は俺の方から泰雅にしっかりと話している。  それでも大地くんは、泰雅に直接話をしたいと言ってくれた。やっぱり外見とは違って、誠実な人だ。  ただ、年末は忙しくて時間調整がうまくいかなかった。なので、改めて年明けに日程を決めることになった。  その後もバイトで大地くんと一緒になっても、表面上は、特に気まずい雰囲気になることもなかった。  けど何も知らずに、仲の良い友達同士のつもりでいたのは、俺だけだったんだなと今は思う。  ホールで接客をする大地くんの背中を見ながら、本当の意味で普通に戻れる日が来るといいなと思った。  ほんの一週間前に、大地くんとのことがあったなんて信じられないほど、普通の日々を過ごし、あっという間にクリスマスイブがやってきた。 「泰雅、おはよう!」 「おはよう。準備はできたか?」 「おう、バッチリだぜ」  大学はすでにもう冬休みに入っている。けど俺は、課題をある程度済ませたかったので、まだ寮に残っていた。  それに、クリスマスイブに泰雅と出かけることになっていたから、このタイミングで寮をしばらく留守にする手続きをすることにした。  必要事項を記入し、管理人さんに『行ってきます!』と元気に挨拶をして寮を出た。 「じゃあ、まずは動物園へレッツゴー!」  俺は元気よく片手を天高くあげると、意気揚々と歩き出した。  泰雅からもうすぐ帰国すると連絡が入った時、クリスマスはどうしたいって聞かれた。  まだ行ったことのないところに行くのも楽しいけど、俺たちが恋人になってからの想い出を、辿っていくのもいいなって思ったんだ。  初めてのデートの時は、俺だけがデートって思ってはしゃいでないよな? あれ? 俺たち恋人ってことでいいんだよな? ……なんて、あわあわしてたっけ。  初めて一緒に過ごしたクリスマスは、高級そうなホテルに案内されてビビったなぁ。そして、夜景の綺麗な部屋で過ごした特別な夜……。  去年のクリスマスを思い出したら、顔が一気に熱くなってしまった。  もうあれから一年が経ち、何度も体を重ねたし、何度もヒートを一緒に過ごしている。今更照れなくてもって思うのに、俺は今もまだ照れてしまうんだ。 「何一人でニヤニヤしてるんだ?」 「え? ああ。初めてのデートから色々あったなぁって、想い出を辿ってたんだ」 「今日は、二人で想い出を辿っていくんだろ?」 「あはは、そうだな。つい自分の世界に入っちゃったよ」  きっと俺の考えていることなんて、泰雅にはバレバレだろうけど、照れ隠しするように笑ってごまかした。  泰雅はそんな態度の俺を、楽しそうに見つめている。 「さ、行こうぜ! あんまりのんびりしてると、お昼になっちまう!」  俺は泰雅の腕を引っ張って、自分の腕を絡ませた。  初めてのデートの時はこんなこと恥ずかしくて無理だったけど、あれから俺たちは、ゆっくりと愛を育んで……って言葉にすると、やっぱり恥ずかしいな。  恋人の腕組みというより、俺たちは肩を組む方が似合っているのかもしれない。俺はそう思って、からめた腕を外し、泰雅の肩に腕を回した。 「やっぱ、俺たちはこっちの方が合う気がするな!」 「ふっ。圭太(けいた)らしいな」  クリスマスに恋人同士で出かけるというのに、こんな距離感のカップルも珍しいかもしれないけど、こんな二人がいてもいいじゃないか。 「たぬき見て、キリン見て、お昼はオムライスだな!」 「そうだな。楽しみだな」  こうして俺たちは、恋人同士になってからの想い出を、ゆっくりと辿っていった。 ◇ 「あー、楽しかった!」 「圭太が楽しそうで、俺は嬉しい」 「俺も、泰雅が嬉しそうで良かった!」  去年のクリスマスに泊まった、泰雅の親父さんの経営するホテルの最上階。チェックインをして一度部屋にやってきた。  前回は夜景が広がっていたけど、今はオレンジ色の空が広がっている。 「夕焼けが綺麗だなー」 「ああ、綺麗だ」  窓の外を眺めると、西に広がる水平線に、ちょうど夕陽が沈むところだった。とても幻想的で、思わずため息が漏れる。 「なんかさ、こんな景色を見てたら、人間の悩みなんてちっぽけなもんに思えてくるな」 「なんだ圭太、悩みでもあるのか?」 「ん? 俺だって悩みくらいあるぞ?」  泰雅が意外だなって顔をして聞き返してくるから、俺は心外だなと思って言い返した。 「いくら呑気な俺でも『あなたはオメガになりました』って言われてみ? さすがに何が起きたか混乱したさ」 「そうだな」 「けど、結局あれやこれやあったけど、俺のそばには泰雅がいてくれるし、どうにかなるっしょ! って思うんだ」 「ふっ。それじゃあ、もう今は悩みはないんじゃないか?」 「まぁなー!」  俺は『あははは!』と声を上げて、今までの予想外の出来事を笑い飛ばした。  でも、泰雅がいなかったらどうなっていたんだろうって、一瞬考えてしまった。  窓辺に並んで立つ、泰雅の顔をチラリと見る。 「どうした?」 「んー! 泰雅と一緒なら、これからも悩みがあっても、吹き飛ばせるんだろうなって思って!」 「ああ、俺たちが二人一緒なら、大丈夫だ」 「やっぱ俺って、ラッキーだ」  ほぼオメガになっていると担当医に言われたことを、泰雅に伝えた日。  俺は、後天性オメガになったことを大義名分にし、泰雅のそばにいる権利を得られてラッキーって思ったんだ。  本当に、そばにいられるだけで良いって思ってたのに、まさかの俺たちは両思いだった。  それから、俺たちはいろいろな想い出を積み重ねてきた。  今まで知らなかった泰雅を知ることもできて、もっともっと泰雅が好きになった。  これがこの先ずーっと続くなんて、やっぱり俺はラッキーだ。 「夕飯って何時からだっけ?」 「なんだ、良い話してたのに、もう食べ物の話か」 「深いことを考えるより、俺には性に合ってる!」 「まぁ、しっかり食べてエネルギー補給してもらわないとな。……夜は長いぞ?」 「へ? ……あっ」  泰雅はニヤリと笑うと『そろそろ行くか』と言って先にドアに向かった。  俺の顔が真っ赤になっていることは、きっとお見通しだろう。  なんかちょっと癪に障るけど、今夜見返してやるからな! そう思いながら泰雅の後を追いかけた。

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