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45 俺ってラッキー

圭太(けいた)の人生を、俺が大きく変えてしまったのかもしれないという葛藤を持ったまま、圭太のそばに居続けた。俺がそばにいることをラッキーだと言ってくれる圭太の言葉に甘えていた。そんな罪悪感がある反面、心の奥底には欲望の塊のような醜い感情を抱えていた」  泰雅(たいが)が、小さく息を吐き出したのを感じた。  ここまで包み隠さず本音を言おうとしてくれるのは、全部俺のためなんだと思う。  いつもは言葉足らずで、唐突に文脈が飛ぶことはあるけど、頭の中でこれだけたくさんのことを考えた上で言葉にするからだろうな。  俺は『信頼できるアルファがそばにいると安定することもあるんだって』と泰雅に話をした時を、懐かしく思い出した。  あの時は、文脈飛びすぎて突然告白されたっけ。びっくりしたけど、すごく嬉しかったなぁ。 「……今日医者から言われ、俺が原因かもというのが現実味を帯びてきた。もしそれが本当なら、俺はどうしたらいい。圭太に、どうやって謝ればいい……」  え? ちょっと待って。  俺が告白をされた時を思い出し、ちょっとニヤニヤしていたら、泰雅の話が変な方向に進んでいた。  俺はバッと顔をあげて泰雅を見たら、今にも泣きそうな顔をしていた。 「ちょっ、泰雅なんて顔してんだよ?」 「圭太に申し訳なくて」 「いやいやいや、なんてこと言ってんだよ。俺がいつ嫌だって言った? 泰雅のせいだって責めたか?」 「圭太は優しいから、俺に気を使っている」 「はぁ……。泰雅は、変なところでバカだな。俺は何度も言っただろ? 俺はラッキーだって」 「それは、転化の原因を知らなかったから」  いつもは飄々として表情もあまり変わらない泰雅が、なんか拾われてきた猫みたいに、不安そうな顔をしている。泰雅には悪いけど、ちょっと笑ってしまった。 「泰雅はさ、俺のことを初めて会った時から好きだったって言ってくれたじゃん? その時からずっと俺のことを思っていてくれて、俺を離すまいという気持ちが影響を与えたなんてすごくないか?」 「圭太は、嫌じゃないのか……?」 「なんで? 自覚したのは遅かったけど、きっと俺も出会った時から泰雅のことを好きだったんだよ。ベータだと分かった時に一度は諦めたのに、こうやって(つがい)になって泰雅のそばにいられる。もちろんベータのままでも、泰雅を好きという気持ちだけは持ち続けていたと思う。だけど、オメガになったおかげで、もっと深く泰雅との繋がりを持てたんだ」  こうやって自分の気持ちを確かめるように言葉にしていくと、俺はやっぱり運がいいというのがよくわかる。俺のために都合良く人生が書き換えられ、むしろ泰雅の方が、巻き込まれたんじゃないかとさえ思ってしまう。  それでも構わない。泰雅ごと巻き込んで、楽しい人生になる予感しかないんだから。  俺は一呼吸おいて、泰雅を見つめた。そして、にかーっと太陽みたいに満面の笑顔を見せた。 「ほら、俺って最高にラッキーじゃん! ううん、違うな。俺たち二人とも、超ラッキーじゃん!」  俺たちは遺伝子的に結ばれた、運命の番ではない。けど、それ以上に運命だと思っているんだ。  担当の先生が言っていたことがもし本当だとしても、泰雅だけが原因じゃないと断言できる。だって俺も泰雅とずっと一緒にいたいと願っていたから。  泰雅に相手が出来ようが、親友ポジションでも良いから、離れないつもりだった。ずっとそばで見守るつもりだった。……だから、俺も泰雅と同じだ。きっと泰雅の人生を変えたんだ。 「俺たち二人とも、超ラッキー……?」 「そうそう。お互いに求めているものを手に入れたんだ」 「そうか、ラッキーか……」  泰雅は噛み締めるようにつぶやいて、ふっと笑った。  俺も答えるように、にっと笑い返した。 「オメガに転化して、少しだけ思っていたルートとは違う道を歩き出したけど、オメガになっても俺は俺、何にも変わらないさ」 「圭太の、その前向きなところが好きだ」 「だろ? 俺の取り柄だからな。悩んでいるくらいなら、前を向いて歩いた方がいいじゃんか」 「……やっぱり、俺は圭太といたい」 「もちろんだ。俺だってずっと泰雅と並んで歩いていきたい」 「圭太、卒業したら一緒に住もう」  泰雅は頭の中で考えて言葉にするから、文脈飛ばすんだよなーってさっき思ったばかりだけど、まただ! 急に話が飛んだ。  泰雅は至って真面目に話をしてくれているのに、俺はおかしくて笑ってしまう。 「なぜ笑う」 「ごめんごめん。なんかすごく泰雅らしいなって思って」 「何がだ」  さっきまであんなに饒舌だったのに、またいつもの泰雅に戻っている。しかも俺が笑ってしまったから、ちょっと不満そうだ。 「泰雅ってさ、言葉少ないけど、頭の中でたくさん考えてるじゃん。だから急に話し出すと、文脈飛ばすんだよ」 「ああ、確かに」 「そんな泰雅も、俺は大好きだぞ」  不機嫌そうだった顔が、今度は少し照れたような表情になった。 「一緒に住むかぁ。いいな……凄くいいな」  大学は寮生活だから、高校の時に比べたら制限が増えた。帰省しているときは常に一緒にいるけど、一緒に住むようになったら、仕事以外はずっと一緒にいられるんだろ? こんな夢みたいなことがあるのか。 「約束だ……」 「うん。卒業後が楽しみだな」  俺たちは、ぎゅっと固く握手をした。 「番一周年記念の旅行も楽しみだな」 「でも圭太……」  俺たちは、番記念日……いわゆる結婚記念日みたいなやつだな。そのお祝いに、二泊三日で旅行を計画している。  二泊するのは初めてで、少し遠くまで足を伸ばすんだ。すげー楽しみにしている。  なのに、朝からちょっと嫌な感覚がするんだよな。  泰雅も、俺のうなじに近づいた。 「ああ、旅行の予定はキャンセルだ」 「うわー、マジか。なんとなくそんな感じはしてたんだけどなー。あー、悔しいなー」 「改めて、計画しなおせばいい」 「うーん。残念だけど、泰雅とずっとイチャイチャできるからいっか!」  旅行先は逃げない。今はオメガの体をいたわる方が大切だよな。  それに、ヒートの時は無条件に甘えてもいい権利をもらったみたいで、俺は好きな期間なんだ。  ヒートは訳がわからなくなるから怖いと言う声もあるみたいだけど、俺は全然平気だ。  泰雅の過保護っぷりは、ヒートの時は顕著に現れる。甲斐甲斐しく世話をしてくれるし、ずっとそばにいてくれるし、離れる時は俺が不安にならないようにしてくれる。  ただ、ずっと幸せな空間で過ごせる俺は、本当に幸せ者だ。  ほら、やっぱり俺はラッキーじゃん。 「泰雅! 愛してる!」  俺は泰雅に飛びついて、熱いキスをした。 (終)

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