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第27話

玄関のドアが閉まるなり、強く引き寄せられる身体。 貪るように重ねられる唇。 優しくも切ない温もりが……触れた所から深部に浸透し、全身を熱く駆け巡る。 ……もう、離れたくない。 このまま溶けて、竜一の一部になれたらどんなに幸せだろう。 やがて唇が離れ、お互いの吐息が交差する。 「……よかった」 保釈されて、戻ってきてくれて。 僕には、竜一だけだから…… 熱くなる胸の内を吐露すれば、竜一の大きな片手のひらが僕の頬を包む。 「当たり前だ」 力強く僕を見据える、形の良い眼。 瞬きするのも惜しいほど見つめていれば、視界が涙で滲んでいく。 「辛いか?」 「……ううん」 「そうか」 下睫毛を僅かに揺らし、溢れ落ちる涙。掠めて濡れた頬を、竜一の親指が拭う。 「竜一は?」 縋り付くように尋ねれば、小さく溜め息を漏らした竜一が、僕をそっと抱き寄せる。 「ここで暮らすか?」 「……」 「それとも、何処か遠くにいくか?」 背中に当てられた手。その指先が、微かに震えていた。 僕はずっと、竜一は何があっても動じない人間なんだと思ってた。 でも──僕とそう変わらないのかもしれない。 「竜一の、好きにして」 「……」 「ずっと一緒にいられるなら、何処でもいい」 竜一の胸に顔を擦り付け背中に両腕を回すと、僕の横髪を掻き上げた竜一の指が首筋に触れる。 「そうだな」 『今夜の飯はなんだ』 『……ん。生姜焼きにしようかな』 『美味そうだな。早く食いてぇ』 『うん。すぐ作るね』 『その前に風呂だ』 『帰ったら、すぐに用意する』 竜一と初めてこのアパートで暮らすことになった日──一緒に食材を買いに行った出来事が思い出される。 あの時は、これが幸せのゴールなんだと思ってた。 けど……違ってた。 どんなに環境が変わろうと、本質までは変わらない。 僕に課された宿命は、きっと死ぬまで消えないんだろう。 視線を感じて隣を見ると、じっと僕を見下ろす竜一と目が合う。 『……え』 ビー玉のような瞳に映る僕に、竜一の口元が綻ぶ。 それは、いつも見るシニカルなものではなくて、まるで我が子を見守る肉親のよう。 温かみのある、優しげな表情。 『いや、何でもねぇ』 視線が合って数秒後、その瞳が顔ごと逸らされる。 少し照れた横顔。 ずっと僕より大人だと思っていた竜一が、不思議と年下のように感じて……可愛いと思ってしまった。 なんでもない平凡な日常。 だけど、ずっと欲しかった平穏な日々。 それを平坦で退屈だと思う人は、世の中に沢山いるだろう。 だけど──僕は、違う。 「……りゅ、いち……」 僕達にはもう、容易く手に入れられるものではないのだから── end

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