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第1話 コンロ職人への手土産に不安しかないが、弟子のために頑張ろうとするライオン獣人に感動を覚える。

 赤いオープンカーはまた、分かれ道に差し掛かっていた。  助手席のバルドナビは、今度は直感ではなく地図を見て道を選んだ。  次の目的地へは、バルドと蓮の弟子たちの為に向かっている。  弟子にしてほしいと言ってきた志岐とチェシュには、この旅に出る前に大量の宿題を出しておいた。  今、必死になってそれを片付けていることだろう。  そんな若者たちの為に、師匠の二人は、志岐が使う、人間用のコンロを作っているという職人の元に向かっているのだ。    バルドの料理を教えるには、細かい火加減の調整ができるコンロじゃないと教えられない。  火魔法が使えない人間には到底難しいものだが、志岐が挑戦したいと言ってきたら、道具を揃えてやるしかないだろうと、バルドは嬉しそうだ。  魔法が使えないから諦めろとは言わないのがバルドらしい。  しかし、市場の調理道具屋に紹介された時の話を聞いて、蓮は不安しか無い。  そのコンロ職人は、とにかく変わり者の職人で、手土産が気に入らないと話も聞いてもらえないという。そして、仕事を受けるかどうかの基準は謎との事。  蓮は、チラリとバルドの膝の上の手土産を見る。  カサカサと風に揺れる紙袋の中身は、泊まっていた温泉旅館の売店で購入したものだ。  てっきり旅行前に準備をしているのかと思ったら、職人の元へ向かう朝になって、手土産忘れてたとバルドが言い出した。 (門前払いにならなきゃ良いけど……)  蓮の不安も乗った車は、職人の工房まであと少し。 「こんにちわ~」  バルドは、奥でけたたましい金属音が鳴る工房の入り口で、大きな声を張り上げた。  金属音が止み、シンと静まってから、また鳴り始める。 「聞こえなかったか?こんにちわ~!!!」  もう一度張り上げた声に、また同じように音が止んで、静かになった後、作業が再開される。 「おかしいな。聞こえないか?俺の声?」  バルドは隣の蓮に聞いてくるが、明らかに無視であるとは考えないらしい。同じように声を張り上げることを繰り返している。  手土産の不安から出直した方がいい気がするが、諦めないバルドを引っ張っていく方法も見つからず、何度も張り上げる声をただ聞いていた。  工房の入り口から見える作業場には、たくさんの部品が並んでいて、何かが焼けたような匂いが充満している。  金属音が聞こえる奥の方には、設計図らしきものも並んでいた。 「あ~もう、うるせ~なっ!!」    十回は続けたあと、奥から人が出てきた。  バルドに似た茶髪の短髪で、作業服に身を包んだ青年だ。  なぜだかベルトの余っている部分が異様に長い。 「三回も繰り返せば諦めて帰れよ!」 「いやぁ、聞こえなかったかと思って、作業中にすみません」  面倒臭そうに出ていた青年は、蓮が思った通り無視を決め込んでいたようだ。  初っ端から印象が悪いが、バルドは何も気にしていない様子で、彼に握手を求める。  バルドが差し出した手を驚いたように見た青年は、フイっと顔を背けてしまった。 「あ、舐めた方がいいですか?」 「やめろ!」  握手の方法が違うのかと提案をするバルドを小突きながら、蓮は前に出た。  なぜだか青年の頬が染まった。 (あぁ、頑固そうだけど、いけそうだな)  蓮は直感でそう感じ取り、綺麗な笑顔を作る。  相手を落とす時に使う顔は、蓮の場合、男女どちらにも効く。 「初めまして。ソムリエの蓮と申します。こちらはシェフのバルド。うちのレストランで使うコンロを作っていただきたいのですが、職人の鉄さんでいらっしゃいますか?」 「ん?あ、あぁ……」  鉄は返事をしつつも蓮からは目線を逸らす。 (うん、悪くない。手土産なく簡単に話は進みそうだ)  鉄の反応に、蓮は好感触を持って話を進めようとする。  しかし、横からバルドが紙袋をガサリと前に突き出してきた。 「これ、手土産です。よかったら貰ってください」 「おいっ」  蓮はバルドを止めようとするが、ニコリと笑ったバルドの手から、紙袋は鉄へ渡ってしまった。  そこから出される品物を手にして、鉄は言葉を失っていた。 「フ、フンポダケ……?」  卑猥なキノコのこけしを持った鉄は、ブルブルと手を振るわせている。 「おい、バルド。なんで出した!俺が交渉すればすぐに済んだものを!」 「え?だって、渡す為に買ったんだ」 「バカか!こんな手土産喜ばれるわけ……」 「スッゲー!!!!」  慌てる蓮の言葉を遮って、鉄が声を上げた。 「え、マジかよ!この大きさもリアルだし、筋とか張りとか完璧じゃねぇか!これ、どこの職人が作ったんだ?」 「あ、えー、さぁ?旅館の売店で売ってたんで。でも、かなりリアルで技術の高い品ですよね!これくらいの技術の高さでないと、話は聞いてもらえないかと思ったんですよ」 (いや、え?マジで?それそんな凄いこけしなの?) 「この太さ、ヤバいだろ」 「ですよね!森でも中々見れない大きさですよ」  動揺する蓮を置いて、鉄とバルドはフンポダケのこけしの造形について興奮して語り始めた。 (この職人、謎……というか、変態じゃね?卑猥キノコが喜ばれると思わないだろ普通)  熱く語り合う、料理人と、コンロ職人。  どちらも自分の作品を作るという点では、何か通じるところがあるのだろう。  そして、工房を手伝ってくれるのなら、コンロの相談に乗っても良いと鉄が提案をしてきた。  バルドは任せてくれと、腕を回す。  無理はするなよと、蓮が視線を送ったがニカっと笑顔だけが帰ってきた。 「じゃあ、バルドは工房の裏手の掃除な。廃材を片付けてくれ。蓮は俺と中で作業だ」  鉄がそう指示をすると、バルドは勇み裏手に走っていった。  こっちだと蓮を呼んだ鉄は、蓮の腰に手を回し、抱き寄せるようにして歩き出す。 (なるほど、やっぱりそういう感じか。変態には違いないな。どう交渉するべきか……)  蓮は笑顔を貼り付けながら、工房の中へと入って行った。  腰に添えられた鉄の指先に、ゾワリと鳥肌を立てながら。  工房の中は、多少薄暗くよくわからない熱気も感じる。

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