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第1話
大家の足元、玄関前にぶちまけられた荷物はまぎれもなく僕のものだった。
『飯野都筑 』って名札のついた中学時代から着馴染んだジャージとか、高校の時から使っていたボストンバッグ、それから就職のお祝いにと母が買ってくれたスーツ。
それらが散らかって、茶色く錆びの浮いた足元の鉄板の汚れを拭き取っていた。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
けれど肌で感じるものもある。
「な、何か事件ですか⁉︎」
とっさに、そうあってほしいと思って水漏れだったりボヤ騒ぎだったり、もっと最悪なことに空き巣って可能性を込めて、声を上げた。
肯定が欲しくて、返事が来る前にどんどんと言葉を放つ。
「警察は? 必要ですか? 今呼びますね。びっくりですね、何があったかわかんないですけど、世の中物騒なことが多いですもんね!」
でも一つだけ、たった一つだけどうしても当たって欲しくない可能性があって……そうじゃないように祈りながら、話を止めずに警察に電話しようと携帯電話を取り出す。
ボタンを押そうとした僕を縫い留めるような鋭い声が上がった。
「や、ちょっと尋ねたいんだけどよぉ……あんた、オメガなんだってな?」
朝までは朗らかだった声が、険しくしわがれて嫌悪感を隠そうともしていない。
「あ、ぇ……」
頭の中を白いペンキで塗りつぶされてしまったかのように、思考ができなかった。
何か言葉を紡ごうとしても、それらはすべて真っ白なペンキにまみれて形にならない。
僕のその様子がもう答えだった。
僕は、大家が言ったように、Ωだ。
貼り付けていた最後の笑みがひくりと引き攣るようにして崩れ去り、無表情になった僕へ大家は腹からの声を出した。
「出てってくれっ」
「そ、そんな! どうしてです⁉︎」
「オメガだからだ! 他に何があるっ!」
他に? 僕は今、性別が理由で住む場所を追い出されようとしているってことだった。
「このアパートの契約書にはオメガ禁止とは書かれていませんでした!」
詰め寄ろうとして、肩からの荷物が滑り落ちる。
足元でけたたましく音を立てて落ちた買い物袋から、生活に必要な歯ブラシやラップなどのこまごましたものが転がり出た。
うさぎ模様が気に入って買ったマグカップは新聞紙にくるんでいたけれど、衝撃に耐えられなかったのかガシャンと耳を塞ぎたくなるような音を立てたから、もう駄目だろう。
「そんな常識、誰がいちいち書くんだ? ……なんせオメガは見りゃわかるから、紹介された段階で全員断ってたんだよ、いつもならな!」
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