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第58話

 トーマがこちらに一歩進もうとした時、何かに気付いたのかフライパンの方へと向き直る。  そこにはバターと一緒に火を通したリンゴが並べられていて、とろりと甘い匂いを放っていた。 「ああ、君の甘い匂いはこれか」 「リ、リンゴの火を通したものが大好きなのでっよく作ります!」  そう言うとトーマは合点がいった表情で頷くとそれ以上深追いすることもなくテーブルに戻っていく。  跳ね上がる心臓に血液が押し出されて、耳の奥が煩わしいほどにうるさい。  きっとそれは、バース性がバレかけたからだって思うんだけど、な。  先に出した汁物にパンケーキもペロリと平らげるトーマを見て、あんなに細くて軽いのにどこに消えていくんだろうって不思議になる。 「今日は一日、部屋で仕事をしている」 「はい、お邪魔しないようにしますね」  チラ と僕を見てから、何か言いたそうだ。  前なら戸惑っただろうけど、もういい加減覚えたぞ! 「十時と三時に間食をお持ちしますね」 「いや……そうじゃなくて……」  違う⁉︎  どう言うこと⁉︎  それ以外、僕に話しかける理由がわからなくて、オロオロとエプロンの裾を握りしめる。  間食じゃなくて、アフタヌーンティーみたいにケーキとスコーンとサンドイッチを用意しなきゃダメだった⁉︎ それとも他に…… 「あの部屋はなんだ?」  軽く首を傾げるように示されたのはリビングの奥にある和室、僕の部屋だ。  他の片付けを優先させていたからあそこはまだまだゴミとか段ボールが積み上がっていて、きちんと片付けきれていなかった。 「すみませんっ近日中には片付けてしまいますのでっ」  大慌てで頭を下げた僕に、小さな咳払いが返ってきた。 「いや、どうしてあそこに寝かされていたのか……」 「あっあっ……あー……」  昨夜「出すもの出して眠ってしまったからです」なんて言えなくて、急いでその部分を飛ばした説明をする。 「ソファで酔って眠ってしまわれたので、二階に連れていくのは危険だと思って、失礼だとは思いましたが僕の部屋へ……申し訳ありません……」 「僕の?」 「あっいえっお借りしているので僕のってわけじゃなくて、僕が寝起きしている部屋ってことです!」  ぱく とトーマの口が一度開いてまた閉じる。  何を言われるのか、胸の前で手を組んでドキドキしながら待っていると、溜め息のような気配が溢れた。 「あれは、君の寝床か?」 「寝袋ですか? はい! あのメーカーの寝袋いいですよねっサイズがゆったりめだから寝返りも打てるし、生地が手入れしやすくて、ファスナーも下まで……」 「そうじゃない」  

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