73 / 142

第73話

   トーマに言われた言葉が分からず、僕はポカンとした後で慌てた。 「ち、違うんです! お味噌汁は大変おいしいです! ただ、お休みとか、立て替え分とかのことをちょっと考えてて! 病院に行くならお金がいるし、もしよければ立て替え分を……」 「立て替え?」  サッとトーマの眉間に皺が寄る。 「君は、何を立て替たんだ?」 「あー……食費とか、お掃除に必要なものとか、お家を整えるのに使うものとか……です」 「いつから?」 「初日からです」  そう答えると、トーマはさとカレンダーに視線をやってギュッと眉間の皺を深くした。 「立て替えておいて欲しいとのご指示でしたので」  僕も最初はそれでよかったし少額だろうと思ってたんだけど、金額が重なると流石に僕の生活を圧迫してきてしまうから…… 「今、払おう。金額を教えてくれ」 「あ……ありがとうございます!」  食事の手を止めて動いてくれるトーマに感謝をしつつ、これでなんの問題もなく病院に行けるとホッと胸を撫で下ろす。 「えっと、こちらなんですけれど、最初の分はリンさまにお渡ししてしまっているので、写真しかなくて……」  念の為に写真で残してあったレシートを見せて、僕の基準ではなかなかな金額だと思うのにトーマはすぐに払ってくれた。 「よかったぁ、これで病院にも行けます! ありがとうございます」 「今日、病院に行かなかったのはこれが原因なのか? 君は……貯金はしないのか?」  なんとなく硬くなった視線に慌てて首を振る。 「貯金はあったんですが……その、アパートを借りる時に使ってしまったんです。貯金してないわけじゃないです!」 「アパートがあるのか? では住み込みはまずいだろう?」 「いえ……」  Ωだから追い出された とは言えなくて、「大家さんに出ていってくれと言われて」とモゴモゴと答える。 「それは、住めなかったのに敷金礼金だけ渡したと言うことか?」 「そう、なんですけど……向こうにも事情があったみたいで。あ! 僕は別に近所迷惑なこととかしてませんよっ」  慌てて付け加えた言葉に……住むこと自体が近所迷惑だったのかもしれないと、重い嘘が氷を飲み込んだように胸の内を冷やす。  最初から僕がΩだってわかっていたらアパートを貸してもくれなかっただろう。  仲介してくれた不動産屋にも連絡をして、それでも返すことはできないって言われてしまったのだから……痛い勉強代だったと思うしかない。  いや、思い込むしかない。  全部、Ωだった僕が悪い。 「そうか」 「はい、……」  険しい顔をしたまま黙りこくってしまったトーマを見て、せっかく親子で団欒できたのに空気を悪くしてしまったなって……  

ともだちにシェアしよう!