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第75話

「いいのか?」  僕はあえてもう一度踊るルカの方に視線をやってから、意味ありげにトーマを見る。 「内緒ですからね」  そう言って小皿に乗せた砂糖をまぶしたベニエを差し出すと、トーマの目がキラキラと光る。  ルカのオパールのような瞳とは違うと思っていたけれど、子供のように出来立てのお菓子を見つめる目はキラキラしていて宝石のようでそっくりだ。 「内緒だな」  ルカから隠れるためかリビングに背を向けて食べ始めたトーマは、本当に嬉しそうに食べてくれている。 「うまい!」 「火傷はしませんでした?」 「ああ……」  トーマは返事をすると、空になった皿と僕の手元をチラチラ見て……  本当は見ないふりをしておしまいってするのが正しいんだろうけど、今にもきゅ〜んって鳴き出しそうなトーマを無視できなかった。 「今度はジャムをつけて食べてみてくださいね」  これが僕の最大限の譲歩だ。  トーマは皿に盛ってあるジャムをつけて、パクリと口に含むと……僕に満面の笑みを見せた。 「美味いな!」  それが心からの賛辞だってわかったのは、トーマが僕をまっすぐに見た瞳の中に僕が笑顔で映っていたからだ。  こんな人だったっけ? って思ってしまうほどトーマの態度は変わっていて、ツンツンされるよりもいいけれど戸惑いも大きい。 「そういえば、トーマさまはどうしてあの時、菜の花畑の方にいらっしゃったんですか?」 「…………」  予期せぬ質問をされたからか、トーマは唇に残ったジャムの雫を拭き取る手を止めて気まずそうに視線を外した。 「……散歩が、楽しそうだと」 「はい! ルカさまもすごく喜んでくださいました!」 「いや、ルカもだが……」  歯切れの悪い言葉に、もう少し待ってあげたかったけれどベニエは揚げ色が命だ。  ここで焦がしてしまってはせっかく揚げたてで美味しく食べてもらえるのに、イマイチになってしまう。  僕はっ! 美味しいベニエを食べて欲しいっ! 「はい、これどうぞ。熱いうちに召し上がってください。ルカさまには少し冷めたこちらの皿を」 「っ、あ、ああ」  僕からお皿を受け取って、モゴモゴ言いながらトーマはリビングに向かう。  ルカもトーマに気がついてはしゃぎながらローテーブルに向き直って……それをたしなめる姿は普通の親子だ。  この家の悲惨だった姿も独りで寂しそうにしていたルカの姿も、僕の勘違いだったんじゃないのかなって思えてくる。  一緒に食事をするようになったからといって、二人の中は当分ギクシャクしたままかなって思っていただけに、トーマの膝の上でベニエを食べ始めたルカを見ていると……

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