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第94話

「君はフェロモンがわかるんだね」  嬉しそうに言われて、僕はこくこくと小さな子供のように頷く。そうすると頭を撫でてくれるから、それに擦り寄りながら「すき」と繰り返す。  「トーマ、……すきぃ」 「私のフェロモン、気に入ったみたいだね」 「…………」  薄く笑う唇に吸い付きながら、ごねるように首を振る。 「トーマ……すき」  内緒話をするように肌に唇をそわせながら囁くと、僕を見つめていた両目がはっと潤んで……ガラスに浮かんだ露のように、不安定な感情がトーマの瞳を滑り落ちていく。  そこに含まれる複雑な煌めきを……僕はわからなかった。 「君は……」 「ひぃ……んっも、もうムリです……むり……」 「もう無理?」 「はぃ、だめっだめです…………奥が、切なくて……」  ゆらめく瞳が近づいて、ゆっくりと唇が重なる。  もう僕の唇はトーマの体温に馴染んでいて、触れあうとそこから溶けて混ざっていきそうな気分になった。翻弄されて、舌を吸われることがこんなにも気持ちよくて、上唇に舌先が触れると疼くような痺れが走って、脳みそがくすぐったくなって…… 「ぁっ! ……ひぃん!」  チカチカと視界に光が飛ぶ。  ちゅくちゅくと耳を覆いたくなるような水音を出されて、恥ずかしさのあまり思わず腕を突っぱねた。  よろけるように倒れた僕は、いつの間にかズボンもパンツもポーンとソファーの方に投げ捨てられていて、気づけばはしたない下半身を守るものは何一つなかった。  華奢でほっそりとした脚じゃなくて、いまだに筋肉の筋の浮く脚はゴツゴツしていて可愛らしさのかけらもない。   「ぁ……ぼ、ぼく、  」  甘イキと先走りでぐっしょり濡れた下半身はあまりにも扇情的ではなかった。  急に自分のΩらしくない体を晒されて、ぎゅっと身を固くして蹲る。そしてそんな僕を見て現実に戻ったのか、トーマはサッと立ち上がるとドアを過ぎてどこかへ行ってしまう。 「…………この体を見て…………目が覚めたのかな?」  まだ身体中は甘く疼いて、足は震えて言うことを聞かない。  それでも、こんな……挿入の直前で放り出されるような無様をいつまでも晒してなんていられないから……  よろけながらトーマが放り出したパンツを取ろうと手を伸ばす。 「あ、はは……手が震えてる……」  先ほどまで与えられていた快感は初めての僕の身には過ぎるもので、体は絡め取られているかのように思い通りには動かなかった。  それでも、なんとか這い寄って下着を掴んだ。 「んん……」  パンツに足を通すと、ぞの感触でぞわりと肌が総毛立つ。  

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