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真夜中0時を過ぎた頃、玄関のドアががちゃりと開く音が響いた。
金曜日の夜、リュウ先輩の部屋。
ドアを開けたのは先輩だ。
アオくんは主 不在の部屋で、我が物顔でソファに寝っ転がっていた。
鍵が開く音にスマホをいじっていた手を止めて、パッと身を起こす。アッシュが入った柔らかい髪を耳にかけ直しながら、少しだけ足早に、玄関へ向かっていった。
◇◇◇
リュウ先輩は火曜から大阪出張に行っていた。
コンペプレゼンとか撮影ロケ同行とか、そういういつもの出張じゃない。
インテックスで開催される広告業界の大型展示会。
社を代表する出展チームの主要メンバーに抜擢された先輩は、ブースの企画・運営、さらにはステージでのトークセッション出演も任されていた。
「ブース運営はいい、トークセッションってなんだよ最悪、なんで俺が」
眉間にしわを寄せながら、しばらく前からぐちぐち言っていた先輩。
しかし、あれでも業界でちょっとは、いやこれまでの広告賞の受賞歴を見たらなかなか、名の知れたアートディレクターなのだ。
そういう場に呼ばれたってなんら不思議はない人なんだけど。
ぶつくさ言いながら深夜まで資料準備をする先輩の横で、アオくんは淡々と自分の仕事を進めていた。
しかしその内心は、尊敬と誇らしさと、そして「おれだって」という少しの嫉妬。そういう感情を織り交ぜながらひっそり先輩を応援していたりした。ひっそりと。
先輩が展示会準備に手が回るように黙ってチームの仕事を先回りしとくとか、そういうひっそりさ。
そして先輩の「ぶつくさ」に少しだけ同情もしていた。
出発直前まで連日深夜残業しながら準備に追われ、会場入りしたら朝から晩まで数日間来客対応の立ち仕事、
ただでさえ疲労が重なるだろうに、仕上げは最終日終了後に各社お偉方揃い踏みの交流会まで用意されていたのだ。
普段はラフなTシャツ姿で仕事する先輩が、スーツで名刺片手に、顔を売りながらの立食パーティー。
そんなロビー活動もトークセッションも、先輩にとっては嫌っている分野の仕事だ。
人当たり良く笑顔で有能に、そつなく立ち回る。そんなの「ガラじゃない」とか言いつつ、でも結局なんでもうまいこと、こなしてしまうのがリュウ先輩だった。
けれど、“うまいこと”やっているあいだの冷静な顔の裏にある、その心労……というか苛立ちが、アオくんはありありと想像できる。
かたいスーツに身を縛られて、黒髪短髪のつり眉顔には似合わないシャンパンなんか持ちながら、有能ADとして笑っている心のうちでは眉間のしわがとんでもないことになっているんだろうな、と思う。
◇◇◇
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