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 そして予想どおり、最終の新幹線で帰ってきたリュウ先輩はひどい顔をしていた。 「うわぁ」 「うわぁって言うな……」  低い声にも覇気がない。  玄関の壁に手を突き、俯きながらのろのろと革靴を脱ぐ先輩。  ネクタイは緩んでシャツの襟元も乱れているし、いつもワックスで流している前髪は額にかかっていた。  眉間にしわをよせながら、しょぼついて眇めた黒い瞳の下には薄くクマが落ちていて、いつもなら適当に返ってくる軽口すら今日は鈍い。 「お疲れ様です、おかえりなさい。  やばい顔してますよ、ゾンビみたい」  実際顔色はくすんでいる。リュウ先輩はアオくんの嫌味に顔も上げずため息をついた。 「うるせー疲れた、誰がゾンビだ、疲れた」 「かろうじて人のかたちしてるって感じです」  アオくんは淡々と返しながら、先輩の肩から鞄を外してやった。 「ごはん食べれましたか。米、残ってますよ」 「……とりあえず寝る」 「お風呂は?」 「とりあえず寝る」 「だめです」  ぴしゃりと言うと、先輩が半分閉じかけた目でこちらを見上げた。眉間が、くっと寄る。 「お風呂は入ってから寝たほうが回復しますよ」 「いや眠い」 「先輩のために、お湯張ったのに」  その一言で、先輩がほんの少しだけ黙った。  眉間のしわは深くなる。怒っているんじゃない。『先輩のために』という言葉に簡単にぐらついてるだけ。ぐらっときた、が、どうしても先輩は疲れていた。 「……いま風呂入ったら確実に溺れる」 「しょうがない人ですねえ」  流れるようにアオくんは先輩の腕を掴んだ。  先輩は「おい」と一応言ったけれど、言うだけだった。抵抗する気力も残っていないらしい。そのままアオくんが引っ張っていくと、いつもならもう少し文句を言うはずなのに、今夜は本当に足取りが重いだけ。  脱衣所に押し込んで、向かい合う。  先輩はまた壁にもたれて、目を閉じそうになっていた。 「立ってください」 「立ってる……」 「寄っかからないで、ちゃんと、ほら」  す、と近付いて、ネクタイを抜く。  アオくんの淡い色の瞳が間近で先輩を見つめ上げた。  しゅるりと布がほどけると、先輩の眉間のしわが浅くなる。ようやく少しだけ仕事の顔が剥がれた気がした。  そのままシャツのボタンを外していく。 「……おい」 「しょうがないから、介護してあげます」  袖を片方ずつ抜かせてシャツを落とし、肌着を胸元までめくり上げた。アオくんを見下ろす先輩の眉間のしわが、また深くなる。 「はい、ばんざーい」 「…………。」 「先輩、ばんざい」  観念したようだ。のろのろと、でも素直に先輩が腕を上げたのでなんだか可笑しくなった。いつもは人に指図するみたいな口をきくくせに、今日はもう、すっかりされるがまま。  先輩は何か言いかけていたけど、結局やめた。  アオくんがやけに機嫌よく、楽しそうにしていたからだ。 ◇◇◇

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