2 / 4
2
そして予想どおり、最終の新幹線で帰ってきたリュウ先輩はひどい顔をしていた。
「うわぁ」
「うわぁって言うな……」
低い声にも覇気がない。
玄関の壁に手を突き、俯きながらのろのろと革靴を脱ぐ先輩。
ネクタイは緩んでシャツの襟元も乱れているし、いつもワックスで流している前髪は額にかかっていた。
眉間にしわをよせながら、しょぼついて眇めた黒い瞳の下には薄くクマが落ちていて、いつもなら適当に返ってくる軽口すら今日は鈍い。
「お疲れ様です、おかえりなさい。
やばい顔してますよ、ゾンビみたい」
実際顔色はくすんでいる。リュウ先輩はアオくんの嫌味に顔も上げずため息をついた。
「うるせー疲れた、誰がゾンビだ、疲れた」
「かろうじて人のかたちしてるって感じです」
アオくんは淡々と返しながら、先輩の肩から鞄を外してやった。
「ごはん食べれましたか。米、残ってますよ」
「……とりあえず寝る」
「お風呂は?」
「とりあえず寝る」
「だめです」
ぴしゃりと言うと、先輩が半分閉じかけた目でこちらを見上げた。眉間が、くっと寄る。
「お風呂は入ってから寝たほうが回復しますよ」
「いや眠い」
「先輩のために、お湯張ったのに」
その一言で、先輩がほんの少しだけ黙った。
眉間のしわは深くなる。怒っているんじゃない。『先輩のために』という言葉に簡単にぐらついてるだけ。ぐらっときた、が、どうしても先輩は疲れていた。
「……いま風呂入ったら確実に溺れる」
「しょうがない人ですねえ」
流れるようにアオくんは先輩の腕を掴んだ。
先輩は「おい」と一応言ったけれど、言うだけだった。抵抗する気力も残っていないらしい。そのままアオくんが引っ張っていくと、いつもならもう少し文句を言うはずなのに、今夜は本当に足取りが重いだけ。
脱衣所に押し込んで、向かい合う。
先輩はまた壁にもたれて、目を閉じそうになっていた。
「立ってください」
「立ってる……」
「寄っかからないで、ちゃんと、ほら」
す、と近付いて、ネクタイを抜く。
アオくんの淡い色の瞳が間近で先輩を見つめ上げた。
しゅるりと布がほどけると、先輩の眉間のしわが浅くなる。ようやく少しだけ仕事の顔が剥がれた気がした。
そのままシャツのボタンを外していく。
「……おい」
「しょうがないから、介護してあげます」
袖を片方ずつ抜かせてシャツを落とし、肌着を胸元までめくり上げた。アオくんを見下ろす先輩の眉間のしわが、また深くなる。
「はい、ばんざーい」
「…………。」
「先輩、ばんざい」
観念したようだ。のろのろと、でも素直に先輩が腕を上げたのでなんだか可笑しくなった。いつもは人に指図するみたいな口をきくくせに、今日はもう、すっかりされるがまま。
先輩は何か言いかけていたけど、結局やめた。
アオくんがやけに機嫌よく、楽しそうにしていたからだ。
◇◇◇
ともだちにシェアしよう!

