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第5話 このまま解けてしまいたい

 結局ショーの準備で忙しかった樹は、渡辺に深く追求されることなくコレクション当日を迎えた。  今年はマスコミの量が半端じゃなかった。アイドル並みに人気のある若手モデルが出演していたことと、現役アイドルがモデルとして登場したから。  あまりの反響のよさに、来年もアイドル投入は決まりだなと誰もが思っていた。  そして樹は…僕は…来年も出れるのかな?と不安を抱えてショーを終えた。  このショーが始まったのは7年前。その時から7年連続で出ているけど…来年は無理かもしれない…と、若いアイドルたちを見て樹は思った。スキルも経験も自分の方が断然上だけど…それだけでは評価されない。これまでの経験で、痛いほどそれを知っていた。 「樹…どうした?暗い顔して」  打ち上げの時、西岡が声をかけてきた。 「いや…僕、来年も出れんのかなって」 「来年は大丈夫。すでにオファー来てるし」 「でも再来年は、わかんないですよね」 「だな。来年、今日と同じレベルの若手が出てきたら…再来年は保障できない」 「ですよね…」 「だから例の話、考えてみろよ。そっちなら知り合いるから」 「はい…前向きに検討してみます」 「それってノーって意味なんじゃ?」 「いえ、小難しく言ってみただけです」  盛り上がる主催者と若手モデルを尻目に、樹は打ち上げ会場を抜け出しタクシーで帰宅した。  ***  家に帰ると誰もいなかった。  ―渡辺さん、ここんとこ夜景の撮影ばっかって言ってたもんな…シャワーを浴びながら渡辺の言葉を思い出す。  “今日はケーブルカーから夜景を撮ったんだ。すごく綺麗だったぞ。樹にも見せてやりたかった”  “イルミネーションで囲まれた人口の島で…いつか一緒に行こうな”  ―会いたい…早く帰って来ないかな…明かりもつけず、リビングの床に座り込んだまま樹は考えた。  ―いつか渡辺さんが結婚したら…いくら“選びすぎて結婚できない贅沢な男”でも、40になれば焦るだろう。  渡辺は今38歳。あと2年。それは“いつか”ではなく、“2年という短い期間”だ。  ひとりぼっちで誰にも愛されず、仕事も減っていく…そんな日々に自分は耐えられるだろうか。それならゲイポルノでも何でもやって、寂しくならないよう毎日忙しくしていた方がいい。もしかしたら、それをきっかけに自分を愛してくれる誰かが見つかるかも知れない。  だけど…渡辺がいない生活は…想像もしたくなかった。  切なくなって膝を抱えていると、ドアの開く音がした。そして明かりが点される。 「樹?」  リビングに樹の姿を見つけた渡辺が駆け寄る。 「どうした?どこか痛いのか?」  樹が顔を上げた瞬間、渡辺が固まった。樹がボロボロと涙をこぼしていたから。 「樹…」  自分を見上げた後、再び膝に顔をうずめる樹を、渡辺が背中から抱きしめて顔を覗き込む。 「どうした?樹。樹?」  泣いている顔を見られたくなかった。だから放っておいて欲しかった。だけど、放っておけと怒鳴ってしまったら…そして本当に放っておかれたら…そう考えると何も言えず、涙がおさまるまで待つしかなかった。    ―どうしよう…渡辺さんが来るまで自分が泣いていることすら気づかなかったのに…  どうしよう、どうしようと考えていると、膝を抱えていた手がやんわりとはずされた。そして押し倒されるようにして床に横たえられ、抱きしめられた。 「渡辺さん…」 「どうした。言ってみろ」 「…切なくて…ただ、切なくなっただけ」 「最近、何かあるのか?」 「何もないけど…僕…愛されて抱かれてみたいなって…」 「え?」 「僕のこと好きで好きで、どうしようもないから抱きたいって言ってくれる誰かがいたらいいなって…渡辺さん?」  樹をギュッと抱きしめたまま渡辺が硬直している。  そして…突然、唇を重ねた。 「んっ…ん…はぁ…」  渡辺の舌が口腔を舐めまわす。苦しくなった樹が顔を離そうとすると、今度は舌を強く吸ってきた。唇を吸われ、再び入り込んできた舌が樹の舌に絡みつく。  ―どうしよう…気持ちいい…樹は朦朧としながら考えた。  そうしている間にも渡辺の手がシャツをたくしあげ、激しく素肌をなでまわす。首筋を胸を腹部を腰を、何度も往復していた手が下に向かう。 「はぁ…ダメ…ヤダ…」  ズボンに進入した手に下着の上から優しくなでられ、樹のものがすっかり熱くなっていた。そして下着ごとズボンを降ろされ、唇を離れた渡辺の口が、そそり立った樹のものに向かう。 「ヤダ…ダメ…」  樹の声を無視して渡辺が舌を這わせる。付け根を口に含んで強くすった後、丁寧に舐めあげる。  ―気持ちいい…もうイキそう…屹立をくわえられ、唇で激しくこすられているうちに、快感で頭が真っ白になってきた。  ―このままじゃ渡辺さんの口の中でイっちゃう。それだけは避けたい…そう思った樹は最後の抵抗を試みた。 「ダメ、もうイキそうだから…離して…」  頭を強く押し離そうとするが、腕に力が入らない。足を閉じようにも腰がしびれて動かない。 「ダメ…あぁ…あぁ…あっ」  全身が痙攣し、樹は渡辺の口の中でイってしまった。 「…ごめんなさい…」  自然に自分の熱を飲み込んだ渡辺の顔を見た途端、羞恥心が込み上げてきた。  喘いでいる自分を見られてしまった…渡辺だけには見られたくなかったのに。渡辺に淫らな自分を見られるくらいなら、カメラの前で全裸になる方がまだ恥ずかしくない。  渡辺だけには醜い自分を見られたくないと思っていたのに…たまらなくって体を起こそうとすると、強い力で床に押し付けられた。  いつの間にか泣いてしまった樹を、渡辺が戸惑ったような顔で見つめた。 「イヤか?」  そっと大きな手で濡れた頬を拭い、どこか切ない声で樹に問いかけた  ―イヤじゃない。そうじゃなくて… 「恥ずかしい…渡辺さんに見られるのが…」 「そうか…」  つぶやいた顔が少し微笑んでいる気がした。  樹を抱き上げ、電気が消えたままの部屋でベッドに降ろす。 「これなら見えない」  窓から入り込む街頭の明かりで、わずかに姿が見えるだけ。 「イヤか?」  ―イヤじゃない。だからもっと触って欲しい。  だけど、それを口にするのは浅ましい気がして…樹は必死で頭を横に振る。  額に優しいキスが落とされた後…突然、両足を持ち上げられた。 「うわっ」  慣れているにもかかわらず、不意をつかれて樹が声をあげた。 「足、自分で支えられるか?」  樹は膝の裏に肘をかけ、足を大きく開いて持ち上げた。  いつもしていることなのに…たまらなく恥ずかしい。暗くてよく見えないとはいえ、こういう格好をする自分を渡辺に知られるのが、たまらなく恥ずかしかった。  恥ずかしさに体を硬くしていると、渡辺の顔が双丘に入ってきた。そして縮こまった部分を舐め始めた。 「あっ…あぁ…ああ…はぁ…」  内部の進入した舌に内壁を刺激されると、背中に電気が走る。いつもなら快感に身を任せればいい。だけど今日は違った。  渡辺が自分のこんな部分を舐めていると考えるだけで…嬉しいような恥ずかしいような、申し訳ないような複雑な気持ちになる。  気持ちは複雑なのに、いつも以上に気持ちよかった。幸せだった。 「渡辺…さん…はぁ…あぁ…んんっ」  舌を離され指を入れられて、一瞬息がつまる。それでも慣れているせいか、スムーズに指を増やされた。 「っあ…そこ…」  “気持ちいいからもっと”と言いそうになって口を押さえた。  こんな卑猥なこと渡辺には言えない。喘いでいるだけでも十分恥ずかしいのに… 「あっ…あぁ…いい…ああ…はぁ…」  片手で硬くなったものをしごかれ、片手で内部を刺激される。両方から一度に快感を与えられ、樹の理性が消えそうになる。  ―気持ちいい…もっとして欲しいと思っていると、抜いて欲しくない場所から指が引き抜かれた。そして少し間があいた後、その場所に熱いものが押し当てられた。 「力抜いて…樹」  行為の前に優しくささやかれたのは、いつ以来だろう。初めての時、痛がる樹にセフレの隆志が言ってくれたのが最初で最後だった気がする。  なぜか涙がこぼれた。  そっと中に入ってくる渡辺。ゆっくりと、痛みがないように気遣ってくれているのがわかる。  こんなに優しく扱われたのは…それも初めての時以来だ。 「渡辺さん…」  胸が痛くなって名前を呼ぶ。 「どうした?痛いか?」 「…好き…」  思わず出てきた言葉に涙が止まらなくなる。渡辺も驚いたように息をのんだ。 「好き…抱きしめて…」  最後まで屹立を飲み込んだ樹に覆いかぶさった渡辺が、大切なものを包み込むようにそっと抱きしめた後、その腕にギュッと力を入れた。 「動くぞ」  耳元で優しくささやいた後、渡辺は幸福感と切なさに身を震わせる樹を抱きしめたまま、ゆっくりと動き始めた。  内部を満たす熱いものに、心も満たされていくようだった。  そして、激しく内壁をこする熱が切なさを溶かしていく。しびれるまで唇と舌を吸われながら、痛いほど胸の突起を舐められながら、速さを増す突き上げに樹の意識は薄れようとしていた。  ―幸せ…このまま解けてしまいたい…  乱れる息の中で激しく喘ぎながらも、樹は満たされた、安らかな気持ちになっていた。  ―渡辺さんと、ずっとつながっていたい…そう思っていると、自分の体が痙攣し熱を放った。そして渡辺が一瞬息をつめ、内部を満たしていた熱いものが引き抜かれた。  肩で息をしながら激しい喪失感に襲われていると、自分の欲望の後始末をした渡辺が樹の顔を覗き込んだ。 「大丈夫か?」  その優しい声に、たまらなくなって抱きついた。 「樹…」  このまま朝まで抱きしめていて欲しかった。優しく自分の背中をなでる手が永遠に自分のものになって欲しかった。  それなのに…そっと体を離した渡辺が、チュッと髪にキスをしてベッドを降りる。 「おやすみ」 「待って!」  渡辺が行ってしまったら、今晩は眠れない。切なくて苦しくて、体がバラバラになってしまう。 「一緒に眠って。今日だけだから…」  何かを考え込むかのように沈黙した後、ふーっとため息をついた渡辺がベッドに入りなおした。 「ヤバいのにな…」  苦しそうにつぶやいた渡辺は、樹を抱きしめたまま横になった。 「おやすみ。早く眠れ」  ―何がヤバいんだろう…疑問に思いながらも、優しく髪をなでる手に導かれ、樹はすーっと眠りに落ちた。

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