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第10話 バルドバール新装開店、結婚式なのに全員が求婚してくるんだが?

 バルドバールの新装開店は、予定より二週間ほど遅れてしまった。  それと言うのも、全て派手好きな薫のおかげだった。  蓮とバルドは旅から戻り、店を見て驚愕した。  キラキラネオンが輝く店の外観に、薫がいきいきと工事の指揮を取っていたからだ。  蓮は即座に工事を中止させ、不満そうな薫に、赤いオープンカーの鍵を返した。  オープンカーにはモミモの匂いが付いているが、あえてそのまま返す。  ネオンを外している間に、バルドと蓮は改めて結婚式をすると告知して、盛大に二人は祝われ、その後無事に店は再開した。  バルドバールに新しく出来た、特別室。  公爵様も利用出来るようにと蓮が造らせたものだ。  普段の店の雰囲気とは違い、少し緊張しながらもワインをサーブする蓮は、元宮廷ソムリエの格を十分に発揮していた。  今日のお客様は、九条院公爵。  バルドバールの改装に金を出してくれた人物だ。  何人ものSPが扉や建物の周りを取り囲み、室内には使用人が何人も追従している。  普段の接客とは全く違う世界に、バルドは緊張していた。  しかし、まだやらかしていない。  バルドが魔獣を討伐してくれたことに、公爵様から直々にお礼を言われ、多少緊張が解けているようだ。  コースのデザートも終わり、公爵様がワインを飲んで一息つく。 「美味かった。さすが腕のある料理人だな」 「ありがとうございます!」  バルドがバッと大きく頭を下げる。 「ソムリエの、蓮か。そなたも随分と腕が良い」 「ありがとうございます」 「して、この部屋に飾られている写真なのだがな……」 (まずい……)  特別室の壁には、数枚の写真が飾られている。  こういった部屋にはそれに相応しい写真や絵画を飾るものだが、バルドが飾りたいと言ったのは、結婚式の写真。  とてもアットホームな内装になってしまった。 (やっぱり今日だけでも外しておけば良かったか……)  蓮は今更ながら焦るが、公爵様は食事の前から気になっていたんだと話を続けた。 「君たちの結婚式だね。良い写真だ」 「そうなんです!とても賑やかで楽しかったんですよ!」 「そうか、写真からもそれは伝わってくるな」  意外にも公爵様には好評のようだ。  蓮はホッとしたが、続く公爵様の質問に身構える。 「それで、疑問なんだが……なぜ、指に菓子を付けている?しかもほぼ全員で。何かのしきたりか?」 「それでは、指輪の交換を」  神父役のクロップの言葉に、蓮とバルドは顔を見合わせた。 「準備、忘れてたな……」 「え、どうすんの?指輪無しで進める?」  クロップが進行表のページをめくりながら困っている。  バルドバールの庭に作られた即席の会場。  蓮とバルドの後ろでは、招待客たちがクスクスと笑っている。 「あらあら、じゃあ、これでどうかしら?」  バルド側の招待客の列から、バルドの育ての母、ヴァリアンがちょこちょこと前に出てきた。  手にはヴァリアン特製のドーナツ。 「子供の頃からバルドが好きだったのよ。お祝いに持ってきたけど、これがちょうど良いんじゃないかしら?」 「そうだな。今なら指にピッタリじゃないか」  育ての父のビルクも賛同する。  蓮はなんとも言えない表情をするが、バルドは嬉しそうだ。  介添人として立つチェシュは笑い転げ、同じく介添人の志岐が恥ずかしそうにそれを止めている。 「じゃあ、それで交換してくれ。ソムリエくんが色の濃いドーナツをバルドに、バルドが色の薄いドーナツをソムリエくんに。はい、交換!」  雑なクロップの指示で、バルドは蓮の指にドーナツを入れニカッと笑った。  蓮も、ひきつった顔でバルドの指にドーナツを入れる。  会場から、大きな拍手が湧き起こる。  蓮側の招待客の中で、蘭が大泣きをしているのが目立っているが、両親が微笑んでいるのを見て、蓮は少しホッとした。 「じゃあ、誓いのキスね。はいどうぞ」  クロップはやはり雑な進行で進めていく。  キスと言われて、バルドの動きが固くなった。 (あぁ、まずいな……)  全く緊張をしていなかったバルドが、急に意識したのか鼻息荒く蓮の肩を掴む。 「落ち着け。いつも通りで良い」 「キス……キス……」  蓮の言葉も聞こえていないのか、バルドの緊張したままの顔が近づいてくる。  仕方ないかと、蓮も目を瞑ると、会場の後ろから大声が響いた。 「待ったーーー!!!」  声を上げたのは薫だ。  さっきまで普通に参列者にいたはずなのに、以前と同じような事を言い出した。 「その結婚待った!!僕はやっぱり蓮くんを諦めたくない。僕と、結婚してください!」 「なっ!」  バルドは蓮を抱きしめ、薫に警戒の視線を向ける。  薫は怯む事なく、バージンロードを歩いてきた。 「僕は蓮くんを幸せにしたい。そして、抱きたい。どうか、僕に抱かれてくれないか。一生幸せにするよ」  薫はストレートにそう言うと、蓮に跪いた。  蓮が引いていると、また声が上がる。 「そういう事なら、俺はバルドに抱いて欲しい!」  立ち上がったのは鉄だ。  しっかりした正装だが、ベルトは異様に長い。  バルドのところまで走り込んできて、土下座をした。  さすがにバルドも引く。 「待て、待て待て、お兄様は蓮を抱きしめたいぞ!」 「あら、それなら私もバルドさんに抱きしめられたことあります!」 「七子姉さんそれは言ったらダメだって」 「だったら、蓮は私とハグをしよう」 「あらあら、ルビィちゃんたら。でも良いわね、私もハグしたいわ」 「そちらのお母様方がそうなら、私も子供の頃のようにギュッと蓮を抱きしめたいわ」 「私も、モミモ蓮ではなく……」 「なんだ、やっぱりバルドよりソムリエくんの方が人気あるな~」 「クロップさん、笑ってないで進行してください」  もはや何も関係のない人たちまで悪ノリで蓮とバルドを囲み跪いている。  クロップは楽しそうに尻尾を振りながら、俺はバルドに抱かれるかと笑う。  もう、収拾はつかなそうだ。 「あの、あ、あの、私は、蓮さんにしょ、しょ……」 「それ以上言っちゃダメだ!大事にしなさい!」  蓮は跪く人達の端で、小さく可憐な声を出す翠を慌てて止める。  二人を取り囲む人達も、この状況にクスクスと笑い始めた。  バルドも緊張が解けたのか大きく笑い出す。 「ははっ、楽しいな!」 「楽しいかよ。どうすんだこれ」  蓮が困ったように眉を下げると、一際大きい体が近づいてきて、蓮は嫌な予感がした。 「よし、任せておけ。みんな、少し頭を冷やしたらいいな!」  そう言って、ノーティスが大きな水球を作る。  それを高く上げると、ざぁっと勢いの良い雨が降ってきた。  招待客もろとも全員がずぶ濡れだ。  ノーティスは豪快に笑い、その笑いは全員に伝染して、ついに蓮も吹き出した。  笑いながら、蓮はバルドを見上げる。  大きく口を開けて笑うバルドが、愛おしく、こんな時間がずっと続けば良いと思った。  バルドの首に腕を回すと、気付いたバルドが蓮を抱きしめる。  そのまま、勢いでキスをすれば、会場から拍手と歓声が上がった。 「なるほど、楽しいパーティーだな」 「はい、とても楽しかったです!」  興奮気味に結婚式の話をするバルドを不敬と思わず、にこやかに公爵は聞いてくれた。  馬車まで送り、頭を下げる蓮に、公爵はそっと耳打ちする。 「国王様は、君が宮廷を出たことを悔やまれていた。今度、ここに招待してもいいか?」  蓮は、出てきた名前に背筋を伸ばした。断ることなんてできるわけがない。 「承知いたしました」  蓮の返事に公爵は満足そうに笑って馬車に乗っていく。  蓮は顔色が悪いまま、馬車を見送った。  馬車が見えなくなり、ふっと力を抜いて、その場にしゃがみ込む。 「蓮?どうした」 「国王様が、食事に来たいってよ……」 「こっ!?」  固まるバルドを見上げ、また不安になる。  国王相手に何を出せば良い。  バルドもきっと同じ事を考えているのだろう。  目を泳がせながら、何か味を想像している顔だ。 「れ、蓮……」  しゃがみ込む蓮に、バルドは真剣な顔で手を差し出した。 「ベッド、行かないか」 「…………それだな!」  新メニュー開発には、舐めるのが一番。  バルドの手を握った蓮の手首には、シルバーのバングル。  そのまま蓮を抱き上げて、機嫌良くバルドは尻尾を振る。  蓮とお揃いのバングルがシャラリと音を鳴らした。 ー【外伝】噂の屋台とバルドのルーツ編 完 ー

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