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第1話

2018年8月×日 ―― 「じゃあ30分ほどしたら戻りますので、しばらく待機でお願いします」 マネージャーの早見がそう言って楽屋から足早に去り、皇奏(すめらぎかなで)は腰掛けていたソファから静かに立ち上がり、入り口のドアの鍵をカチャリと閉めた。 冷泉和水(れいせんなごみ)はそれに気付いていながらも、奏には視線も向けず、ただ手元の携帯に目線を落としている。 楽屋には奏と和水、2人きりだ。 奏が和水の隣に腰掛けた。 そうして奏はストンと頭を和水の肩に落とし、和水の携帯の画面を覗きながら尋ねた。 「何見てんの?」 和水はそれにぶっきらぼうに答える。 「…漫画」 「なんの?」 「…お前に言っても分かんないだ…」 和水がそう話し終わる前に、奏は和水の首に手を回して和水を強引に引き寄せ、唇を重ねた。 それは次第に深くなり、奏が和水の唇を舌で舐めとるようになぞった時、和水は抵抗するように奏の胸を腕で強く押し返したが、奏はそれに構わずキスを続ける。 「…ちょっ…」 「何?」 「…人…来るって」 「鍵、閉めたけど」 そう言って奏は和水の携帯を奪い取り、そっとテーブルに置いた。 その間も奏は和水に触れたまま、キスを繰り返していた。 静かな楽屋には2人の吐息とリップ音が微かに響いている。 奏は和水のシャツに手を忍ばせ、和水の腰元から背中をツーっといやらしく撫でた。 すると和水は不機嫌そうに尋ねた。 「…ここで…すんの?」 「ん?しないよ」 すると和水はさらに不機嫌そうに言った。 「…じゃあ触んな」 そう言って和水に強く押し返された奏は、なんとも嬉しそうにニヤリと笑って、自分を押した和水の腕を掴んで顔を寄せ、じっと和水の目を見据えながら意地悪く尋ねる。 「…するなら触っていいんだ?」 和水はその問いには答えず、キッと奏を睨み、言った。 「…昨日来なかったくせに」 奏はさらにニヤリと笑って尋ねる。 「怒ってる?」 「…べつに」 「…何、寂しかった?」 そう尋ねながら和水の頬を撫でている奏の手を邪魔そうに振り払い、和水は逃げるようにソファから立ち上がった。 が、奏は和水の腕を素早く掴み、強く引いた。 和水はふらりとよろめいてソファに沈み込んで、奏は和水の上に跨るようにして、再び和水に唇を重ねた。 和水は小さく抵抗するようにもがいたが、それはまるで意味をなさなかった。 奏が和水の首筋に吸い付くようにキスを繰り返す。 時折舌で撫でるたび、和水は小さく吐息を漏らした。 和水は途切れ途切れに、再び不機嫌そうに言った。 「…や…めて…って」 しかし奏は動きを止めず、和水の身体に唇を落としながら言った。 「昨日は撮影が押して行けなかった」 「…んっ…じゃあ連絡くらい…しろ…よ」 「んふ…前は"来ないなら連絡もよこすな"って怒られたけど」 「…は?…それは…来る気ないくせに"会いたい"とか…意味ねえLINEしてくるから…だろ」 そうして奏が和水のシャツのボタンに手をかけた時、和水は再び奏を自分から引き剥がすように強く押し返した。 睨みつける和水を奏はじっと見つめ、そうしてそれまで浮かべていた笑みを落とし、静かに言った。 「…ごめん でもすげー会いたかった …だから今日…会って…触りたくて我慢できなかった」 和水は奏のその言葉に表情を変えることはなく、冷たく言い放つ。 「…重い、退いて」 奏はその言いつけを素直に受け入れ、和水の上から退き、そうしてまた、和水の隣に静かに腰掛けた。 はだけたシャツを治しながら、未だ不機嫌そうに和水は言った。 「…てか…別に会ってるだろ、毎日 …同じグループなんだし」 「2人で会いたい」 「……あっそ」 そうしてしばらくの沈黙ののち、再び和水は口を開いた。 「…今日は?」 「…え?」 「…だから…今日は来んの?って」 ぶっきらぼうに目線もくれずそう尋ねてきた和水に、奏は思わず口角を上げた。 その様子をチラッと横目で見て、和水は言った。 「…何笑ってんの、キモい」 「いやあ…可愛くて」 「…は?」 「可愛い」 「…キモい、しね」 そう吐き捨ててテーブルに置いた携帯を乱雑に掴んだ和水の腕を奏は掴み、また和水を強引に引き寄せ、息がかかるほどの距離で言った。 「…行く 今日」 すると和水は吐き捨てるように言った。 「……あっそ」 そうして奏がニンマリと笑ったのを見て、再び和水はキモい、と吐き捨て、不機嫌そうに携帯を開き、先ほどまで読んでいた漫画アプリを開いた。

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