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第2話
「え?!2人で待たせてんすか?」
そう声をあげたのは、vanillasの最年少メンバーの鈴木王大 だ。
それに続き、同じくメンバーの望月遼太郎 が声を上げる。
「ヤバくない?行ったら殴り合いとかしてんじゃないの?」
するとリーダーである朝比奈楽 が言った。
「いやいや、一言も話してないっしょ、どうせ」
「俺は”行ったらどっちも楽屋にいない”に一票だな〜」
そう笑ってメンバーの川村李太 が言うと、それだわ!正解!と他3人も一斉に笑い出した。
vanillasとは、大手芸能事務所カモミレカンパニーが運営するアイドルプロジェクト「DaisyProject」に所属する、6人組のボーイズボーカル&ダンスグループだ。
メインボーカルに皇奏、冷泉和水の2人を据え、メインダンサーとしてリーダーの朝比奈楽、鈴木王大、川村李太、望月遼太郎の4人、計6人で構成されている。
結成から3年、デビューしてからは約1年ほどだが、vanillasはすでに多くのファンを獲得し、業界内でも確かな実力派として評価され始めている。
特に人気を得ているのはボーカルの皇奏、冷泉和水の2人で、この日も朝から2人それぞれの個人仕事の後、午後からはvanillasのグループ仕事が予定されていた。
マネージャーの早見は2人を先に午後の撮影スタジオに送り届けた後、ダンサーメンバーの4人をピックし、再び撮影スタジオに向けて車を走らせていた。
そんな車内では奏と和水の話題で持ちきりであった。
鈴木が不思議そうに言った。
「てかさ、何であの2人ってあんな仲悪いんだろうね?俺、喋ってるとこ見たことないや」
すると川村が言った。
「てか知ってる?SNSとかでも不仲説!みたいな感じで言われてんの」
「あー俺も見た、それ!メイキングVとかで一言も喋ってないのとか…MCでも全く絡みないしね、2人は」
「裏の感じバレちゃってんだよな〜」
「もう大人なんだし上手にやってくりゃあいいのにな」
すると望月が不思議そうに言った。
「そういやさ、朝比奈は2人と同じスクール通ってたんじゃなかったっけ?」
「あー、うん」
「昔からあんな仲悪かったの?」
すると朝比奈はいや、と少し躊躇うように声を発した後、言った。
「昔は…普通に…ってか…結構…というか…
ずっーと2人でいるくらい、仲良かったけどね」
「「「え?!」」」
そうして揃って大きな声を上げた他メンバーが真相を知ろうと矢継ぎ早に朝比奈に質問を投げかけている最中、マネージャーの早見がそれを制するように声を上げた。
「はい、もう着きますんで準備してくださいよ」
その一声に4人は素直にはーい、と返事をし、再び話題は"奏と和水が楽屋で今どうしているか"の予想に戻った。
結局4人の結論として、"2人とも楽屋にいない"が選ばれ、車がガレージに止まった後、ふと望月遼太郎がマネージャーの早見に尋ねた。
「ねね、早見さんはどう思います?」
すると早見は小さくため息をついた後、ぼそっと言った。
「大人しく2人で楽屋で待ってくれてると思いますよ」
メンバーは早見の発言にえ〜?と口々に声を上げた。
すると望月が早見にニヤリとしていった。
「じゃあ、早見さんと俺らで賭けっすね!メシ奢りで!」
「…はいはい、分かったから、早く出てください」
そうしてメンバーら4人と早見は楽屋へ向かった。
――
4人とマネージャーの早見がスタジオの楽屋に着くと、早見の予想が的中、2人は大人しく楽屋にいた。
皇奏は鏡のついたテーブル前の椅子に腰掛け、冷泉和水は携帯を眺めながら楽屋中央のソファに沈み込んでいる。
「おはよう」
奏が楽屋に入ってきたメンバーらにそう声をかけると、メンバーらは若干不服そうにそれに返した。
「…え、何?何で機嫌悪いの?」
「いや、そんなことないけど、賭けに負けたから」
「…賭け?」
不思議そうに尋ねた奏に、マネージャーの早見はメイク室へ行くように声をかけた。そうして奏は素直にメイク室へ向かった。
奏が楽屋から出ていくと、メンバーらは再びおはよう、と和水に声をかけた。
すると先ほどまでメンバーらに見向きもしなかった和水が顔を上げ、ふにゃりと笑って挨拶を返した。
「はよ〜」
これはいつものことだ。
和水は、奏がいる時にはほとんど言葉を発せず、にこりとも笑わない。仕事では流石にそんなことはないが、それでも表であっても奏と話すことはない。結成から3年、ずっとだ。流石にそんな様子はファンにもバレてしまっており、ファンが増えていくにつれ、奏と和水の不仲説の噂は大きくなっていっていた。
和水の隣に腰掛けた川村が尋ねる。
「何?何読んでんの?」
「ONE PIECE」
「え、ワンピ?和水読んでたっけ?」
「いや、昨日から読み出してさ」
「今どこ?」
「ウォーターセブンんとこ」
「え…?昨日からだよね?…早くね?」
「あーうん、寝ずに読んだから」
「はは、ハマりすぎだろ!何、寝れなかったの?」
「……まあ」
そうして他メンバーも漫画の話題に興味を示し、和やかに会話を交わす。
そして話題がひと段落した後、チラリと川村が望月に視線をやってから、なんともないように尋ねた。
「てかさ、和水ってなんで奏と仲悪いの?」
すると和水の表情が一瞬で固くなるのがわかった。
楽屋の空気が一変してピリッと張り詰めた。
和水は質問を投げかけた川村にじっと視線を合わせ、しかし何も答えずただ少し睨みつけるように見ていた。
それに耐えられなくなったのか、川村は咄嗟に口を開いた。
「…あ、いや、別にいいんだけど」
すると和水は先ほどまでの柔らかい口調が嘘のように、冷たく言い放った。
「…じゃあ聞くなよ」
「…そっ…すね、いや…ごめん」
和水は立ち上がり、そそくさと楽屋の出口へ向かった。
そうしてドアに手をかけ、部屋から出る間際、吐き捨てるように言った。
「…別に悪くねぇし」
そうして和水が出てドアが閉まった後、川村は張り詰めていた緊張を解くように息を吐き出して、言った。
「…いや、なんの強がり…?明らかに仲悪いだろ…」
そう呟いた川村にメンバらーはお前が悪い、と口々に声をかけた。
そして朝比奈が言った。
「触らぬ神に祟りなし、っすよ」
そうしてなんともない話題に会話がすり替わり、いつもの日常がまた始まった。
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