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第7話

「…着いてくんな」 早足で逃げるように歩いていく和水の後ろを、奏も足早に追いかける。 「…着いてくんなって言ってんだろ!」 そう大きな声をあげ、和水が振り返った。 奏を睨みつけているが、それは怒りに満ちた顔というよりは、ひどく苦痛に歪んだ顔のように見えた。 奏は言った。 「…お前が行く方向が俺と一緒なだけだ 着いて行ってない」 「……チッ…」 そう舌打ちをしてこれまでと逆方向に歩きだした和水に、再び奏は着いて歩く。 「…だから…着いてくんなって言ってんだろ!」 そう背中越しに叫んだ和水の声は先ほどよりも揺れて歪んでいて、力無い。 葬儀場からは随分と離れたところに来ていた。 奏は歩き続ける和水の腕を掴んだ。 和水はそれを振り払おうと腕を振るが、奏の力には叶わず、立ち止まった。 肩を小さく振るわせ、和水は言った。 「……離せ」 しかし奏はそれに応えない。 すると弱々しく、和水は再び言った。 「……離して…痛いから」 奏はハッとして、手の力を緩めた。 奏の腕からするりと抜けた和水の腕は力無く和水の元へ返った。 自由になった和水だが、再び歩き出すことはせず、ただ肩を小さく振るわせていた。 乱れた髪で表情が見えず、奏は一歩和水へ歩み寄った。 そうして奏の靴と地面の砂利が擦れる音と一緒に、和水は言葉を発した。 「…なかった」 「え?」 「ほとんど使ってなかった 送ってた金 もう4年も送ってんのに…最後の3ヶ月だけ…病院入ってからしか」 「…」 「延命も治療も全部断ってたって…そんな金ねえって、最低限で良いって…じゃあなんのために俺…送ってたわけ?」 和水は震える小さな声で吐き出し続けた。 「…あのクソジジイから貰った指輪とか…なんも残ってなくて…家の物も…なんもかも…多分…全部売って…。俺が来たら通帳渡せって…意味…分かんねぇ…遺産のつもりか知んねぇけど……けど…俺は…俺が送ってたのは……」 そうして震えて俯く和水の髪で隠れた顔から、キラキラと雫が雨のように零れ落ちた。 奏はたまらずに、和水を強く引き寄せ、抱きしめた。 それに抵抗することはせず、和水は震えながら奏の腕の中で話し続けた。 「……ろくに買い替えもしなかった…ボロボロの…服を買い換えれば良い…とか………窓も閉まんねぇあの家……引っ越せば良い…とか……たまには…ろくなもん…食えば良い……とか………そういう………俺のせいで……出来なかったこととか……そういうのを…すれば良いと思って……だから……だから………なのに…何も……何も……」 吐き出すようにそう話し、次第に大きく嗚咽を上げる和水に、奏は何も言えず、ただ強く抱きしめた。 「……いちいち……毎日…毎日毎日毎日毎日…くだんねぇメールばっか…送って…来て……っ…!…俺…知らなかった……入院してたとか……知らなかった……っ……俺は…何も……あの人の役に立てねえで……迷惑しか…かけねえで……俺が生まれてきたせいで……俺のせいで…っ…」 その時、奏の携帯の着信音が大きく響いた。 和水も奏もその音にびくりとして、しかし奏が着信を無視していると、和水が奏を強く引き剥がすように身を捩り、2人は離れた。 奏は携帯を取った。 「…はい」 『どこにいる?』 「…ちょっと歩いたところに」 『和水も一緒ね?』 「はい」 『どうする?』 電話先の霧峰のその問いに、奏は和水に視線をやった。 和水は俯いて、その場に留まっている。 奏は言った。 「明日の朝に…また連絡しても良いですか」 『…分かったわ 何かあったらすぐに連絡して』 「はい」 そう言って奏は電話を切り、和水に言った。 「…行くぞ」 その声に、和水はほんの少しだけ、顔を上げた。

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