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第6話
事務所でしばらく過ごした後、和水、奏、早見、霧峰は再び葬儀場へ向かった。
通夜にはその4人の他には、誰もいなかった。
そうしてあっという間に通夜式を終えて4人が部屋を出ると、どこか見覚えのある男性がこちらに向かい歩いてきた。
その男性の視線が和水を捉えた時、男性はふっと微笑んだ。
そうして和水の前に立ち止まり、その男性は言った。
「久しぶりだね、和水」
そうしてその男性の視線は霧峰に移り、にこやかに霧峰に声をかけた。
「息子が世話になってるみたいだねえ、良く話を聞くよ 相変わらず腕が良いね」
霧峰はスッと頭を下げ、言った。
「ご無沙汰しております。南雲さんも随分ご活躍で…」
「あはは、いやいや、もう余生だよ」
そうしてカラッとした笑い声を上げた男性と和水を早見は思わず見比べた。
言われると確かに、面影があるのが分かる。
南雲俊樹 。
日本人なら誰もが知る、日本を代表する大物俳優だ。
しかし早見は密かに眉を顰めた。
和水を"息子"と言った南雲は、何十年も前に女優の吉瀬幸子と結婚し、未だ芸能界きってのおしどり夫婦として有名だからだ。
吉瀬との間に子は居ないはずだ。
そうして南雲はまた和水に視線を移し、言った。
「和水、何か困ったことがあれば言いなさい、力になるから」
そう言って和水の肩に置いた南雲の手を、和水は強く払い除けた。
そうして南雲を睨みつけ、吐き捨てるように言った。
「…どのツラ下げて来てんだよ」
すると南雲は片眉を上げ、そうしてその後大きな声を上げて笑って、言った。
「あっはっははは…良い顔するじゃないか、俳優としてもこれから芽が出そうだ 奈美子は天国で喜ぶだろうね」
「…呼ぶな」
「なに?」
「…あの人の名前を気軽に呼ぶな」
「あの人?奈美子のことか?あはは、お前は変わったことを言う…」
そうして南雲が笑ってそう言い終わる前に、和水は南雲の胸ぐらに掴み掛かった。
咄嗟に奏と霧峰、そして早見は和水を抑えるが、3人がかりでも止められないほどの力で和水は南雲につかみかかっていた。
そうして和水は叫ぶように言った。
「どのツラ下げて来たかって聞いてんだよ!好き勝手に孕ませて産ませたくせに認知すらしねぇで一銭も養育費すら払ってねぇくせに…!」
「和水!」
そうして霧峰が声を上げるが、和水は聞く耳を持たず、南雲に食ってかかる。
すると南雲は言った。
「奈美子が望んだことだ」
「はあ…?…そんなの本心じゃねえってガキでも分かるだろうが…!お前の…下らねえキャリア傷つけないためにそうするしか無かったんだろ…?!」
「それでも奈美子がそう言ったんだ、僕は奈美子の意思を尊重したまでだ」
「てめぇ…っ!」
「奈美子は優しくて…聡明な女性だった もう会えないのが惜しいよ」
「…黙れ…黙れ!お前に何が分かんだよ…っ…!ろくに会いにも来ないで…っ…何言って…」
そうして叫び声にも似たような声で主張する和水の声を切り裂くように、南雲が低い声で凄むように言った。
「君だってそうだろう」
その言葉に、和水の力が一瞬緩んだのが分かった。
「…っ…!」
「家を出てから一度も顔を見せなかったらしいじゃないか」
そう言って南雲は和水の腕を振り解き、乱れたスーツを直しながら言った。
「僕が最後に看取ったんだ …最後まで和水を案じてたよ」
荒く息を吐き、和水はただそうするしかない、と言った様子で南雲を睨みつけた。
そうして南雲はじっと和水を見つめ、徐に手を伸ばし、和水の頬をその手で優しく撫で、微笑んで言った。
「僕の若い頃にそっくりだな …奈美子は嬉しいだろうなあ」
和水はその手を振り払うこともせず、ただ南雲を睨みつけた。その肩は小刻みに震えていた。
「じゃあまたいつか、近いうちに」
そう言って南雲が歩きだした時、和水は震える小さな声で言った。
「…俺はお前の息子じゃない
…俺の親はあの人だけだ」
そう言って和水は足早に葬儀場から出て行った。
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