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第2話 六年前の出逢い
世界には、男女の性の他に第二性というものが存在する。かつて滅亡の危機にあった人類が生き残る為に生み出したという第二の性……α、β、Ωという性が。そして、女性のみが可能だった妊娠出産を全ての人類……つまり男性も出来るようになった事で、人類は滅亡の危機を脱したと言われている。ちなみに男性体の場合、胎児を育む子宮は直腸の奥に存在する。
確かに人類滅亡の危機は免れた。しかしその代償というべきか、平等であるべきはずの人類の間に格差が生まれてしまう。男女格差など比ではない、第二性による格差が——。
頂点に立つのはαの性を持つ者——。
容姿端正、頭脳明晰、あるいは文武両道が一般的なαへの見解。人類の二割がαである。
次にβの性を持つ者——。
βは最も人口が多く、人類の七割を占めている。いわゆる一般人。
最後にΩの性を持つ者——。
人類の僅か一割程度。特徴としては華奢な容姿。稀な性でありながら、彼らはその性質上、劣等種扱いされている。Ωには二ヶ月に一度『発情期』があり、その期間は常に性的欲求に侵されセックスする事しか考えられない『獣』になる。仕事はおろか日常生活すら困難になり、まともな職に就く事すら難しい。近年はΩ専用の発情抑制剤を服用して社会に出て働くΩも珍しくなくなったが、それでも完全に発情や漏れ出るΩフェロモンを抑制するのは難しいのが現状である。
そんな第二性が支配する世界に、俺は『Ω』として生まれた。そしてΩの俺は、そんな世界でαの大和と出逢った——。
俺の両親は共にβ。物心がつく前に亡くなった父も、十歳の時に亡くなった母も。父方の祖父はα、祖母はβ、母方の祖父母はβ。βの両親からはβしか生まれないのが一般常識だが、Ωの俺が生まれた。恐らく何代か前にΩ因子を持つ人がいたのではないかと、医者には言われたらしい。ΩはΩからしか生まれない為、間違いなく俺を産んだのが母である以上、父も祖父母も母の不貞を疑う事はなかったらしい。つまり、母はβだがΩ因子を持っていたという事だ。
Ω性の子供を育てるのは、実の親でさえ相当な覚悟が要るという。特に両親のどちらかがαだった場合は。まだ発情期が来ていない幼い頃はまだいい。しかし、発情期を迎えてしまったら? 発情期のΩを前に、血の繋がりなど無意味だ。血縁者は多少耐性はあるらしいが、それだってどれだけ信用出来るか判らない。
俺の家族の口癖は『Ωでも渚は渚だから』だった。誰ひとり、俺がΩである事を否定しなかった。
俺は母に、そして祖父母に大切に育てられた。覚えていないが、父も大層、俺を可愛がっていたという。
一歳で父を、十歳で母を亡くした後は、母方の祖父母が育ててくれた。ちなみに、事情は知らないが父方の祖父母とは没交渉らしかった。どうでもいいけど。
十四歳で発情期を迎えた俺を介抱してくれたのは祖父。母が、俺がΩだと分かった時からΩ性について調べて遺してくれたノートを頼りに。祖父母はたった一人の孫の俺を惜しみない愛情を持って育ててくれたが、高齢だった事もあり、俺が高校生の頃に持病が原因で相次いで亡くなり……。
俺は独りになった。愛してくれた家族はもう誰もいない。哀しかった。寂しかった。だけど…それでも立っていられたのは、愛し、慈しんでくれた家族との温かい思い出があったから……。
亡くなる前に祖母が学費を一括で支払ってくれていたおかげで、俺は無事に高校を卒業したが、在学中に就職先が見つからなかった為、卒業式の翌日から早速、職探しを始めた。正社員などと贅沢は言わない。パートでも構わないから、と探してはみたものの、現実は甘くないと知る。募集要項には高卒以上、未経験者歓迎と書かれているのに、いざ履歴書持参で面接に挑むも不採用。法的にはΩ性を理由に不採用とすると罰せられるから適当な理由をつけられるが、、Ωである事が理由なのは面接時の対応を見れば疑いようはない。
そうして何件も同じような理由で不採用が続き、半ば諦めかけていた頃に見つけたのが、βの夫婦が営む小さなカフェだった。
カフェのオーナー夫妻は俺をΩと知った上で面接したその場で即採用してくれた。決して賃金は高くないけれど、夫妻の人柄に惚れた俺は、出来るだけ長く、可能ならずっと二人の下で働きたいと、この時は本気で思っていたくらいだ。
働き始めて三ヶ月くらい経った頃、新しいバイトが入る事になった。専門学生でαだという青年を雇うにあたり、夫妻は俺に「大丈夫か」と確認を取ってきたが、大丈夫も何も俺自身が雇われの身なのだから何を言う権利もない。けれど俺を尊重してくれた事が嬉しかったから、彼らを安心させるように「周期は把握していますし、抑制剤を常備しているので大丈夫です」と答えると、翌日には初顔合わせがあり……。
そして俺は出逢ったのだ。
やがて恋人になる『一ヶ瀬大和』という青年と—ー。
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