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第12話 プロポーズ
目が覚めたら朝だった——。
ベッドの上に一人で寝ていた。大和の姿はない。
シングルサイズのベッドは間違いなく大和のだろうし、俺が小柄とはいえ男二人が寝るには狭いから、俺にベッドを貸して、大和はリビングのソファーで寝たのだろうか。
上半身を起こして自分の格好を検める。
スウェットの上下を着ていた。自分で着た記憶はないし、情事の名残りのベタつきも無いから、大和が俺の体を拭いて、着せてくれたのだろう。
相変わらずマメな性格だ。
昨日はソファーで一回抱かれた後、半裸のまま抱き上げられてベッドに移動して、更に何回も抱かれた。
離れていた六年分の時間を取り戻すかのように、何度も際限なく求め合った。
酷くして…と言ったのに、大和は始終優しくて……。俺が最中に何度も『お願い』したのに、聞いてくれなくて……。
六年間、誰にも開かれなかった身体。自分でも一度も触れなかった蕾は処女の様に固く閉じられていたが、大和は丁寧に解してから、相変わらず立派な自身の雄を俺の中に沈めた。挿入時のほんの少しの苦しさが過ぎれば、あとは快感の波に飲まれた。大和しか知らない身体は六年の歳月を経てもその形や熱を憶えていたかの様に、柔軟にその熱を受け止めた。
大和は、幸せ過ぎて泣きたくなるくらい、優しく抱いてくれた。気持ち良過ぎて俺が意識を飛ばして気を失う様に眠るまで、ずっと……。
ゆっくりベッドから出た俺は、少しだけ怠い腰を擦りながら、大和がいるであろうリビングに向かった。
リビングに入ると、大和はダイニングテーブルに朝食を並べているところだった。
「おはよ」
俺が挨拶をすると、大和が振り向いた。
「おはよう、渚。
ちょうど、起こしに行こうと思ってたんだ。
その……体は辛くないか?」
「ん……、へいき……」
「そうか。朝ご飯、食べるだろ?」
「食べる。腹減った。顔、洗って来る」
何故か返事が片言になってしまい、自分でも可笑しいと思ったが、大和は気にならないらしい。
「ゆっくりでいいからな」
大和の優しい声を背に、俺は洗面所に向かった。
朝食は洋食だった。
ハムチーズトーストに生野菜サラダ、茹で卵とコーヒー。
昨日は遅めの昼食を摂ってから何も食べていない。夕方、俺が誘ってセックスに雪崩込んだから……。
気が付いたら朝だった……。
そりゃあ、腹も減るだろ……。
空腹は大和も同じだった筈だ。
俺達は無言で食事を口に運んだ。二人揃って食べるペースは速くなり、あっという間に完食だ。
そして、俺が食後のコーヒーを啜っていると、大和が先に口火を切った。
「……渚、帰って来てくれないか?」
「……え……」
俺は手にしていたコーヒーカップをテーブルに置き、大和をしっかりと見据えた。
大和の言葉を聞いての驚きはない。言われるだろう事は予想していた。否、確信していた。
俺の返事を待たずに大和が続ける。
「俺は渚を愛している。六年前から変わらず渚を想ってる。そして、これは俺の自惚れではないと確信した上で訊くけど、渚も、今でも俺を愛してくれているんだろう?」
「……愛してるよ」
迷わず答えた。
俺の心は六年前から大和に捕らわれているのだから。
即答した俺に、嬉しそうに微笑んだ大和が手を伸ばす。
そして—ー。
「渚、結婚しよう」
突然のプロポーズ。
流石に瞠目したが、更に続いた大和の言葉は、それ以上に俺を唖然とさせるものだった。
「あの頃の俺は、二十歳になって学校を卒業したら渚にプロポーズして、もし渚が受け入れてくれたら『番』契約したいと思っていたんだ」
「……え?」
—『番』—
それは、αとΩの間のみで交わされる契約——。
発情期のΩの項を、同じくαの発情……ラットになったαが性交時に噛む事で成立する契約の事。
この番契約によりΩは、発情期の度に不特定多数のα…時にはβを誘うように発していた誘惑フェロモンが、番のαにしか効かなくなる。ゆえに、番になってくれるαを求めるΩは多い。誰彼構わず誘惑し、いつ強姦されるとも判らない不安な日々を常に送らざるを得ないΩにとっては、夢のような契約なのだろう。
しかし、番契約は永遠を約束するものではなく、αからなら一方的に解除出来るもの。しかも、複数の番を持てるαに対して、Ωは番を解除されてしまっても、他のαとは番えない。性交も出来ない。
再び発情期には誰彼構わず誘う誘惑フェロモンを発するようになり、それでもαとは番えず、抱いてもらって抑える事も出来ないのだ。無理に交わろうとすれば、酷い拒絶反応に苦しむ事になるのだから。つまり、番を解除されたΩは辛い発情期を独りで堪えなければならず、そうして少しずつ心を病み、壊れていく……。
『番』とはαにとっては替えのきく軽い存在かも知れないが、Ωにとっては唯一無二の存在ー。たとえその時は深く愛し合っていたとしても、いつかは愛情が失くなるかも知れない。αが飽きてもし捨てられたら、Ωは辛い発情期を抱え、孤独に生きていくしかない。だからこそ、一生番は作らない、と決めているΩもいる。
俺のように——。
「大和、ありがとう。こんな俺でも愛してくれて。俺、自分の事ばっかで、大和の気持ちを考えられなくて、たくさん傷付けて…」
「でも、渚も俺と同じくらい…否、それ以上に傷付いただろ? だから、もういいんだ。俺は進みたい。渚と一緒に、前に進みたい」
「…………」
穴が開くんじゃないかというくらい見つめてくる大和の目から逃れるように、俺は俯いた。
ちなみに、手は握られたままだ。
「結婚しよう。番になってほしい」
今一度プロポーズしてくれた大和に、俺は……。
「……出来ない」
首を横に振りながら言った。
「……っ! ……どうして……」
俺は俯けていた顔を上げた。
「大和、俺な、今、Ω男子専門の児童養護施設で住み込み職員として働いてるんだよ」
「……え?」
一瞬、俺が何の話をしたのか解らなかったのだと思う。小さく声を上げ、変わらず凝視してくる大和を見つめ返しながら、俺は語り始めた——。
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