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第11話 優しくしないで……
途中、言葉をを詰まらせ、ながらも、俺は『六年前』の真相を語った。
ふと窓の外を見れば、随分と陽が傾いている。
大和の家に帰り着いたのは午後三時過ぎ。
帰りの道中に立ち寄ったコンビニで買ってきた弁当で遅めの昼食を済ませてから話し始めたから、一時間以上は話していただろうか。
俺が話している間、大和は一言も言葉を挟まなかった。だから俺も、『全て』を偽る事なく話せた。
長年一人で抱えてきたものを吐き出せた事に、安堵感さえ覚えた。
だからといって、過去をなかったことには出来ないけれど……。
「……ごめん……」
「……それは何に対しての謝罪?」
「…………」
何に対して……。
そんなの……。
大和に妊娠した事を直ぐに報せなかった。
結果、大和の知らないところで赤ちゃんを死なせてしまったこと……。
後悔したって遅いけれど、『あの日』から後悔ばかりだ……。
「……っ、ごめっ……なさっ……」
謝りながら俺は泣いた。
泣く資格なんかないのに……。
そして、改めて思う。
大和の子供を産みたかったのだ、と。
本当に今更だ。もし妊娠が判った時に直ぐに大和に連絡していれば、結果は違ったのだろうか。
結婚して、未熟な二人だけれど力を合わせて子供を育てて、そして……。
そんな無駄で、今更無意味な事を考えてしまう自分がイヤになる。
どんなに涙を流しても、失われた『命』も、六年という歳月も、二度と戻らないのに……。
「渚」
不意に大和に抱き寄せられた。
ひどく優しい手付きで抱き締められ、必然的に埋めた大和のシャツの胸元を、俺の流す涙が濡らす。
「……ごめんな。意地悪な言い方をした。辛かったな。ずっと一人で抱えてて……。
後悔したって遅いけど、六年前のあの時、俺も物分かりのいい振りなんかしないで、心配なら……会いたいなら、会いに行けばよかったんだよな。本当は渚の発情期中、独りで耐えている渚が心配で、いつも会いたいと思ってた。けど、俺はαだから会いに行ったら余計に苦しませるだけだと思って、いつも我慢してた。
ごめんな。一人で抱えさせて……」
大和の懺悔の言葉に、顔を上げて激しく首を横に振った俺。
「ちっ……違うっ……! 俺が……!」
大和は何も悪くない。それだけは確かな事。
全ては俺が一人で突っ走った結果なのだから。
既に俺の涙は止まっていたが、きっと再び泣きそうな顔をしていたであろう俺の頬を、大和が大きな手で優しく包み込んだ。
「もう止めよう、渚。
どっちが悪いとか、何が原因だとか、そういうのはさ。過ぎた時間は戻らないのに、思い出して傷付いたり、傷付けたり……。
俺、そんなのはイヤだよ……」
「…………」
すぐには応えられなかった。
だって自分は赦されない事をした。『二人の子供』なのに、自分だけが傷付き、自分だけが悪いと思い、大和に黙って姿を消したのだから。
大和に全てを打ち明け、共に考え乗り越える事だって出来たのに、俺は『逃げる』事を選んだ。
恋人が消えた大和がどう思うかなんて、少しも考えず……。
真実を何も知らなかった大和が、今でも俺を『愛してる』なんて言うから、俺は全てを話すと決めた。話して、大和からどんなに酷い罵詈雑言の言葉を吐かれても、甘んじて受ける覚悟で全てを……。
たとえ本当の訣別になるのだとしても……。
それなのに……。
「……出来ないよ」
漸く口から出たのはそんな言葉だけ……。
「どうして……」
「……っ! だって俺っ……、大和に酷い事して、いっぱい傷付けてっ……!」
叫ぶように言葉を吐く俺の背中を、大和が子供をあやすように撫でた。
「……そうだな。渚がいなくなって辛かったよ。悲しかった。その時に気付いたよ。渚のこと、俺、何も知らないんだなぁ……って。
俺、いっぱい泣いたよ? いっぱい泣いて、泣いて立ち止まっていても何も変わらない事に気付いて、それからは必死だったなぁ…。学校卒業して、早く一人前になりたくて……」
大和、泣いたのか……。
俺、大和を泣かせたのか……。
「……大和の赤ちゃん……死なせて……」
これが俺の一番大きな『罪』——。
「渚」
優しい声音で呼ばれ、やんわりと抱き込まれる。
「……もういいんだ…。もう、いいんだよ……」
「……っ……!」
痛い……。胸が張り裂けそうなくらい痛くて……。
俺は救けを求めるように、大和の首に腕を回して彼の耳元に唇を寄せた。
そして、吐息を吹きかけるように囁く……。
「……抱いて」
「っ……! なっ……渚っ!?」
擽ったかったのか、感じたのか、はたまたその両方か。どちらにせよ、驚いたらしい大和が咄嗟に俺を引き剥がそうとするけれど、俺は離されまいとしっかりと大和にしがみつく。
「どうして怒らないのっ?
どうして赦そうとするのっ?
優しくしないで……。優しくされたら俺……。
ねえ、酷くしてよ……。乱暴なくらいに抱いてよ……。お願いだから、優しくしないで……」
俺は懇願する。
優しくされるくらいなら、いっそ、壊れるくらいに傷付けて欲しい。
優しい大和に、そんな残酷な事を懇願する。
「渚……」
この時の大和の心情は計れない。
大和は俺をそっとソファーに横たえると、ゆっくりと覆い被さってきた。
大和の顔が近付いてきて、俺は瞼を伏せた。
そっと重なる唇。
俺達の、六年振りのキス——。
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